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いじめられっ子、世にはばかる 〜英雄に憧れて〜  作者: 十三夜
第6章 豊穣神と使徒たち
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月神


 太陽が沈み、世界が闇へと包まれていく。

 しかし、これは世界が停滞する時間ではない。

 あくまでも、次の日の為に力を貯める時間。

 再び、太陽の下で活発な生活をする為の準備の時間。

 走り続ける事ができない世界が、ひと呼吸ついて、もう一度走り出す為の予備動作。

 溜まった疲労を捨て去って、また元気に動き回る為の助走期間。


 そう、輪廻を司る月神の支配する夜という時間、空間とは、神も人も精霊も、何もかもが再び立ち上がるために過ごす4次元ともいえる場所。

  

 そこに5次元、6次元と、時間も場所も交わらないはずの線が交わることがありえる場所――



           ♢



 月神は、自らと一緒に産まれた太陽神、海神に対して、一歩引いたところから見るようにしている。


 女神、男神という男女のさがか、この世界の絶対神である3大神の間にあって、いつからかお互いを意識し合うようになっていた。


 月神自身は、あまりそういったものに囚われる事はない。3人が同時に産まれたこともあり、丁度その間をとるような性格である。いや、性別といったら良いだろうか。



 太陽神テラは、誰もが美人と認める女神である。その笑顔は、まさに太陽の名を表すような眩しい笑顔。彼女の笑い声は他を魅了し、その立ち振る舞いに、皆、喜びを感じる――


 そんな太陽神は、中性的な美男子である月神スサに対して、恋慕の情を抱くようになった。


 しかし、月神は、そういった感情に乏しく、まさに中性。女も男も等しく愛し、しかし、その愛とは恩愛に似た、親が子を思うような愛。慈しみと呼んでもよいだろうか。つまり、男女の愛とは全く違う代物であったのだ。



 そんな月神に比べて、もう一人の三大神、海神スサは正に男神。力強い肉体を持ち、最強の戦神でもある。そんな海神は男として、明らかに女神である太陽神テラに対して男女の愛を感じて、彼女に寄り添っていた。


 太陽神は、月神を。海神は、太陽神を。


 歪な3人の関係は、本来、それぞれを牽制し合うべき所を、どうしても偏りのある力関係を作り出してしまった――



「なんだお前、テラのやる事に、なんか文句あるのか!?」


 ある時、太陽神の司るプロジェクトに対し、不満を述べ、改善を求めにきた相手に、当事者である太陽神ではなく、その隣にいた海神が激怒してしまった。

 それは、自らの仕事を否定され、動揺する太陽神を庇うものだったのか――、それとも盲目的に全肯定してしまっている太陽神を貶められた事への怒りだったのか――。


 おそらく、どちらもが当てはまるであろう、海神の苛烈な行動によって、太陽神の間違いを正してくれる諫言を、彼女から遠ざけてしまった。


 月神も、太陽神の行っている『楽』プロジェクトというものが、多くの種族たちの衰退を招き、徐々に悪い方向へと進んでいる事に気づいた為、その諫臣と共に彼女を諌める方に加担したのだが、あまりの海神の怒りように、一度、諫言を取りやめる事を余儀なくされてしまった。

 そのまま海神が怒り続ければ、戦神たる海神の力で、別の意味で世界が破滅するのではと思われたのだ。


 実は、太陽神自身は、おそらく自分の考えたプロジェクトの問題点への指摘に対して、大きなショックを受けながらも、なんとか改善しようと考えていた節はあった。


 しかし、表には見せない彼女の高いプライドが邪魔をして、都合よく怒ってくれた海神を利用し、見て見ぬふりを決め込むことにしてしまったのだろう。



 バレなければ問題ない――



 そんな風にでも考えてしまったのだろうか。

 3大神のうちの2柱がその諫言を認めない。その事実は、本来、お互いに牽制しあうべき関係が、すでに破綻してしまっている事を表していた……。


 太陽神が、黒であるものを白である、と言い、それを海神が、肯定する。それを月神が否定したとしても、多数に押し通される――こんな事を続けているうちに、太陽神は本来持っていなかった、「傲慢不遜」な心が生まれてしまった……。



 月神が太陽神の好意に応じない理由。そのプライドの高さ――絶対神として、他から干渉される事への強い拒絶。


 彼女の世界のあらゆる者に対しての愛情は本物ではある。内実、彼女は他を思いやる事のできる優しい女性なのだ。その美しい容貌は、まさに慈愛に満ち、本心から他を慈しんでいる。これは紛れもない真実である。


 しかし――、その心の深層には、自分を絶対神として、天上人として、全ての者の一番上に立っているという優越感が存在しており、ある意味、他の者全てを自分よりも下に見る心が存在するようになってしまっていた……。


「下方比較」これは、自分より下、と思う相手と自分を比較をし、自身が幸福感などを得るために生まれる心理。

 相手が自分よりも劣っていると感じたり、不幸になっていると、ますます喜びを感じやすくなる。

 これは、生来の優しい女神である太陽神に、いつの間にか生まれてしまった不幸である――



           ♢



 繰り返すが、本来、3大神とは、お互い同格であり、それぞれ牽制しあうべき存在である。


 お互いの間違いを正し、世界のあらゆるものを正しく導くべき存在のはずなのだ。


 しかし、いつからから、その均衡は崩れ、多数派となった太陽神は、海神の助力を受け、自らが正義と言って憚らなくなってしまった。


 

「――君たちは、世界の為にあるのではないのか? もしや、世界が君たちの為にあると勘違いしてはいないか? 」


 月神の言葉は、もはや2柱の優位性に邪魔されて届かない。



 なんとかしなければ――



 このままでは、いずれこの世界は次の朝を迎えることができなくなってしまう。深い夜の闇の中、月神は思案し続ける……。




みなさん、評価やコメントなど、ぜひぜひよろしくお願いします!

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拙い文章ですが、読んでいただいている皆さんに感謝です。楽しんでいただければ幸いです。
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