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いじめられっ子、世にはばかる 〜英雄に憧れて〜  作者: 十三夜
第6章 豊穣神と使徒たち
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海神


「なんだお前、テラのやる事に、なんか文句あるのか!?」



 海神は、最近になって次々と文句を言いにくる者達に、とても苛立っていた。


 敬愛してやまない太陽神が、彼女の肝入りで打ち立てたシステム。

 弱小なる種族たちを救済し、長命種たちの生活も安定させた。さらには、種族同士の争いが耐えなかったものが、『楽』に満足できるようになった為に、争う事がなくなったのだ。


 これ程までに、すべての種族に『幸せ』や、『安らぎ』を与えた太陽神が、文句を言われる筋合いがどこにあると言うのだ!


 

 太陽神テラ、月神ヨミ、海神スサ。


 3人は、三大神と呼ばれ、この世界を支える至高の存在。全ての神々の頂点に立つ者達である。


 それぞれが同等の力を有し、お互いに助け合う。 もし、誰かが悪に傾いた時は、他の2人が牽制し、阻止する。そんな関係だからこそ、世界の均衡をしっかりと支え、この世に生きる全ての者たちに等しく恩恵を与えてきたのだ。



 もちろん、最近、太陽神が始めた『楽』プロジェクトも、世界の全ての者達に恩恵を与えるべく、考えに考えたプロジェクトである。


 強力な力をもち、長い寿命を持つ長命種により、力が弱く短命な種族は、ひどく虐げられ、劣悪な環境で生活していた。


 家畜のごとく扱われ、食料となる者。

 玩具のごとく扱われ、壊される者。

 弱小種として扱われ、殺戮の憂き目にあう者。


 どれをとっても、繁栄する長命種と違い、まさに絶滅への道を辿っているように見えた。



「どうにかして、弱い者たちを救いたいの。何か良い考えはないかしら……。」


 いつも悩み、悲しむ太陽神の姿を目にする度に、海神は悩んだ。

 彼は強く逞しく、この世で最強の強さを誇る身体を誇るが、どうにも考えることに関しては苦手である。故に、太陽神の助けになれない自分がとても悔しかったのだ。



 あの優しく美しい女神の力になりたい――



          ♢



 なんと素晴らしいプロジェクトであろうか。

 太陽神が始めた『楽』プロジェクト。

 弱い者を助け、強き者も安んじる。

 この素晴らしいプロジェクトを始めてから、出会うもの皆、このプロジェクトを褒め称えた。


 苦労せずとも、目の前に必要な食料が現れる。

 腹が簡単に満たされる事がわかれば、苦労して作物を作る必要もなく、わざわざ家畜として弱小種を囲う必要もない。


 そうなれば、今まで虐げられ続けた弱小種たちを無理に扱う事もなくなり、強者同士の争いも無くなっていった。



「――これで、誰もが幸せになれるわ――」



 涙を流しながら美しく笑う女神の姿に、海神は心底安心した。

 あれほど心を痛めていたのだ。これで、太陽神も安心して皆に恵みを与え続ける事ができるだろう。



 それにしても――


 涙を流す女神のなんと美しいことか……



 いつしか海神は、同じ神である太陽神を見る目に力が入るようになっていた。



 ――この女神の笑顔を守りつづけたい……



         ♢



「なんだお前、テラのやる事に、なんか文句あるのか!?」


 何故か、日に日に太陽神の作ったシステムに対する風当たりが強くなっていく。


 月神ですら、考え直すべきだなどと曰う始末だ。


 

――あれほど、素晴らしいシステムを考え直せだと!?


 

 海神は怒りに震えた。

 美しい太陽神が、寝る間も惜しんで作り出し、自らの力を惜しげもなく使って、日々、世界の全ての者たちに施しを与え続けているというのに、その苦労を知って言っているのかと。


 元手のない所から、食料などの必要な物資が現れる訳ではない。無から何かが生まれる訳ではないのだ。


 あくまでも、太陽神が自らの豊穣の力を使い、身を切って施しを与えているのだ。


 無尽蔵とも思える神の力ではあるが、その力が本当に無限かというかと言えば、そんな事はない。つまり、神とはいえ、このまま力を使って施し続ければ、太陽神はいずれ力を無くしてしまうのだ。


 それが、何百年、何千年、何万年後になるかはわからない。そこはやはり神の力。ちょっとやそっとで尽きる事などないだろう。



――しかし、それでもだ!!



 あの美しい女神が、涙を流して世界を憂い、自らの力を分け与えてまでして救おうとしているというのに、お前たちはこの素晴らしい行いを止めろというのか!



 海神の怒りは、その治める広い海に留まらず、この世界全土を震わせた。


 このままでは、最強の神である海神は、最凶の神になってしまう。月神は、世界を滅ぼすわけにはいかず、太陽神への苦言を一度辞めた。まずは、海神をうまく宥めてからだと……。



           ♢



「なんだお前、テラのやる事に、なんか文句あるのか!?」



 ある日、新しい考えがあると進言してきた太陽神の部下がいた。

 その女神は、太陽神のシステムを続けていけば、この世界に生きるほとんどの種族が滅んでしまうと曰う。


 月神も、しばらく大人しかったが、今回はこの女神の案に乗ったようだ。



「――すでに滅びた種族もある。ここは、この若い女神の意見を取り入れて、太陽神の名誉を守ろうではないか。」


 月神に言われなくても、世界が停滞し、異常をきたしているのは知っていた。

 しかし、太陽神がその成功に涙を流して喜んだプロジェクトだぞ? 失敗? そんな事は口が裂けても言わない。いや、誰にも言わせない。

 

 ならば、海神が進む道はひとつ。



 海神は、()()()太陽神を守り続ける――

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拙い文章ですが、読んでいただいている皆さんに感謝です。楽しんでいただければ幸いです。
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