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いじめられっ子、世にはばかる 〜英雄に憧れて〜  作者: 十三夜
第6章 豊穣神と使徒たち
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森の王女


 草色のワンピースを着た美女、森の女王、ハイエルフのアエテルニタス。


 ハイエルフの長であり、ハイエルフの住む豊かな森をまとめる女王であったが、彼女自身は、長い年月、様々な研究に明け暮れ、外界にはあまり興味がなかった。


 それ故に、彼女はハイエルフの仲間たちが、やりたい事をやり尽くしてしまうことにより、生きる意欲を無くし、堕落していることに気づいていなかった。


 この現象は、実は長命種の宿命とも言える。


 神々が生まれたのと変わらぬ時代から存在し続けたハイエルフ。だが責任のある神々と違い、自分たちのやりたい事のみに力を使う事ができたハイエルフという種族は、長い長い年月を過ごしながらやりたい事を次々に見つけては、その全てを極め尽くしてしまった。


 そういったことを繰り返していると、いずれは飽きてしまい、あらゆる事から興味を失ってしまう。


 そう、そしてその先は、無気力。何かをやろうとすらしなくなってしまう――



 しかし、アエテルニタス自身は、新しい研究に明け暮れる日々。自分が同じ状況にならないと、なかなか本質に気づけなかった。

 なんといっても、アエテルニタスからは興味が無くなるという事がなかったから……。


 ふと研究の合間に周りを見回すと、若いハイエルフ以外、眠るように動かないハイエルフばかりになっていたのだ。まるで、森の一部となってしまったかのように、生きてはいるが魂が眠っているような様に、アエテルニタスは恐怖した。


 その時、初めて『楽』プロジェクトというものが行われている事を知ったのだった。

 

 焦ったアエテルニタスは、太陽神のプロジェクトの欠点を論文にまとめて指摘する。すると、見事に論文を否定され、アエテルニタスは嘘つき呼ばわりされた。さらに、太陽神を貶める、反乱分子として世界から追放されるという理不尽にあったのだった。


 ハイエルフの森から追放され、一族を救う為に研究することも許されず、途方にくれていた時、とある街にて豊穣神ウタという女神が、「『楽』を捨て、自らに『苦』を与えよ」との掛け声の元、新しいプロジェクトを提唱している姿を目にした。


 その内容を聞けば、完璧ではないが理屈の通ったプロジェクトである。このプロジェクトに自分の考えを反映できたら、もしかしたらハイエルフの一族も救う事ができるかもしれない。

 そう思った、アエテルニタスは女神になんとか仲間にしてもらえるように頼み込み、それ以降、ウカの計画遂行のブレーンとして仕組みの維持、発展に力を尽くしてきたのだ。


 その結果、若いハイエルフたちは、目標を無くす事なく、冒険という新しいチャレンジを続けることで滅亡を免れたのだった――




           ♢




「――ウカ様が考えたダンジョンを維持するには、常に膨大な魔力が必要なんだよ。だからウカ様がダンジョンの魔力源になるっていう事は、せっかくのダンジョンを守ることにも繋がるし、まさに合理的ではあるんだよ。」


 血の通わない、冷徹な印象すら与えるこの意見に、吸血鬼王、氷狼、古竜王の3人から非難の声が上がる。

 しかし、その声に対しても、森の女王は冷静に反応するのだった。


「じゃあ、ウカ様は意味もなく罪を負わされ、ただただ何処かに封印だけされて、その上、せっかくここまで作り上げたダンジョンシステムも潰されて、それでジ・エンド。そんな終わりでいいっていうの?」


 なおも淡々と話す森の女王をさらに非難しようとする3人に、巫女姿の少女が優しい笑顔を周りに投げかける。



「3人ともそんなに怒らないで。」


 その言葉に、その場に集まった者たちの視線が一斉に少女へと注がれた。



「――あのね、ヨミ様がなんとか取り成してくれようとしてくれてたんだけどね。テラ様はあんな風に私を目の敵にしてたでしょ。それにスサ様はテラ様の味方だし――」


 優しい笑顔は徐々に曇っていく。


「――三柱の中の2人が黒って言い出したら、私の存在も黒になっちゃうのよ――でも、なんとかヨミ様が、私がダンジョンの魔力源になる事で、私たちが考えたシステムを続ける事を2人に納得させてくれたの――」


 ついに少女の目からは涙が溢れ落ちた。



「――私だって、みんなと一緒にこの仕事を続けたかったけど、テラ様が外に出てきてくれなきゃ、せっかくいい方向に進み始めた世界が、違う意味で終わっちゃうでしょ――」

 

 どこまでも理不尽。

 何故、自分の失敗を人に擦りつけて、挙句の果てに逆ギレして重要な仕事を放棄するなんて事ができるのか。

 しかも、その放棄した仕事が、世界の為には必要不可欠。その力がなければ、そもそも世界が滅びてしまうなんて……。


 己に克ちて礼に復るを仁となす――


 トップに立つものほど、個人的な欲望に打ち勝ち、社会の秩序に従わなくては秩序など保てない。

誰からの言葉にも耳を貸さず、自分の思う通りにだけ行動するようでは、弱い立場の者たちは辛いばかりだ。



「――まったく、この世のトップともあろう方々が、どうにも情けないね。世の中、こんなに理不尽な事ばかりでたまるかっていうのよ。だから私は、いつか、私の研究で、こんな世の中の仕組みを変えてみせるんだから!」

 

 それまで淡々と話していた森の女王が、急に顔を赤くして叫んだ。

 冷静に見えて、実はその理想は高い。

 いつか、神々に対しても、間違いを指摘できるような状況にしてみせると、グッと握りこんだ拳にひそかな誓いをたてるアエテルニタスであった――

みなさん、評価やコメントなど、ぜひぜひよろしくお願いします!

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拙い文章ですが、読んでいただいている皆さんに感謝です。楽しんでいただければ幸いです。
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