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いじめられっ子、世にはばかる 〜英雄に憧れて〜  作者: 十三夜
第6章 豊穣神と使徒たち
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豊穣神と使徒②


 そこに揃ったのは、狐の耳と尻尾を持った巫女姿の少女と、マントを被った白髪の男、長身猫背で釣り上がった細目の男、草色のワンピースを来た美しい女、透明な身体の男、そして巨大な赤い竜。



 豊穣神と、その使徒たちであった――


 巫女姿の少女は、豊穣神ウカ。人々の繁栄を司る太陽神の配下であり、大地の恵を司る神である。


 マントを被った白髪、赤瞳の男は、ヴァンパイアロード、吸血鬼王ブラド。

 長身猫背で常にポケットに手を突っ込んでいる細目の男は、氷狼フェンリル。

 草色のワンピースを着た美女は、森の女王、ハイエルフのアエテルニタス。

 赤い鱗を纏い、巨大な身体を丸めて佇む竜は、古竜の王、エンシェントドラゴンのゴズ。

 透明な身体で、今は大人の男の形に変形しているスライムが無形の混沌、カオススライムのヒルコ。


 それぞれ、豊穣神ウカの提唱した、農業、鉱業などの自動化の解除や、才能輪廻のシステムに対して感銘を受け、そのシステムの構築、意地に力を尽くしてきた仲間たちである。



「――みんな、ありがとね。でも、私からヨミ様、スサ様に申し出たことなの――」


 自身をぐるりと囲んだ盟友たちに、ちょこんと頭を下げて謝るウカ。



「テラ様がね、私が魔力源になれば許すって。そうすれば、このシステムも維持していいっていうのよ――」


 無理やり作った笑顔は、盟友たちの怒りに火をつける。



「ウカ様――ウカ様のおかげで、この世に存在する種族全部が滅び去ることを防げたのです。ウカ様の考えた方法が無ければ、テラはこの世を滅ぼしたという誹りを受けないではいられなかったのですよ? それなのに、ウカ様に嫌がらせをするなど、言語道断です。」


 吸血鬼王は、太陽神への憤りを隠さず、大きな手振りでウカに改心を促す。



「そうだぜ、ウカ様。あんたがいなけりゃ、今頃この世は堕落した存在が這い回るだけの、地獄のような世界になってただろうよ。それなのに、自分より上手くやったとのやっかみで、ウカ様に罪を着せようなんて、神のすることじゃない。」


 氷狼も、太陽神への怒りの感情が溢れ出し、床を何度も叩いている。



「――だけどさ、この試練のダンジョンを潰さずに、維持する事を許されただけ、良かったんじゃないの?」


 森の女王が、先の二人の怒りの火を煽るような言動でその場に緊張をもたらした。



「何を言ってるんだ? お前は、自分も理論の構築に手を貸したからといって、システムさえ維持できれば良いと思っているのではないか?」


 吸血鬼王は、ウカの危機に対して人ごとのような反応を示す森の女王に大して食ってかかる。



「だからさ、ウカ様が魔力源になる事を飲まなかったとしてさ。結局、このプロジェクトごと潰されて終わりでしょ? じゃあ、なんとかウカ様のやりたかった事を残してあげられるように、私たちも手伝うべきじゃないの? 」


 無形のスライムが、透明な男の姿でアタフタとするのを横目に、盟友たちの言い争いはヒートアップしていく。



「だいたいだ。せっかく世界が良い方向に向かい始めたっていうのに、太陽神は何が不満だっていうんだ? ただ単に、ウカ様の功績に嫉妬しているだけだろうが!」


「――だが、絶対神の一柱たる太陽神の命令には逆らえまい……。他の二柱でさえ、その影響を無視することはできないのだから。」


 氷狼の叫びに、冷静に解答する古竜の王。

 この一言に全員が大きな溜め息をついた。



 この世を司る三柱の絶対神、太陽神テラ、月神ヨミ、海神スサ。それぞれ同等の力を持つが、中でも太陽神は大地の繁栄を司り、彼女が大地への恵を与える事を放棄すれば、世界の成長は止まり、やがて滅びてしまう。


 太陽神の作った『楽』のシステムは、太陽神の豊穣の力を存分に使い、世界に必要なものを必要以上に増やしていった為、世界は常に()()状態になっていた。その為、苦労など放棄した世界の各種族たちは、堕落し進化を止め、滅亡への道を辿ろうとしていた。


 それに対して、豊穣神ウカは、その名前とは裏腹に、世界に()()状態を与えたのだ。苦労しなくては必要な物を手に入らないようにシステムを構築し、堕落した種族たちに努力をさせ、力をつけさせてそれぞれの進化の道を作りだし、滅亡から救ったのだ。


 しかし、そんなウカの功績を目にした太陽神は、真っ向から自分のやった事を否定されたと激怒して自分の力を行使する事を辞めてしまう。自分の住処に閉じこもり、大地へ豊穣の恵を与える事を放棄してしまっのだ。こうなっては、いくら世界が進化の道へと進もうとしても、恵の枯れた大地の上では繁栄は難しい。


 この世界の一大事をなんとかする為に、月神と海神は、ウカに太陽神を説得するよう命じたのだ。


 これには、ウカも困り果てた。

 正直、良かれと思って提案し、他の神々も賛同した事で新しいシステムをやり遂げたはずなのに、それを太陽神の嫉妬ひとつで崩壊させられようというのだから。

 しかも、太陽神は、自らの行いに対して反省する事なく、ウカによって辱められたと騒ぎたて、月神、海神の言葉にも耳を貸さず、一方的にウカを責めたてたのだ。


 世界の頂きたる絶対神からの糾弾。

 これは、黒を白に、悪を正義に、そして自らの失態すら成功に、変えてしまう程の力――しかし、こんな事は許されてはならないはずなのだ。



 だが、それがまかり通ってしまった……



 誰も、太陽神からのウカへの責任転嫁に違を唱える事が出来なかったのだ。



「――だからね、私がダンジョンの魔力源になって、この世界の裏方にさえなれば、テラ様も表舞台に戻ってくれると約束してくれたの。そうじゃないと、大地は枯れてしまうのよ――」


 寂しげに語る豊穣神の姿に、盟友たちもかける言葉を失っていた――


 

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拙い文章ですが、読んでいただいている皆さんに感謝です。楽しんでいただければ幸いです。
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