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いじめられっ子、世にはばかる 〜英雄に憧れて〜  作者: 十三夜
第6章 豊穣神と使徒たち
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豊穣神と使徒①

第6章始まります。一日投稿遅くなりましたが、新しい章も是非楽しんでいただければ幸いです。


 巨大な木の洞の中に作られた部屋に、大きなマントで全身をすっかり覆った男が足早に入ってきた。 その男は、部屋に入るや否や、フードを降ろし、その白髪を振り乱しながら、真ん中に据え置かれた椅子に座る、狐耳の少女に対して声を荒げた。


「――ウカ様っ! ご自身が魔力源になって、試練の為のダンジョンを維持するなどと、本気ですか!?」


 赤い瞳を益々紅く燃え上がらせ、その白い肌までが紅潮している。硬いテーブルが壊れるのではないかと思われるほどに、お茶の置かれたテーブルに両手を叩きつけた。


「――きゃっ!?」


 小さく悲鳴をあげる少女の様子に、一瞬怯むマントの男であったが、その男に続いて、身長の高い猫背の男が、細い目をさらに細めながら歩いてきた。



「おい、ブラド……あんまり興奮するんじゃねぇよ。ウカ様が驚いてるじゃねぇか。」


 細目の男は、音も立てずに、しかし堂々とした態度で両手をズボンのポケットに突っ込んだまま、マントの男の隣に並んだ。



「――でもウカ様よ。ブラドが慌てるのも無理はねぇ……。真面目な話、ウカ様が魔力源になるなんて話が本当だっていうなら、俺たちゃ、大反対だぜ?」


 マントの男は、自分が慌てて大声を出してしまった事を指摘されて狼狽えたようだが、少し目を瞑って気を落ち着けてから大きく息を吐き出した。



「……失礼しました、ウカ様。私としたことが……。しかし、月神ヨミ様と海神スサ様に、ウカ様が自らこの案を提案なさったと聞き、驚いて飛んできたのです……。試練のダンジョンを作り維持する為に、ご自身が魔力源になるなどと馬鹿げた事はおやめください。」


 先程の狼狽え様から一転して、貴族然とした所作で頭を下げるマントの男。

 それに対し、狐耳の少女は困ったように笑っている。白い巫女姿の少女は、椅子に座ったまま、黙って2人の男の話を聞き続けた。


「――いくら滅びそうな種族たちを助ける為とはいえ、元々は太陽神が撒いた種だろう? それを部下のあんたが尻拭いする事はねぇだろ?」


 微笑んだまま、テーブルに置いてあったお茶を啜る少女。その反応に、2人の男はため息をついて顔を見合わせた。

 


「あんたたち、ウカ様を困らせるんじゃないわよ。ウカ様が御自身で考え、御自身で決めた事だよ。臣下たる我々が異を挟むなんて、恐れ多いことじゃないのかい?」


 そこに、草色のワンピースを着た女が、肩に透明な物体を乗せて現れる。その女は、綺麗に整った顔立ちなのだが、どこか機械的な表情で、冷たい雰囲気を纏った美女であった。



「――なんだ、アエテルニタス。もしや、お前がウカ様にこのような進言をしたのではあるまいな? お前が変な研究をやり続けている事はわかっているのだぞ?」


 マントの男は、その白髪を振り乱し、赤い瞳で女を睨みつける。しかし、そんな視線を微塵に気にすることもなく、女は軽く受け流していた。


「何を言い出すかと思えば……。私はウカ様の考えた案が上手く機能するように細部を直してきただけ。私が続けている研究とは関係ないわよっ!」


「――だがよ、今回のウカ様の提案、太陽神からの嫌がらせを受けてのものだろう? 太陽神があることないこと、月神や海神、その他の神々に言いふらして、挙げ句の果て、助けた種族たちまで、ウカ様に訳の分からない疑いをかけやがった……。そのせいだろうがよ?」


 細目の男は苛立ちを隠すこともなく、その場にいない当事者たちに向かって唾を吐いた。


 周りで口論を繰り広げている面々を横目にお茶を啜る少女の横に、ワンピースの女の肩に乗っていた透明の物体が飛び降りてきた。

 すると、元の拳大の質量からは想像できない大きさにまで広がり、そしてそれは人の形へと姿を変えた。


 目、鼻、口といった顔のパーツこそないものの、手足がすらっと伸びていて、透明ではあるが大人の男性のような身体つきのその物体は、少女に向けてボディーランゲージで何やら伝えようとしている。



「――おい、ヒルコっ! うざいからその動きやめろっ! いつもみたいに文字に変化したらいいじゃねぇか! それじゃ何を伝えたいのか全くわからねぇ! 」


 細身の男のキツイ口調に、一瞬透明の身体が青く変化したが、すぐに赤い色に変わった。



「―――!?」



 ヒルコと呼ばれたその物体は、赤い色のまま、その身体を大きな握り拳に変化させて跳ね回る。恐らく感情で色が変わるのだろう。いかにも怒っているといった動きだった。



「……だから、ヒルコよ〜……、それじゃウカ様だってわからねぇだろ……。」


 細身の男の繰り返しの指摘に、また透明な人型にもどると、巫女姿の少女の顔を伺うようにしゃがみ込んだ。



「――ふふっ、大丈夫よ、ヒルコ。あなたの心の中の言葉はちゃんと私に伝わっているから。」


 和かに微笑んで、つるつるとした肌触りを愛しむように、透明の男の頭を撫でる。そして、椅子から立ち上がると、その場で口争いを繰り広げている者たちに向けて語りかけた。



「――みんな、落ち着いて。」


 しかし、その小さな声が聞こえなかったのか、口争いは終わる気配を見せない。慌てる透明の男も、その場であたふたするばかりで争いを止めることは出来なかった。



「――うるさいぞ、お前たち! ウカ様がお話しをしようとなさっているだろうがっ!」


 ドーーン、と大きな音と共に、全員が浮き上がる程の振動が走る。

 その身体の大きさで逆に気づきにくいが、巫女姿の少女の奥には、四つ這いの巨大な赤い鱗の竜が立っていた。


 その大きな振動に、マントの男とワンピースの女がやっと口論を辞める。細身の男と透明な男も動きを止め、巫女の周りに胡座を組んで座り込んだ。



「ゴズ、ありがとう。みんなもありがとう。私の事を心配してくれて。でも、もう決まった事なのよ。」


 そう言って巫女姿の少女は、また椅子に座り直した――


みなさん、評価やコメントなど、ぜひぜひよろしくお願いします!

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拙い文章ですが、読んでいただいている皆さんに感謝です。楽しんでいただければ幸いです。
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