連鎖②
歓喜の輪に囲まれながら、ヒロは複雑な気分で引き攣った笑顔を続けていた。
みんなにものすごい迷惑をかけた。
それも、恥ずかしい事にまだ17歳の少年の心の奥に引き籠るなんていう、大人の男として情けない事この上ない……。
でも、ベルさんが消えてしまったのは、俺のせい……。この事を考えると、どうしようもなく自分を責めたくなるのだ。
俺のせい、
俺のせい、
俺のせい、
俺のせい、
…………。
何故、ベルさんの変化に気づけなかったのだろうか。身体が大きくなって、妖精の羽を無くして、使えなかった力を使って………。
彼女に一番近くに居て、いつも一緒にいたのに。
いや、いつも一緒に居てくれたのに……。
再び、気持ちが落ち込んでいく。
頭を抱えて叫びたい衝動にかられる。
どうしても、自分を責めずにいられない。
――パチンっ!?
突然、両頬を挟まれた?
それも、かなり勢いよく、かなりいい音を響かせて。
そしてそのまま、両頬をギューっとつねられる。
「――ヒロ君っ! いえヒロさんっ! ちょっとみんなの顔を見なさいっ! 」
目の前では、ソーンが怒った顔で俺の顔を覗きこんでいた。両頬をそのまま引っ張られ、まともに口を動かせない。
「――あなた、いつまでベルさんの事でウジウジしているの!? 馬鹿じゃないの! あなたのせいじゃないから! 」
なんとも聖職者らしくない、ド直球の言葉に背筋が伸びる。
「だいたいね、考えてみなさい! あのベルさんがあなたの事を責めるわけないじゃない! それどころか、情けないあなたの姿を見て見たら、滅茶苦茶怒るに決まってる! 」
いや、何というか……、ソーンさんも滅茶苦茶怒ってますけど……。
「――そうよっ! ヒロ兄は馬鹿よ、馬鹿っ! ベルっちがヒロ兄に責任をおっ被せるわけないじゃん! 」
「――ほんと馬鹿兄だよ! 馬鹿すぎて、これからも馬鹿兄って呼ぶからっ! 」
んん……、ナミもナギも、馬鹿だ、馬鹿だって……、そんな馬鹿馬鹿言わなくてもいいんじゃないか? 二人は動けない俺の耳を片方ずつ引っ張りながら、耳元で俺の悪口を繰り返している。
「そうね! それがいいかも。せっかく街の英雄になったのに、勝手に一人落ち込んでさ。私たちがいる事も忘れて、引き籠っちゃうんだもの?」
アメワまで……。女性陣のツッコミが厳しすぎる。そりゃね、自分だって馬鹿だってわかってるんだよ? でもさ、人間落ち込む事だってあるでしょ!?
「アリウム、なんか味方がいないんだけど……。」
つい先程まで一心同体であった少年に、藁をも掴む気持ちで助けを求めてみるが、彼は両手を広げてお手上げポーズ。これは、全く助けにはならなさそう……。
しょうがなく、竜騎士と長剣使いに助けを求めるも、二人は俺の背中を叩いて笑うだけ……。
「まぁ、反省するんだな。」と声を合わせて俺を突き放す。この2人も助けてはくれないようだ。
困った顔で、あらためて「ごめんなさい」と頭を下げるも、なかなか許しては貰えないようだ。
ただ、みんな笑顔に変わっていた。それが、とても気持ちを落ち着けてくれたんだ。
「――やぁ、お喜びのところ、申し訳ないのだけど、私の名前はアエテルニタス。ヒロ君と言ったね。君には、私の為に……、いや、ウカ様とヒルコを助けるために働いてもらわなくてはならない。」
歓喜の輪から、やっと笑い声が響き始めた時、突然、輪の外から声をかけられた。
その相手は、右手をすっと差し出したまま、近寄って来る。
人形のような美しい顔立ちだが、どこか人間味が少なく、張り付いたような笑顔。それでも、やや頬を紅潮させ、何か興奮しているようにも見える。
しかし……、
「……今……、何て言った?? 」
「ふふっ、君は私にとって、今の所、最高傑作。そう、もしかしたらこれ以上の幸運はもう訪れないかもしれない。君以上の作品は、2度と作り上げられないかもしれない。神代の世界から続く、悲しい連鎖を終わらせる。さぁ、私の手を取って……、可哀想な友人を助けるために、一緒に戦っておくれ。」
俺の言葉に反応する事なく、表情とは裏腹に、熱にうなされてるかのように、自分の思いだけを一気に吐き出すアエテルニタス。
俺を作品と言ったか?
いや、それよりも――
「―― アエテルニタスさん。あなたは、今、ヒルコを助ける為に働けと言わなかったか?」
仲間たちの顔が、突然の指摘に驚きを隠せない。
豊穣神ウタを助けるという部分は解る。だって、氷狼からも、吸血鬼王からも歴史について教えられ、その隠された真実に触れてきたから。
しかし、いま、目の前にいる使徒からは、豊穣神ウカに取り憑いて悪事を働く、裏切り者のヒルコをも助けると言わなかったか?
「――ああ、そうさ。君には、いや、君たちには、私の尊敬する豊穣神ウカ様と、いじめられ、騙され、そして悪に仕立てあげられた、私の親友、カオススライムの使徒ヒルコを助ける手助けをしてもらいたいのさ――。」
今、ここに、新しい真実が明かされる――
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