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仁を為すは己に由る


…………、

…………、

…………あ、

…………あれ、

…………うん、

…………でも、

…………だって、

…………わかってる、




――そんな事わかってるって!




……ごめん、

……ごめんってば、

……でも、だめなんだ、

……もうきっと耐えられないよ、

……だって、もう何も無くしたくない

……だって、もう誰も無くしたくない



「――ヒロさん、見つけたよっ!みんなが待ってるんだ! 戻ってきてもらうよっ!!」

 

――もう、苦しい思いも、悲しい思いもしたくないんだって!




……逃げたっていいじゃないか、

……投げ出したっていいじゃないか、

……楽したっていいじゃないか、

……苦労しなくたっていいじゃないか



『――だから、君に君を諦めさせないっ!!』


――辛い思いをして先を目指さなくたって、嫌な思いをしない方がいい!




……私たちがいるって?

……みんながいるって?

……誰にも傷つけさせないって?



『――君が私たちから離れたがっても、私たちは君から離れない――。』


――いつだって、俺は耐えてきたんだ。これ以上、まだまだ耐え続けろなんて、無理なんだよ!




……そんな事言って、また蔑むんだろ?

……そんな事言って、また悲しませるんだろ?

……そんな事言って、また苦しませるんだろ?



『――独りになんか、させてあげない――。』


――そんな事言って、またいじめるんだろ?



………。

………。

………。

………なんで………。



『みんな、まずはヒロ君を叩き起こさなきゃ! 叩き起こして、文句を言って、そして、ヒロ君にもう一度謝りましょう!』


――なんで、そんなに俺に執着するの?



           ♢


 

 古竜ニールの咆哮を皮切りにして、機械人形=ゴーレムに封印されたヒロに向かって呼びかけを続ける【アリウム】ファミリー。


 その声は既に枯れ、必死の呼びかけに反応しない機械人形に対し、焦りも出始めている。

 額には汗が浮かび、ある者は涙を浮かべ、強く握りすぎた拳から血を滲ませている者もいた。


 そんな必死の呼びかけも虚しく、部屋に横たわった機械人形は、ピクリとも反応しなかった。



「――ヒロ君っ! 目を覚ましてっ!」

「――ヒロ兄っ! 私たちが独りにさせないっ」

「――ヒロ君っ! 僕らは共に豊穣神を助けようと誓ったじゃないかっ!」

「――ヒロ兄っ! 私を助けてくれたのは、気まぐれだったの?」

「――ヒロ君っ! 裏切った私をしっかり罵ってっ!」

「――ヒロ殿っ! 私の恩人をこのまま放ってなどおきませんぞっ!」

「――ヒロさんっ! ここにいるメンバーだけじゃありません! 他の街であなたを待っている人がたくさん居ますっ! 」

「――ヒロ少年っ! お前はこんな事で終わる玉じゃないだろっ!」

『――◼️⚫︎▼●◾️▲ッッッッッ!!』



 代わる代わる機械人形にかけられる声に対して、鈍色の【障壁】の殻は、実はすでに役に立ってはいなかった。


 元々、物理的に外の世界を【アンチ】する=拒絶するものであり、アリウムの身体から殻ごと機械人形に移され、封印された時点で、その役割は魂の引き篭り場所でしかなくなっていた。


 古竜の咆哮により、直接魂に訴えられてから、外からの呼びかけは、その魂にはしっかりと聞こえている。


 しかし、外の世界に恐怖し、悲しみに潰され、苦しい思いから逃げたいその魂は、なかなか引き籠った殻の中から這い出しては来れなかった。

 すでに殻から出るべき理由は、その魂にも解っている。解っているのに、外に出たくない理由を出るべき理由に上書きしては、その場に留まる自分を正当化し続けていた。


 外に出ない為の理由は、まさに屁理屈。

 実際に口に出さない為、仲間たちに呆れられる事は無いのだが、実際に聞けば、それはさもない屁理屈。きっと憤慨するであろう。


 でも、もしその屁理屈を聞いたとしても、それで諦める事などきっとない――無いだろうと、屁理屈を重ねている魂も感じていた。



――ありがとう、でも、もう仲間を無くすのは嫌なんだ……



 ふと溢れた魂の呟き。

 

「――あなたが、仲間を無くしたくないという気持ちを、私たちはあなたに対して感じているのよっ!」



 イライラも混じった仲間の言葉。それは家族を思う言葉。ヒロの魂に遠慮なく次々と浴びせられ、決して諦めてはくれない優しい言葉たちに、鈍色のフィルター越しに白黒のように見えた外の世界が、色を取り戻していく。


 

『――ちょっと、ヒロっ! あんた、何をいじけてるのよっ! いい加減にしなさいっ! 』


 不意に離れた場所に置かれた精霊箱からも、あの姦しくも優しい声が聞こえた気がした。

 その声は、確かにその場に居合た者、皆んなに聴こえた。いや、聴こえたように思えた。



『――ベルさん………』



 聞こえるはずのない声に背中を押され、また必死の呼びかけに引っ張られ、流石の頑固な引き籠りも、その目をそっと開けてみた――すると……


 心の壁はパリンという甲高い音を立てて消え去り、鈍色に見えた魂は、光に照らされたシャボン玉のように、虹色に光出した。


 魂の定着――機械人形に封印された魂が、その新しい身体に、すっと馴染んでいく。


 すると機械人形の顔も、身体も変化していく。

 蛹の中で、身体を作り直す蝶のように、一度全てが混ざり合い、もともとの魂の持ち主の姿形に近づいていく。

 異物を省き、必要なものを組み込む。

 形も、大きさも、徐々に整っていった。

 虹色の光は静かに治っていく。


 そして、そこにはスーツを着た一人の男が残された――


 

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拙い文章ですが、読んでいただいている皆さんに感謝です。楽しんでいただければ幸いです。
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