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克己復礼①


 和かな笑顔で機会人形=ゴーレムを準備している使徒を見ながら、魔術師は何ともいえない嫌悪感を感じている。

 それは、同族嫌悪とでもいうのだろうか。なんとなく、考えていることが解ってしまうというか……。


 ライトは歴史学者が本業である。


 研究者として自分の研究を進めていると、自分だけが正しい事を考えている、と錯覚してしまうことがある。

 周りが見えなくなり、自分の研究を批判されると、何故、自分を理解してくれないのか、とか、何故、自分を認めてくれないのか、とか……。

 こうなると、段々と周りの意見を受け入れなくなり、自己盲信的に自分のやる事を正当化し続けてしまって、失敗に気づかなくなってしまう。


 独りよがりに研究をした挙句、周りから笑われ続けているのにも関わらず、自分の考えを改めずに、どんどん孤独になっていた、そんな自分を外に連れ出してくれたのがヒロであった。

 彼が、そんな心積りなど無いままに行動していた事は解っている。しかしだ。無理矢理にでも引きこもっていた自分を連れ出してくれたおかげで、その結果、自分の世界を大きく広げることができた。

 あのまま、穀物倉庫の閉鎖空間で、他人と交わらずに自分の殻に閉じこもっていたと思うと、ゾッとする。


 

 今、目の前で研究者を名乗るハイエルフには、その頃の自分に通じる何かを感じている。


 自分のやってきた事に妄信し、自分のやっている事を無条件に肯定している。そんな、あの頃の自分を見ているかのような……。


 

「――さぁ、早速始めようか!」



 使徒の一声に、考える事に没頭していた自分に気づく。


(……だめだな。……あれだけ反省を繰り返したというのに、また独りよがりに考え込んでしまった。)


 ライトは頭を振って、これから始めようとしている事に集中する。今は、頼れる仲間がいる。1人で考え込むのではなく、みんなの為に考え、助けになるのだ。


 そう、まずは彼を、ヒロを目覚めさせる。

 全てはそれからだ――




           ♢




 部屋の真ん中には、一体の機械人形=ゴーレムが寝かせられている。


 その機械人形の右脇に座るのは白髪の少年。

 アリウムは、目を瞑って深く集中し、心の奥底に【障壁】の殻を作って引き籠るヒロの魂を探す。


 そのアリウムの両脇には、ナミとナギが控えている。


 2人とも、スキル【操り人形】を使い、その()()()を発動させたまま待機している。長い時間スキルを発動するには、かなりの集中力を要するが、ナミの後ろにはアメワが、そしてナギの後ろにはライトが立ち、【魔力操作】によって補助を続ける事によって、維持し続けていた。


 機械人形を挟んで、アリウムの正面には、いつでもスキル【封印】を発動できるように集中しているソーンが立っている。

 彼女もまた、深く集中したまま、アリウムと機械人形から目を話さないでいた。


 全員が深く集中する中、ギース、ハルク、ヒルダは、不測の事態に備え、アエテルニタスと並んで様子を伺っている。

 直接の手伝いができないことに、歯痒さを感じるが、しかし、仲間を信じてこの緊張感溢れるこの場に立ち続けていた。


 

―――!?



 アリウムが瞑っていた目を見開いた!




「――ヒロさん、見つけたよっ!みんなが待ってるんだ! 戻ってきてもらうよっ!!」

 



 アリウムは、目一杯の力をこめて【アンチ】の力を意識した――拒絶!!



 今まで受け入れていた、ヒロという存在の魂に対して、初めて強く強く拒絶する――抵抗!!



 何がなんでも、そこにあり続けようと共感力を強めて引き籠るヒロをもっと強く拒絶する――対抗!!



 ヒロは、心を開かぬまま、その才能の力でアリウムと一緒にあり続けようとし続ける――同調!!



 しかし、今回ばかりはここに居てもらっては困る……。渾身の力をこめて【アンチ】する! 障壁は、もともとアリウムの能力だ! ならば、アリウムも心に【障壁】を張る!

 

 捕まる場所が無くなれば、その場に引き籠り続けることはできない――反発!!



 ヒロの魂は、アリウムの身体に拒絶され、反発の力により、魂は引き剥がれされた――



「――ナミさん! ナギさん! お願いします!」



           ♢



 アリウムの身体から鈍色の丸い障壁が飛び出した――



 ナミとナギは、ずっと展開し続けていた操り糸を、一斉に弾き飛ばされたヒロの魂へと伸ばした。


 

「「――ヒロ兄っ!! こっちにきてっ!!」」



 その魂は、未だに他を拒絶し続け、【障壁】の殻に触れれば弾かれてしまう。どうにかして、機械人形へと運ばなくてはならないが、このままでは、寄る辺のない魂は消えてしまうかもしれない。


「「――どうしようっ! ヒロ兄の魂に触れないよっ!? 」」


 予定通りに事を運べず焦る2人。



「――二人とも! 糸をありったけ出して魂をぐるぐる巻きにしたまえっ!」


 浮かぶ魂に触れられず、ややパニックになりかけていた少女2人に、見守っていたアエテルニタスから声がかけられた。


 2人は不甲斐無い自分たちを嘆き、涙を浮かべていたが、アメワ、ライトそれぞれが【魔力操作】と励ましの言葉で操り糸の動きをサポートする。


 アエテルニタスの言葉に反応し、自分たちの出せる操り糸を両手から有りったけ放出。4人の力で操り糸を動かし、魂を巻き取っていく。

 その様子は、さながら蜘蛛が獲物を捕まえた時のよう……。



「――よし、しっかり魂を捕まえたね! さぁ、魂を機械人形へ運ぶんだっ!!」


 嬉々として指示を出すアエテルニタス。

 緊張の連続で、その場の誰もが真剣な表情を崩さない中で、彼女だけが、笑っていた――

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拙い文章ですが、読んでいただいている皆さんに感謝です。楽しんでいただければ幸いです。
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