思惑
「――やぁ、よく来たね。ようこそ、ダンジョン=インビジブルシーラへ。」
機械人形=ゴーレムに案内され、ダンジョンに入るとすぐに、使徒の部屋の扉へと導かれた。
扉を開くと、そこには、赤、青、緑といった派手で不思議な彩りの家具が置かれ、また、様々な形の人形が転がっており、あまりセンスの良い部屋とは思えない。
しかし、そんなお世辞にも綺麗とは言えない部屋に客を迎え入れながら、散らかった人形を気にする事もなく、使徒である森の女王、ハイエルフであるアエテルニタスは待ちきれない様子で声をあげた。
「――さぁ、早速始めようか!」
♢
これから始める作業は、【アリウム】ファミリー全員が連携して行われる。
第1段階で、アリウムが才能【アンチ】の力で、自分の身体の中で【障壁】の殻に閉じ籠るヒロの魂を拒絶し、外へと弾き出す。
第2段階で、ナミとナギのスキル【操り人形】にて、ヒロの魂を使徒アエテルニタスの準備する機械人形=ゴーレムへと導く。
第3段階で、ソーンがスキル【封印】を使って、導かれたヒロの魂を機械人形に封印し、機械人形の魂として、そこに定着させる。
そして、最終段階で、【アリウム】ファミリー全員で呼びかけ、ヒロを目覚めさせ、心を呼び起こす。
そこまで成功したとしても、ヒロ本人が立ち直れなければ……、機械人形としての生を受け入れなければ……、みんなのリーダーとして戻ってくれなければ……。
正直、不安は尽きないが、みんなで決めたのだ。
「――さぁ、やってやろう!!」
♢
アエテルニタスは、部屋の奥から、1m程の大きさの人形を引きずってきた。
ホクホク顔で人形の説明をし始めるハイエルフ。
彼女の話によれば、この人形は、道案内に使われたものや、ヒルダが被っているものとは違うタイプで、魂を同化して【生きた人形】になるタイプの機械人形。
森の王が長い年月をかけて研究してきた成果であり、ダンジョンに縛られ、お互いの縄張りを出ることができない使徒が、自由に動けるようにできないかと考えて作られたという。
実際には、魂を機械人形に同化させてしまうと、元の身体に戻れなくなってしまう為、使用されないままになっていたらしい。
それが、魂が2つある状態のヒロとアリウムであれば、上手い事使える算段がついたという事で、この度、再登場の運びとなったのだ。
「いやぁ、まさか魂が2つある人間がみつかるとは、本当にラッキーでしたよ。私の目的を達成する為にも、役にたってもらいますよ。」
その絶世の美女とも言える顔は、終始ニコニコと笑みを絶やさず、しかし、その表情からは本心はいまいち読ませてもらえない。
しかし、今、ヒロを呼び戻す為にも、この森の女王を信用するしかない。彼女が協力させようとする目的というのも気にはなるが、それはそれ。ヒロに任せるとしよう。
そう、まずはヒロを呼び覚ましてからだ――
♢
――もし、この機械人形への魂の定着が成功したら、ウカ様を助ける事が出来るかもしれない……、そして、彼を助けることも可能になるかもしれない――
森の女王であるアエテルニタスは、他の使徒と同様、ヒルコの支配から豊穣神ウカを解放することを目標としている。
その為に、他の使徒をヒルコと対峙できるように機械人形=ゴーレムを利用しようと考え、長い長い年月研究を続けてきたのだ。
ハイエルフは長命種の中でも特に寿命という概念から遠い存在である。
太陽神の行った方策により、生きる気概を失った仲間たちはどんどん数を減らしていった。だからこそ、太陽神の方策に逆らって、滅亡していく種族の保護を主張したウカに感謝し、その大きな恩に報いる為に、使徒としてウカの封印を守り続けているのだ。
そして、守り続けるだけでは、埒が開かない。
いつかは、寿命じゃないなにかで自分も命を落とすかもしれない。
そうなってしまえば、ウカを悪なる神という不名誉から回復する事が出来なくなってしまう。
――そんなことは許されない
だからこそ、考え続けていたのだ。
機械人形ならば、自分でもヒルコの元に行ける。
ただ、失敗出来ないというプレッシャーから、自らを機械人形に定着させることも、他の使徒で試す事も出来なかったのだ。
だが、今、我々の代わりに試せる魂が見つかったのだ。
――チャンス
そう、今までチャレンジする事ができないでいたが、自分たちにはリスクの無い状態で、実験ができる。
もし、今回失敗したとしても、膨大なデータがとれるだろう。そうすれば、また長い時間を使って、もっと良い方法、もっと良い技術、もっと良い魂を探して、また挑めばいい。
リスクはあるにしても、自分には、ほぼ無限の時間があるのだから……。
ただ一つ、心配な事がある。
今回のように、魂を2つもつ人間など、今後現れるだろうか。
こんなに最高な条件は、2度と無いかもしれないのだ……。
でも、まぁ、大丈夫。
――また千年、二千年待てば、いいことさ
この考え方が、ハイエルフという種族が滅びる原因になったという歴史を忘れてしまっている事に、森の王は気づいていない――
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