ぼっち少年、お願いする
♢
花畑を超えた先にベリーの木はあった。
紫色の小粒なベリーの実は甘酸っぱく、たくさん食べるのは難しい。でも、ほとんど水だけで過ごしていた俺は、お腹に詰め込めるだけ詰め込んだ。
腹は膨れたが、ベリーの実だけではどうにも物足りない。でも、とりあえず飢え死には免れた。
勢いで孤児院を飛び出してきてしまったが、手元には一銭のお金もない。やっぱり、なんとか働いて、お金を稼がないと生活していけないだろう。
街に戻って、なんとか仕事を探さないと……。
これまでのように、冒険者に荷物持ちのポーターとして雇ってもらえれば……。ただ、リュックは三人組に奪われてしまったし……。最低限、リュックが無くては荷物持ちとしては働けない。
まずはリュックを手に入れるために、違う仕事でお金を貯めなくては……。
何処かで雇ってもらわなくてはならないけれど……、嫌われ者の俺を雇ってくれるところがあるだろうか……。
『アンタさ、なにボーっとしてんのよっ!? せっかくこんな良い場所教えてあげたんだから、もっと嬉しそうにしなさいよっ!』
ベリーを摘む手が止まり、ボーっと考えこんでいた俺の周りを、妖精が鈴の音を鳴らすように飛び回る。
そして、僕の肩に座ろうとした瞬間――
バチッ!
『はっ? 何よ、これ? どうなってんの、アンタなんかした!?』
ベルの小さな身体が、俺の肩から弾かれて空中を転がった。ベルはすぐに空中で体制を立て直し、不思議そうに僕の身体をつつく。
『なんだろ? アンタの周り、見えない壁でもあるのかしら? ちょっとちょっと! アンタの身体どうなってるのよっ!!』
プンプンと手を振り回しながら怒る妖精に、どうやって答えたらいいかと迷っていると、
『ほんとアンタは鈍臭いわねっ! そんなだから食事に困るような事になるのよっ! まったく、だらしないったらありゃしない。』
いや、ほんと容赦ない……でも、なんか不思議と悪意は感じない。むしろ、気遣いすら感じる。
――そうか、彼女に似てるんだ。
前世、俺と結婚してくれたあの女性。いつも明るく俺を励ましてくれた彼女に。
この子なら、ベルさんなら俺と友達になってくれるかもしれない!
「あの………ベルさん、僕と友達にな――『あ〜っっっ! あんたの道案内してて、せっかくた集めた胡桃忘れてきちゃったじゃないっ! それじゃあね。あんたは、もっとしっかりしなさいよっ! 私はもう行くわっ! じゃあ、またねっ!』――ってもらえませんか……。あれっ?」
やっとの事で捻り出そうとした俺の言葉を最後まで聞く事なく、姦しく捲し立てるように別れの挨拶をすると、妖精はもと来た道を飛んでいってしまった……。
――あ……、
そんな……。
そりゃないよ……。
せめて俺の話を最後まで話聞いてよ……。
自分はあんなに話しまくってたくせに……。
俺の出した右手が、置き所なく彷徨っていた。