インビジブルシーラへ
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【アリウム】ファミリーのメンバーは、今、ダンジョン=インビジブルシーラへと向かい歩いている。
インビジブルシーラ……、盲目の少女と呼ばれるこのダンジョンは、この国の一番北側に位置するダンジョンであり、悪なる神の頭部が封印されているとされている。
ここは、ハイエルフの使徒アエテルニタスが守護しており、悪なる神の身体を守っている、と云われているが、今更、【アリウム】ファミリーのメンバーの中に、この話を信じているものはいない。
氷狼や吸血鬼王からの伝説に纏わる話や、実際に悪なる神の使徒ヒルコによる度重なる襲撃。
そして、まだ実物には会えてはいないが、メンバーの先頭を歩いているのは、ここ何日間か一緒に行動している、件の悪なる神の使徒が操る機械人形=ゴーレムであるのだから。
機械人形を先頭に、レンジャー、長剣使いが続き、その後を古竜を頭に乗せた魔獣使いと竜騎士が、そのすぐ後に付与術士が精霊使いと並んで歩いている。後方は、魔術師と聖職者、そしてスパイ秘書が固めていた。
先日のリンカータウンを襲った魔物の大群。
国軍や冒険者達、そして街の住人までが協力して打ち勝ったわけだが、殲滅出来なかった魔物たちが、街の周辺に散り散りになって悪さを続けていた。
その為、それらの魔物たちを退治しながら、【アリウム】ファミリーは街道を進んでいた。
「――前方にゴブリンの群れが居るわっ! みんな戦闘準備してっ!」
哨戒役を務めるレンジャーのナギが、深く被ったフードの下から仲間たちに注意を促す。
「ゴブリンが12、一匹はホブみたい! 気をつけてっ!」
「「承知っ!!」」
ナギの索敵情報に、前衛の2人が反応する。
ハルクが背中から長剣を引き抜き、ギースは自分の背丈ほどの槍を構えて走り出した。
「ニール、行くよっ!」
「ぴーーっ!!」
その後ろから、負けじとナミがショートソードを抜き放ち、古竜と一緒に着いていく。
「援護は要らないかな?」
「ライト、サボらないで!」
「素早さ上げます!」
後衛の魔法使いたちも、戦闘に参加し始める。
そして、精霊使いの少年は、その身に宿した精霊たちには何故か命令せずに、魔法剣を握りしめたまま、その場に秘書と一緒に待機していた。
「アリウム様、精霊たちとは、やはり意思疎通できませんか?」
「……はい、すいません、役に立たずで……。」
「気にする事はありませんよ。アリウム様には、アリウム様にしか使えないスキルがありますから。徐々に身体の使い方を思い出していきましょう。」
少年は、人格が入れ替わってからというもの、精霊たちとの意思疎通が出来なくなっていた。
ライト分析では、精霊との親和性は、【エンパシー】という才能が影響していて、おそらく、その才能はヒロの持つ才能だったのではないかと考えられるという。
【障壁】についてはしっかりと支えているので、アリウムの才能としては、【アンチ】が正統なのだろう。
第2の才能、第3の才能についてはわからないが、アリウムからヒロが離れたあとは、自分の才能だけで戦っていく事になる。だから、現状使うことができる【アンチ】をしっかりと使いこなして行かなくてはならないのだ。
ただ、長い間、身体をヒロに明け渡していた為、アリウム自身は、ヒロが使っていたような、【障壁】の形を変えたり、質を変えたりといった応用はできていない。これから、自分自身が身体で覚えていくため、改めて努力が必要であろう。
「ギース! 逃げ始めた! 回り込むぞ!」
「おおっ!」
「ナミ! フォローするからそのまま行って!」
逃げる魔物たちは、彼らの上手い連携もあり、次々と屠られていく。あのような数の脅威さえなければ、この程度の魔物、相手にならない。B級パーティーの面目躍如。危なげなく魔物たちを退けた。
「みんな、お疲れ様。この調子で魔物の逸れ集団を殲滅しながら、インビジブルシーラへ行くわよ。急ぎたい気持ちもあるだろうけど、一般の人々を守るためにも、ね!」
ヒロの居ないこのファミリーで、今、実質のリーダーはソーンだ。
キビキビと皆んなに指示をだしながら、怪我人がいないかを確かめ、また街道を進む。
実はヒロを機械人形に封じる事に対して、ソーンには未だに葛藤がある。
彼が自分の殻に閉じこもってしまってから、今まで感じていた家族としての安心感が揺らぎ、なにかその先の感情がある事に気づいてしまったから。
しかも、最終的にスキルを使って、彼を【封印】するのは自分である。【封印】することで、彼に恨まれるような事があれば、安心感が揺らぐどころか、自身の心が壊れてしまうのではないか、そんな気持ちにもなるのだ。
ヒロと出会う前であれば、神にすがり、神の試練だとか、神の思し召しだとか、何でも神のおかげにしていれば、自分の心は救われていた。
これは、ある意味、神を信じるものとして、幸せな事だったのだろう。しかし、本当に自分に安心を与えてくれたのは、1人の少年だった。
聞けば、実は自分よりも年上のようだ。
どうりで一緒にいて心地が良かったわけだ。
もしかしたら……。
元の姿の彼はならば……。
なんていう、みんなには言えない望みを心の中で考えながら、また街道を歩いて行く。
インビジブルシーラまで、あと少し――
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