条件
一様に覚悟の決まった仲間たち。
希望も、怖さも、期待も、失望も、喜びも、心配も、ごちゃ混ぜの心境を丸ごと飲み込んで、自分たちのリーダーならしっかりと乗り越えて、みんなの前に帰ってきてくれる……。
「――彼なら、きっと大丈夫。」ソーンの言葉が皆の心を代弁した。
『――わかったよ。では、決まりだね……。ただ、決意を固めた所悪いんだけど、君たちに協力する為に、一つ条件があるんだ――』
やっとの事で、前に進む決意をしたというのに、今更どんな条件を出すと言うのだ。
『――私から勧めておいて、なんの条件がと思うだろうけど、これは、私が長い間、機械人形=ゴーレムを研究している理由なんだ。申し訳ないが、甘んじて受け入れて貰えると嬉しい、ただ――』
さっきまで脚を投げ出して座っていた機械人形は、すっと立ち上がり、姿勢を正した。
『――ただ、君たちというより、当事者のヒロ君次第なんだが……、機械人形=ゴーレムを提供する代わりに、彼には私の計画の助けをして欲しいんだ――』
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ああぁぁぁぁぁ………
ううぅぅぅぅぅ………
くぅわぁぁぁぁ………
がぁぁぁぁぁぁ………
ちくしょう……………
自分の【障壁】で作った殻の中に閉じこもり、頭を抱えながら、彼は悔やみ続ける。
少年の心の奥底、魂を縮こまらせながら、膝を抱えてまるで泣き続ける子供のように。
唸り、泣き、叫び、何度も何度も自分の不甲斐無さを攻め続ける。
文字通り、魂を擦り減らしながら、自分の力の無さに絶望する。
自分がいじめられたり、蔑まれたり、虐げられたり……、そう、自分に降りかかる悪意になら、耐えてこられた。しかし、自分の身近なものに降りかかる不幸には、耐えられなかった。
ましてや、いつだってそばに居てくれて、自分を孤独から救ってくれた存在感を、自分の力が足りなかったばっかりに消滅させてしまったなんて……自分こそ、消えてしまいたかった。
――!?
突然、暗い殻の中の彼に衝撃が襲った。
ドンっ!?
強い衝撃に跳ね飛ばされ、丸い【障壁】の殻が前後不覚、上下不覚、左右不覚……、とにかくめちゃくちゃに転がって、自分がどんな方向を向けば良いのかわからない状態がしばらく続いた。
――気持ち悪い……
それは眩暈にも似ていて、立ち眩みの状態が前後左右上下……あらゆる方向に血液が引っ張られ、偏る。凄い力で何もかもが持っていかれる感覚。
次の瞬間、一気にそこから引っ張りあげられた。いや、釣り上げられたのか。
少年の心の奥底の片隅の暗い暗い一角で、隠れるように自分の殻に引き籠もっていた彼を、今度はまっしぐらに明るい方へと引き出されていく。
【アンチ】の力で全てを拒絶するはずの【障壁】をもろともぜず、その力は彼の殻を掴んで離さなかった。
――何を……
殻の中で、絶望しか考えていなかった彼は、自分の身に何が起こっているのか、全く理解できなかった。殻に頼りっきりで、外の世界を完全に遮断していると思っていたから。
ある意味、もう外の世界を気にする事なく、引き籠もっていた自分に安心していたから。
もう、何もしたくない。
ここにいれば、しなくていい。
もう悲しみを増やしたくない。
これ以上、きつい思いをしたくない。
悲しみに暮れながらも、これ以上の悲しみに襲われないように、自己防衛していたのだ。
――何処へ……
彼を引っ張る力は、徐々に安定し始めて、最初は1本の力の糸だったものが、2本になり、その糸がどんどん太くなって、しっかりと支えられていた。 その力の糸は、だんだんと人の手のように見えてきて、いつからか優しく抱き止められているように感じられた。
とても不快だった力が、今は不快ではなくなり、逆に優しく包まれるようなその力は、拒絶しようともがいていた彼の【アンチ】の力を打ち消した。
――誰?
思わず閉じていた目を開けると、彼を心配そうに見守る仲間たちの顔が見えた。
ナミとナギが、額から汗を流しながら両手を少年の身体に向けて――
ライトとアメワが、二人の手を包み込むようにしながら、真剣な顔で少年を見つめ――
ソーンがその傍らで真剣な表情で両手を組んで瞑想している――
ハルクは両腕を組んでこちらを見つめ、ヒルダが無表情ではあるが、やはり心配しているとわかる眼差しを向けている――
ニールもギースに抱えられながら、二人でこちらを覗いたまま動かず――
サクヤも、ハニヤスも、ミズハも、フユキも、そわそわとこちらを見つめているのがわかる――
そして、何故か精霊箱も――
みんなの顔が見える。
見えてしまった。
すると、自分が物凄く恥ずかしくなった。
彼は、現実から逃げて、自分の殻に閉じこもり、仲間たちからの信用も捨てようとしていたから。
――なんでみんな……
なんでみんな、こんな情けない俺を見捨てないんだ?
なんでそんなに俺を心配してくれるんだ?
なんであんなに必死に何かをしようとしてくれるんだ?
俺?
オレ?
おれってなんだ?
――ナンダッケ!?
次の瞬間、俺は明るい所に引き戻された――