一歩引いて考えてみる
今喋っている機械人形=ゴーレムは、姿は体調60cm程度で、人形の姿そのもの。使徒曰く、遠距離操作によって動かされ、また、遠くにいる使徒本人の声をこの場に届けることができるという。
もう1体は、先程現れた冒険者ギルドのグランドマスターの秘書が操る機械人形。姿形は、この機械人形を内部から操る蜘蛛人族をモデルに作られており、見た目は美人な人族そのもの。ただし、身体は中から操れるが、その表情についてはクールな表情のまま、大きくは動かせないようだ。
この2体は、使徒の話によると、「魂を定着させる」タイプではなく、外部、もしくは内部から、所謂コントローラーのようなもので操るタイプであり、今回、ヒロの魂を封印する為に提供される機械人形とは別物だということだった。
『――もし、これまでの話通り、機械人形=ゴーレムにヒロ君の魂を定着……いや、封印させる事に同意してもらえるのなら、私が何百年と研究してきた中でも、現在の最高傑作の機械人形を提供しよう――』
使徒が作る最高傑作の機械人形――
曰く、姿形は、魂の持ち主の姿に近くなり
曰く、魂がある為に、その才能も引き継ぐ
曰く、喜怒哀楽を表現する表情があり
曰く、魂がある為に、感情も五感と呼べる感覚もあり
曰く、その封印された魂は、自らの意思で動き、自ら言葉を発する
しかし、機械人形になれば歳はとらず、寿命という概念は無くなってしまい、精密な仕組みを維持する為に、アエテルニタスによる定期的なメンテナンスが必要だという。
『――まぁ、人として生きて死ぬ、という事はできないという事だよ――』
人では無くなる――
これこそが、仲間たちが決断できないでいる一番の原因。本人の許可無く、機械人形に魂を移してしまって良いのだろうか、と。
みんなが押し黙り、考え込む中、徐に長剣使いが口を開いた。
「……えっと、みんな、ヒロ少年の魂を機械人形に移すのに反対なのかい? 俺からしたら、とてもいい案に思えるんだが……。」
そこにすかさず反応したのが、アメワであった。
「……ハルクさんとおっしゃいましたか? ヒロ君の魂を機械人形に移すという事は、封印された機械人形として一生を過ごす事になるんですよ? いや、これは一生という言葉は当てはまりませんね。機械人形に命という概念はないでしょうから……。」
「……まぁ、お嬢さんの気持ちはわかりますよ? 恐らく、他の仲間の方々も大なり小なり、そういった部分が引っかかっているんでしょう。」
ハルクは、椅子が足りない為、部屋の壁に寄りかかっていたのだが、ゆっくりと食卓へ近づきながら話を続けた。
「……でもね、考えてみてくれよ。みんなは、このままヒロ少年がいないパーティーで冒険を続けていくのかい? 俺は嫌だね! 今そこにいるアリウム少年には悪いが、俺は、ヒロ少年と一緒に冒険したくて、無理矢理仲間にしてもらったんだ。」
「――そんなの、私たちだってそうに決まってるじゃないっ!」
「――そうよ! つい最近、ヒロ兄と知り合ったあなたより、長く家族としてやってきた私たちの方がヒロ兄と一緒に居たい気持ちが強いに決まってるじゃないっ!」
ナミとナギが、馬鹿にするなとばかりに、発言中のハルクに噛み付く。
「――でしょう! その通りなんだって。ならば、今、アリウム少年の心の奥底に引き籠っちまったヒロ少年を引っ張り出して、ガツンと気合いを入れてやらなきゃダメでしょう?」
長剣使いの拙いが熱のこもった意見に、竜騎士も意見を重ねてきた。
「――そうですな。我ら2人は、確かに皆さんよりも一緒に冒険した時間は短いが、ヒロ殿とは死戦を潜り抜けた仲です。そんな、戦友とも言えるヒロ殿が、このまま引き籠ったままでいるなど、とても看過できません。ハルク殿が言うように、引っ張り出してガツンと気合いを入れてやるべきでしょう。それこそ、彼の仲間としての役割かと……。」
力強く仲間としての道理を解く竜騎士。
そして、最後はこの言葉で締めた。
「――それに、ベル殿なら、こんな状態のヒロ殿を放っておかないはずです。彼女なら、どうにかしてヒロ殿を立ち直らせようとするでしょう。何をいじけてるんだと、大声で叱咤するはずです。」
―――。
ソーンも、ライトも、アメワも、ナミも、ナギも………。みんなわかっている。あの優しい妖精なら、きっとそうするだろうことを。
「――だいたいな。あのヒロ少年なら、絶対に立ち直るだろうよ。だって、とんでもない苦しい人生を乗り越えてきてるんだぜ? 何度も何度もドン底に落とされながらも、ああやって英雄してきてるじゃないか。みんな、そう思わないか?」
ハルクの言葉は、ファミリー全員の心を決めるに充分だった。
「――ハルクさん、その『英雄する』って言う言葉いいわね――そうね。やっぱりヒロ君には英雄してもらわないとね。」
今まで悩み続け、自分の望みを捨てられずにいたソーンが真っ先に声をあげた。
「――まったく、機械人形の英雄とは、ヒロ君は相変わらず面白い!」
ライトは、笑いながらソーンに同意した。
「――こんなに皆んなを心配させて、ヒロ君には戻ったきた後には、みんなの為にガンガン働いて貰わないとね!」
アメワは怒るそぶりを見せながらも、すでに機械人形になった後の少年との冒険を想像していた。
「まぁったく、ヒロ兄もしょうがない男だな。」
「ほんと、ほんと! でも、元の姿がどんなものか、ちょっと楽しみ!」
「おっさんだって言ってたじゃん! ナミはオヤジ趣味はないだろうから、残念だったね!」
「はぁ!? 誰がそんな事言ったのよ。あんたこそ、同じ髪色じゃなくなったら、ショックなんじゃないの?」
ナミとナギもいつもの調子が戻ってきたようだ。
一気にこの場が明るくなる。
『――どうやら、結論は出たようだね――』
全員が頷く。
新しくスタートを切る為に――