長剣使い、驚く
「――やぁ、ギース。リンカータウンの危機と聞いて、中央からの応援部隊に参加してすぐに取って返したのだが、すでに魔物の大群を撃退していたとはな。冒険者ギルドで聞いたが、ヒロ少年が大活躍だったそうじゃないか! さすがヒロ少年だな!」
興奮した様子で捲し立てるハルクの大きな声が響く。出迎えたギースも、ハルクの勢いに苦笑いを浮かべていた。
「失礼いたします。グランドマスターから冒険者部隊の世話役を命じられましたヒルダと申します。この度は、援軍が間に合わず、申し訳ありませんでした。しかし、ヒロ様をはじめとしたリンカータウンの皆様の活躍により魔物を見事に撃退したとの事、お祝い申し上げます。」
身体の大きな長剣使いの後ろから、キリッとした眼鏡美人、ヒルダが顔を出して丁寧な挨拶を述べる。しっかりと援軍を出してくれた冒険者ギルドに、ギースは礼を返した。
「……ハルク殿、ヒルダ殿、よく駆けつけてくれました。なんとか魔物の大群は退ける事ができましたが、バラバラに散ってしまった魔物の集団を殲滅する必要もあります。援軍の姿に街の方々も安心することでありましょう。」
ハルクは満面の笑顔で、頭を下げるギースの肩を叩いた。
「いやぁ、しかし、肝を冷やしたよ。グラマスに挨拶に行ったら、あの頑固師匠がサッサと援軍にいけっ!なんて鬼みたいな顔で怒鳴り散らしててよ……。いや、あの人、鬼だったな……。まぁ、それは置いておいて、よくよく聞けばリンカータウンがヤバいって話じゃないか。びっくりしたぜ。」
ギースに案内されながら、ここへ来るまでの経緯を大声で説明するハルク。ヒルダは、そんなハルクには我関せずで後ろから付いてきている。
そして、みんなの集まるダイニングへと入り、【アリウム】ファミリーの面々の前でギースに紹介されると、急に緊張が増したのか、辿々しく挨拶をした。
「――あ、あのっ! 長剣使いのハルクと言います。ヒロ少年に頼み込んで仲間に入れていただきました。み、皆さん、よろしくお願いしますっ!」
それまでと同様に、大きな声で一方的に挨拶を終えたハルクに、半ば呆れながら助け舟を出したのは、一緒に尋ねてきたヒルダだった。
「……B級パーティー、チーム【アリウム】のメンバーの皆様でいらっしゃいますね。私は、首都の冒険者ギルドのグランドマスター、ギルの秘書を務めるヒルダと申します。」
それまで大きな声に圧倒されていたメンバー達も、その丁寧な言葉遣いは安心感を与える。
「ヒロ様とベル様には、先日の首都での一件にて大変お世話になりました。そして、今回の街を守った英雄に、改めて感謝を申し上げます……。と、ベルさんはどちらに?」
ここでギースから、あの優しい妖精が消滅してしまった旨を伝えられると、あれだけ大きな声で喋りまくっていた長剣使いも、冷静沈着なグランドマスターの秘書も絶句していた。
特にハルクは期間こそ短いが、一緒に旅をした間柄である。あの姦しくも、元気で優しい妖精が消滅してしまった事に大きなショックを受けた。
「……ヒロ様……。心中お察しいたします。お気を落とさずに……とは、無理な話でしょうが、あの明るくて優しいベル様の事です。ヒロ様の事をしっかりと見守ってくれてるはずですよ……。」
顔に手を当て、上を向いたまま絶句している長剣使いの代わりに、ヒルダが弔意を述べる。
しかし、この後、この二人にとって、益々大きなショックを受ける話をされる事になった。
♢
「――なんと!? 」
一通りの挨拶を終え、ベルの訃報に涙を流した後、ソーンからヒロの状況が語られると、再び二人は絶句した。
一人の人間に、二人の魂が存在している話に始まり、自分たちの恩人でもあり、仲間でもあるヒロという存在が自らの殻に籠って隠れてしまったなどという、俄には信じられない話に、二人はただただ頷きながら聞き続けることしか出来ずにいた。
目の前でばつの悪そうに下を向いている白髪の少年が、自分たちの知らない少年に変わっているなどと、どうして信じられるだろうか。見た目は、まるで自分たちの知る少年そのままなのだから。
話が一段落した所で、その場を沈黙が支配した。その場の誰もが、この事実を理解しようと努力し、これからの事についてどうするべきか、苦悩していたのだ。
その時、テーブルの上で様子を伺っていた機械人形=ゴーレムが、無神経にも沈黙を破った。
『――やぁ、ヒルダ! 元気そうだね! 機械人形の調子はどうだい? まぁ、私が作った特別製だ。よもや調子が悪いなんて事はないだろうがね!――』
機械人形の突然の呼びかけに、秘書は表情をまったく変えずに、しかし、驚きの声をあげた。
「もしかして、アエテルニタス様ですか!? 驚きました。ご無沙汰いたしております。アエテルニタス様にいただいたこの身体、不都合など全くございませんよ。感謝申し上げます。」
機械人形相手に頭を下げながら繰り広げられる、この不思議な会話に、機械人形と秘書以外の全員が意味が解らず困惑していると、機械人形の向こうから、笑い声が聞こえてきた。
『――みんな驚くかもしれないが、そこの秘書さんの身体は、私が作った機械人形なんだよ。まぁ、彼女の元の容姿に似せて作った特別製だからね。なかなかよく出来ているだろっ!――』
このやり取りの中でも、ヒルダは表情を変えずに姿勢を正していたが、隣にいた長剣使いは、さっきから空いたままの口が、ますます大きく広げられ、その驚きようはその場の誰よりも大きく見えた。
「……ひ、ヒルダさん? 機械人形なんですか?」
「――えぇ。そうね、あなたには教えってなかったわね。私の中身は蜘蛛人族。この身体は、アエテルニタス様に作っていただいた機械人形よ。」
そう言ったあと、背中から蜘蛛人族の女性が這い出して、その8本の脚を器用に折りたたみ、頭の上に座ってみせた。その女性の顔は、確かに機械人形とうりふたつ。驚くほど似ているが、機械人形のそれとは違い、本人にはしっかりとした表情があった。
『――ヒルダのそれは、魂を定着させるタイプじゃないからね。流石に表情までは変えられないんだ。今後の改修ポイントだね――』
謀らずも、この場に不思議な機械人形が2体。
こんなにも精巧な機械人形を作れる研究者の技術に、その場の誰もが驚きを隠せないでいた。
みなさん、評価やコメントなど、ぜひぜひよろしくお願いします!