研究者の希望
機械人形の口から出された、使徒が言うはっきりとした理由は、まさにこの場にいる全員が思っていることではある。
しかし、当事者の一人であり、しかも、みんなの願いの対象に、使徒からの提案をやるかどうかの確認ができないのが、判断を迷わせている。
「……ぼ、僕はこの提案に賛成てす。元々の僕の提案をさらに発展させた提案ですし、僕に反対する理由はありません。や、やりましょう!」
迷う仲間たちに、少年がハッキリと宣言する。
ヒロを呼び戻す為には、きっとこの方法がベストな方法だろう。ならば、やるべきだ。
「……僕がこの身体の中で封印されれば、ほ、ほんとならまるっきり表に出て来れなくなる予定だったのが、機械人形=ゴーレムに封印してもらえれば、みんなと話したり、ぼ、冒険したりもできるんです。だから、僕の案より絶対にいい。」
少年は、力を込めて仲間たちを説得した。
少年自身も、これからも一緒にいられるんだからと。
しかし、話が決まる方向に傾きかけてきたその時に、機械人形の向こう側で冷静に話を聞いていた使徒から、再びみんなを悩ませるような話が飛び出してしまう。
『――私の提案に乗ってくれそうな雰囲気になってきたのは嬉しいが、ここで一つ、私からの注意点を聞いてくれるかい?――』
どこか他人事に感じる話ぶりが、少し皆をイラっとさせ、その場に少しの緊張が走る。
『――自己犠牲を覚悟してくれている少年には悪いのだけど、機械人形に封印するのは、もう一人の人物の方が良いと思うよ――』
機械人形は、両脚を投げ出して座っているが、不真面目に見えるその態度が、益々みんなをイラつかせた。
「……ちょっと、何でよ! ちゃんと理由を言いなさいよっ!」
「そうよっ! せっかくまとまりかけた話が、また止まっちゃったじゃないっ!」
どうしてもヒロに戻ってもらいたい気持ちが強すぎるのか、ナミとナギが口調荒く声をあげる。
『――まぁ、まぁ、怒らないでよ。私は研究者として、この提案の成功率を高める為に提案をしているんだよ。みんなだってさ、いざこの方法を試してみても、失敗したんじゃ困るだろ?――』
「……どういう事よっ!」
『――よく考えてごらん。少年は、元々はアリウム君がこの身体の主たる魂だったと言っていたよね? という事は、原因はわからないが、ヒロ君が後から少年の身体に宿ってしまったという事だよね――』
少年は頷いて肯定する。
『――という事はだよ。ヒロ君という魂は、この少年の身体にとって、本来は異物。おそらく、アリウム君の魂が、ヒロ君の魂の存在を拒絶していないから成り立っているといえるんだ――』
この話を聞いたライトが何かを思い出したような顔をした。それに気づいた機械人形が、ライトに発言を促す。
「……いやね、アリウム君の第一の才能は【アンチ】。これは、他を拒絶する能力なのに、ヒロ君の魂を拒絶しなかったのは何故かと考えていたんだが……。何故かアリウム君には第一の才能がもう一つ表記されていて、その才能というのが、【エンパシー】。共感という能力なんだよ。」
『――ほぉ、それはまた興味深いね。二つの才能が表記されるなんて事、聞いたことがない。本当に不思議な存在だね――』
「はい。まさに、不思議な才能表記だったのです。ただ、今ここに至ってみれば、この並んだ表記とは、アリウム君とヒロ君、それぞれの才能だったのではないかと……。」
「――なるほど! 二人に第一の才能がそれぞれあるなら、そういった表記にになっている事も納得できますね!」
ライトの考察にアメワが反応する。
「しかも、アリウム君の第2の才能は【ダブル】。これは、ヒロ君を拒絶せず、二人で存在する事を受け入れた事で発現した才能じゃないかと思うんだ。だから、二人の才能両方を発揮できる。」
『――ふむ。であるなら、やはり主たる魂であるアリウム君を機械人形に移すより、後から異物的に入り込んだヒロ君の魂を機械人形に移すべきだね。そうでなければ、元の身体にヒロ君が定着できない可能性がでてくる――』
「……僕もそう思います。ヒロ君がこの身体で活動できたのが、アリウム君のおかげだったとすれば、ヒロ君単独でこの身体にいられるかは、わからないかなと……。」
「そうですね。本来、身体と魂は一対であり、一体。その関係者を崩すのは危険……。」
『――だね。』
ここまでの議論が終わり、この場に沈黙が訪れる。
この議論を見守っていた仲間たちも、筋道がしっかりと立っているこの推理に、すっかりと納得してしまっていた。だからこそ、誰からも反論など出ない。
しかし、それぞれの気持ちは複雑である。
仲間たちにとっては、どうしても一緒に冒険してきたヒロに執着がある。
だからこそ、ヒロに残って欲しいという気持ちがより強くなる。言葉には出しはしないが、アリウムと比べれば、ヒロの方に残って欲しい、そんな思いが捨てられないのだ。
重ねて言うが、アリウムに残って欲しくないのではない。
――ヒロに残って欲しいのだ!
これは、感情。
人とは感情で動く生き物である。
如何ともしがたい、どうにもできない、しかし、それはけして言葉にだしてはならない。
それによって傷つく者がいるのだから……。
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