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2人のナナシ①


 この場にいる誰しもが、頭の上に?マークを浮かべていた。


 竜騎士に背負われていた白髪の少年は、竜騎士に対して地上に下すように頼み、ややフラつきながらも自らの足で地面を踏みしめている。


「……な、なんか、久しぶりに身体を、う、動かすの、へ、変な感じ……。」


 少年は、自らの身体の動きを確かめるように、腕を回したり、屈伸を繰り返したりしている。

 【アリウム】ファミリーの一堂は、困惑しながらも少年の周りを取り囲み、その様子を伺っていた。



「……あの、ヒロ君?」


 さっきまで、少年のハッキリしない態度に腹を立てていた聖職者は、改めて様子の変わった少年に声をかけた。



「……あ、あ……ご、ごめんなさい……。あ、あの……。」


 この違和感はなんだろう。

 聖職者は、魔術師と顔を見合わせる。

 付与術師は口を手で覆ったまま立ち尽くし、竜騎士は額に手を置いたまま、経緯を見守っている。

 いつもは明るい魔獣使いとレンジャーの2人も、口を半開きの状態で少年を見つめていた。

 古竜は魔獣使いにすがるように立ち、いつもは少年たちから離れない精霊たちが、何故か少年から離れた場所で精霊箱を囲んでいた。

 


「……み、皆さん、訳がわからないですよね……。あ、あの……。」


 メンバー全員が、息を飲んで少年の次の言葉を待つ。

 少年は、意を決した様子で言葉を続けた。


「……ぼ、僕は、アリウム。ひ、ヒロさんから名前を貰った、も、もう一人のナナシです……。」



          ♢


          ♢


          ♢



 今、【アリウム】ファミリーのメンバーは、冒険者ギルドのギルド長室に集まっていた。


 ギルド長は、メンバーが顔を出した当初は、今回の少年とメンバーの活躍に感謝の言葉を述べながら賞賛していたが、【アリウム】ファミリーの困惑したような様子に首を傾げた。


「――どうしました? 皆さん……。」



 ギルド長の質問に、メンバーの誰もが説明する事が出来ずに顔を見合わせていると、白髪の少年が、前に出て話し始めた。



「……あ、あの……。」



 その話は、俄かには信じがたい話だった。



 目の前にいる少年――


 今まで、【ヒロ】と呼ばれていた少年は、かつて、【ナナシ】と呼ばれていた少年で、その少年の中に現れたもう一人の人格が【ヒロ】であり、あるきっかけの後から、【ナナシ】は、そのもう一人の人格である【ヒロ】が、【ナナシ】の主たる人格となっていたのだという。


 そして、今、目の前で話している【アリウム】と名乗る少年は、元々【ナナシ】であった人格であり、【ヒロ】が現れて主人格として活躍するようになってからは、【ヒロ】の活躍を応援しながら【ナナシ】の心の奥底で休んでいた――というのだ。


 ちなみに、【アリウム】とい名前は、名無しが由来の【ナナシ】という名前を哀れみ、その名を捨て去るために、【ヒロ】が付けてくれた名前なのだという。


 【アリウム】自身は、【ヒロ】に主人格を明け渡し、活躍を見守る事に、特に不満も感じず、応援し続けていたのだそうだ。


 しかし、今回、あの優しい妖精が消えてしまった事で【ヒロ】がこの世界に絶望してしまった。【ヒロ】は、何もかもを拒絶し、あれほど信頼しあった仲間でさえも、受け入れることが出来なくなってしまったのだという。そして、とうとう【アンチ】の力で世界を拒絶するまでに至った。


 【ヒロ】は、自分のせいで妖精が無理をすることになり、そのせいで妖精が消えてしまったと考えている。実際、そうではあるのだが、【ヒロ】は、自分の不甲斐なさと、その後悔に耐えきれなくなってしまったというのだ。

 

 今までだって、カヒコの死やケインの死を乗り越えてきたはずなのだが、自分が原因という訳ではなかった。


 しかし、今回の妖精の消滅の原因は、明らかに無理をした【ヒロ】を助けた事にあるのだ。いつも、人の為にと考えて行動してきた【ヒロ】にとって、この世界での心の支えであった妖精が、自分のせいで消えてしまった事に、悲しみが振り切れてしまったのだ。


 【アリウム】と名乗る、【ヒロ】の姿の少年は、話をこう締め括った――



「ひ、ヒロさんは、自分を責めて、責めて、責め続けて……、自ら、か、殻の中に閉じこもってしまったんです……。」



            ♢


            ♢


            ♢



 「……一度、三日月村のみんなの家にかえりましょうか……。家に帰って、みんなでご飯を食べて、それで、これからの事を整理しましょう。」


 ソーンの声に、仲間全員が頷いた。



「……あ、あの……、僕も行っていいのかな?」


 少年が申し訳なさそうに仲間達に問うた。



「――当たり前でしょ! 私たちは、【アリウム】ファミリー。あなたの仲間よっ!」


 ソーンが宣言する。

 勿論、まだまだ少年の話を飲み込む事は出来ていないし、理解も出来ていない。しかし、目の前にいる少年は、自分が支えると誓った少年なのだ。

 

 不安も疑問も置いておく。

 今は、まずは目の前で不安な様子でこちらを伺っている少年を支える。

 ヒロが、自分を攻め続けているというならば、そんなことは辞めさせなくてはならない。

 消えたベルだって、ヒロの責任だなんて、カケラも思っていないはずだから――

 


 ソーンが今出来ること……。



「――さあっ! みんな、かえりましょう!」


 

 

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拙い文章ですが、読んでいただいている皆さんに感謝です。楽しんでいただければ幸いです。
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