ぼっち少年、妖精と出会う
この世界に生活しているのは、人族だけではなく、様々な種族が存在している。
人族、ドワーフ族、エルフ族、獣人族、etc……
今、俺の目の前にいる妖精族もその一つだ。
『ちょっとあんた! なにボーっとしてんのよ! ありがとうって言ってるでしょ! なんなの、もう! シャキッとしなさいよっ!』
鈴の音のように、コロコロと弾むような賑やかな声。胡桃を運び終え、さっきまで胡桃の影に隠れて見えなかった可愛らしい顔もはっきりと見えるようになった。
俺の周りを元気に飛び回りながら、捲し立てるように話す妖精の姿は、まるで前世で知るあの姿……
「◯ィンカー=ベル?」
『はぁ? アンタ、何で私の名前を知ってるの?! ◯ィンカーってのはよくわからないけど……、っていうか、アンタ、もしかしてストーカー? 私を捕まえて売り飛ばすつもりだとか?! うそでしょ! 私を信用させてそんな事するなんて! まぁ、私はアンタなんかに捕まるようなヘマなんかしないけど?!』
凄いっ! 妖精さんのお名前は、まさかまさかのベルさんだった!
この妖精さん、頼みもしないのに、次から次におしゃべりが続く。
それにしても、妖精さん、俺には捕まらないとかさっき言ってたけどさ……、胡桃をたくさん抱えすぎて、自分では動けない、ただの木に捕まってたのは誰だっけ?
『まぁ、いいわ。助けてもらった訳だし、しょうがないから、この胡桃1個あげるわっ! 1個だけよっ!』
はぁ……、助けたというか、妖精さんのお馬鹿な行動に、ちょっとだけアドバイスしてあげただけなんだけどね……。大丈夫かな、この妖精さん。
しかもさ、なんていうか、たったの胡桃一個だけであんなにドヤ顔されてもなぁ……。
お馬鹿な上に、とってもケチん坊な妖精だったみたい……。
ここは、なんか他の物を……。もしかしたら、おしゃべり妖精さん、この森の事に詳しくないかな。思い切って聞いてみる。
「ねぇ、ベルさん。 胡桃を貰えるのはありがたいんだけど、貰った所でこのままじゃ食べられないんですっ! 御礼をしていただけるというなら、何か果物とか食べやすい木の実とかが生ってる場所とか、もし知っていれば、教えてくれませんか? 」
『はぁ? アンタ、なんてずぅずぅしいのかしら? まぁ、いいわ。 私、この森には詳しいんだから。それじゃ、ピンクベリーの茂ってる場所を特別に教えてあげる。 その代わり、この胡桃は返してもらうからっ!』
なんか、妖精さんからの言われように釈然としないが、食べ物にありつけるなら気にしない、気にしない。
とりあえず、これで今すぐの飢え死にはなんとか免れる事ができそうだ。
鶴の恩返しならぬ、妖精の恩返し、期待させていただきます――