リンカータウン防衛戦⑦
「――この状況、常に先手を取り続けないといけないよな。」
俺は、まだ動き出さない魔物の群れに向かって、今の自分の持てる最大火力、水蒸気爆発の準備を始める。
今日、波の乙女は、水球を出せる最大数を8個に更新した。少し前までは、確か5個が最大だったはず。しっかりと成長してくれている。
火蜥蜴は、炎の舌を振り回しながら、石を火山礫にまで加熱する時間をかなり短縮してくれている。今までは、両方同時にはしたことがなかった。
土小鬼も、石を素早く、そして多彩に変化させている。俺が一斉に投げた複数の石を指示に合わせて的確に変化させ、魔物たちの脅威になってくれた。
精霊たちが、これだけ成長しているのだ。俺だって、今まで以上の力を発揮してみせる――
砂煙がすっかりと消え視界が晴れる。
魔物たちは、砦の前に立つ人間が一人だけだとわかると、徐々に前へと進むスピードを上げ始めた。
「――さぁ、やろうかっ! みんな、頼むよっ!」
精霊たちの言葉を聴くことは出来ないが、確かに3人の精霊から肯定の思いが伝わってきた。
スキル【同調】によって、より深く精霊たちとの繋がりを感じる。今なら、みんなの力をもっと引き出してあげられそうだ。
先ずは、波の乙女が前方に、今度は10個の水球を浮かべた。
「――凄いぞ、ミズハっ! そらっ、ハニヤスっ! サクヤっ! 出番だぞっ! 」
俺は、まとめて10個の小石を投げる。
2人の精霊は、連携よろしく素早く小石を火礫に作り替え、しっかりと10発もの大爆発を引き起こす。
「よしっ! 2人ともいい仕事だっ! ――でも今回はこれだけでは終わらないぞっ!」
俺は集中力を高め、スキル【操作】を使って、自分の周辺に落ちている石という石を空中に浮かべた。
「――飛べっ!」
ある程度の高さまで持ち上げた石を、そのまま魔物の群れに向けて【操作】する。
すると、俺の指示を待たずに、火蜥蜴と土小鬼が石に様々な変化をつけ足した。
重さを増して威力を強くしたもの
真っ赤に燃え盛ったもの
先を尖らせて貫通力をあげたもの
それらが、2つ3つと組み合わさったもの
自分たちの能力が届く範囲のもの全てに変化を加えたのだ。
「礫雨――」
雨のように降り注ぐ数多の石は、まだスピードを上げることができないでいる列の中央の魔物たちの一団を一斉に貫いて、あっという間にその場を血の海へと変えた。
「「「 ギャギャキャギャウーーっ!! 」」」
魔物たちの悲鳴とも、絶叫とも聞こえる叫び声が響き渡る。そして、その声は、徐々に怒りの感情を帯びた声へと変わっていき、その怒りの絶叫は、魔物の群れ全体へと広がった。
その恐ろしいまでの音量は、街を守ろうとする者達を恐慌へと突き落とす。
俺は、次々と周辺の石を【操作】しては魔物の群れに浴びせかけ、近寄る魔物には、火蜥蜴が炎の舌を鞭のように振るい、波の乙女が水球を顔へと貼り付ける。
しかし、徐々に周りを魔物に囲まれた始めた俺は、【障壁】を膨らませて掴みかかれないようにしなくてはならなくなった。
ただし、【障壁】の中にいても、【操作】によって攻撃はできる。俺は石の【操作】による攻撃をやり続けていた。
ところが、拙いことに徐々に周辺からは攻撃に使えるような石が無くなりつつあった。
そこで、俺は、今度は石を飛ばすのではなく、石を衛星のようにして、自らの周りを回転させ始めた。
初めての試みではあるが、いつも、個対多数を想定して考えを巡らしていたのだ。この攻撃は、絶対にこの状況で活きる攻撃だと確信していた。
第3の才能【ムービング】を授かった時から考えてはいたのだ。ただ、今まで実際に試した事はなかった。本来なら、火蜥蜴や土小鬼に石の形態変化を加えてもらう予定だったのだが、流石にぶっつけ本番。彼らに説明すらしていなかった為、2人が形態変化を加えるまでには至らなかった。
すると、ただの石の攻撃だと、オークのような身体が大きく、頑丈な魔物には通用しなくなってしまう。オークたちは、その頑丈な身体に任せて、俺に飛びかかってきたのだ。
最初のうちは、反発の【障壁】に跳ね返されて、近寄れないでいたが、今度は【障壁】を直接掴み始めたのだ。反発させる為に、弾力を加えたのが仇になってしまう。
次々としがみつかれ、とうとう俺は身体の外に張り巡らした球体状の【障壁】全体をオークに取り憑かれてしまったのだ。
すると、身体の大きなオークが俺の上に何重にものしかかってくる。こうなってしまうと、いつかはオークの重みで押しつぶされてしまうだろう。
俺は【障壁】を壁状に変化させ、その重みに耐えることしかできなくなってしまった。
「……ミズハ……障壁の周り全部、水球で覆えるかい?」
俺は【障壁】に魔力を集中させながら、波の乙女に取り憑いたオークを窒息させられないかを試させた。
波の乙女は、力の限り水球を膨らませてオークたちを水に沈めていく。しかし、俺を覆うオークの壁が無くなる事はなかった。
そう、俺は完全に周りを覆われて居て外を見ることができないでいたが、実際には何重にもオークたちが覆い被さり、俺の【障壁】の上には、さながらオークの山が出来ていたのだ。
「……くっ、このままじゃ、いずれ魔力が尽きて潰されてしまう……。くそっ、どうしたらいい!?」
火蜥蜴は、なんとかオークを突き飛ばそうと、炎の舌を鞭のように振るうが、それも焼け石に水、まったく山が崩れる兆しはない。
「……くそ………、ここまでなのか………。」
やっぱり、優しい英雄になるなんて、無理だったかな。
第3の才能を授かった事で、調子に乗りすぎたかな。
でも、砦の兵士が大ピンチだったし、とても見殺しになんか出来なかったし、ましてや、俺の後ろで頑張っている仲間や街の住人を、これ以上、危険に晒したくなかったし……。
――結果的に役にたてなきゃ、意味が無い……。
ナミは、アメワは、ギースは、サムは、みんなは大丈夫だろうか……。
宿に置いてきた、ベルは……。
――ダメだ、ここで終わる訳にはいかない、負けるわけにはいかないんだ、くそっ!くそっ!
オークの山に押しつぶされ、もがきながら、何も打開できない自分を責め続けていた――
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