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リンカータウン防衛戦⑤


          ♢



 男は、ポケットに両手を突っ込んだまま、木に寄りかかっていた。長身細身のその背中をやや丸め、肩を怒らせている。


 街道脇の林の陰から、魔物達の行軍を覗き見ているその男は、魔物の群れの中に、自分の探している存在が紛れていないか、細長くて切れ長の目をますます細めて、じっと見つめていた。



「――ったく、こんなに馬鹿みたいな数の魔物を嗾けやがって。」


 男は面倒くさそうに呟きながらも、その目だけは真剣なままだ。



「しかし、これだけの魔物どこに隠していたんだ? 満月村の北から来たのなら、ベステブルムか?……それともヴィーか?」


 男はポケットから手を抜き出し、今度は頭の後ろにその手を組んだ。



「……最近、ヒルコの野郎、活発に動きすぎる。何か大きな変化でもあったのか?」


 ふと、最近目を掛けている白髪、白瞳の少年の顔が思い浮かんだ。



「――あいつか……? 何か気づいたのか? 」


 そして、男が心棒する女神に話かけるかのように、独りごちる。



「――ウカ様……。もしかしたら、あんたを助けることができるかもしれないぜ……。いや、あいつを使えば、きっと……。」


 男は、薄暗い林の中で、じっと魔物の群れを見つめながら呟く。


「とりあえず、狐憑きは俺が始末してやる。だから、死ぬなよ――。」

 



           ♢



 国軍の司令官クレージュは、砦の兵士がどのくらい生き残っているのか見回してみる。


 砦に取り憑いていた魔物が、先ほどの続け様に聞こえた爆音の後から、目に見えて少なくなった為、彼にも多少の余裕ができていた。


 円陣を組んで砦に入り込んだ魔物に対処している小隊は15ほど。10人で一組とすれば、150人くらいは生き残っているようだ。


 もともと、ゴブリンやコボルトなどの弱小な魔物ばかり。波のように押し寄せる数の脅威さえ緩めば、練度の低い国軍の兵士とはいえ、そう遅れをとる事はない。



「――各隊、砦の中に入り込んだ魔物を掃討しろっ! 一度体制を立て直すぞっ! 」


 クレージュは、おそらく冒険者の強力な魔法が魔物の群れに炸裂し、それによって遊軍の冒険者たちにヘイトが集まってしまったのだろうと判断していた。おかげで、砦の国軍は防衛体勢を立て直す事ができる。


 しかし、このままでは冒険者たちに魔物が殺到してしまう。早く自分たちが砦の外に向けて攻撃を再開しなくては、冒険者たちが危険に晒される。

 国軍が民の前で脅威への壁にならなくては、なんの為の軍隊か。



「――皆、自分たちの周りの魔物を片付けたら、そのまま小隊を維持しながら、砦の外への攻撃を再開するっ! 各自、力を振り絞れっ!」


 正直を言えば、一度休ませてやりたい。

 しかし、北を観ると、まだまだ魔物の行列が続いている。我々がヘイトを稼いで、この砦に魔物を引きつけなくてはならない。


 

 ゴゴォ――――っっ!



 その時、今度は砦の西側を特大の炎の塊が通り過ぎていった。その炎は、魔物を焼き尽くし、群れの中に一条の道を作り出した。



「――っ! また冒険者の魔法かっ!」


 クレージュは、一瞬、その炎の威力に尻込みするも、これが味方の攻撃である事に安堵する。



「――我らも負けていられぬぞっ! さぁ、押し返せっ!」


 指揮官の号令に各々から気合いの声が上がる。この魔物の大群を前にして逃げ出さずに残った者達だ。これなら、「まだやれる。」クレージュは、自ら槍を振るいながら、兵士たちを鼓舞し続けた――



           ♢




(――ニールか!? 凄いなっ!)


 

 俺が反発の【障壁】を前方に突き出し、5、6引きのゴブリンを突き飛ばした所だった。特大の炎の塊が、俺が向かおうとしている簡易砦の西側の魔物たちを焼き尽くした。


 どんどん増える魔物になかなか前へと進めないでいた俺は、その炎の塊が作り出した一条の道を利用して前線へと駆け出した。


 一度だけ後ろを振り向くと、冒険者たちは桝形虎口を利用して、上手く魔物たちを退けている。こちらに炎のブレスでサポートしてくれた古竜の子供は、力を出し尽くしたのか仰向けになって転がっているが、側には頼りになる魔獣使いの少女もいる。

 今は、せっかくの特大の支援を利用して、砦の前まで出るのが優先だ。



(……だいぶ、後ろに魔物を通してしまたが、あいつらなら大丈夫、俺はさらに前へっ!! 砦の前に出るっ!)



 俺は身体に取り憑かれないように、分厚い【障壁】を展開しながら、また波の乙女に命じる。



「――ミズハっ! また水蒸気爆発をやるっ! 出せるだけのウォーターボールを魔物の群れに放ってっ!!」


 目を合わせずとも、精霊たちは次の攻撃に向けて準備してくれていた。魔力はガンガン吸い取られているが、まだまだ魔力総量の5分の1も使われていない。俺の魔力総量を舐めるなよっ!

 

 俺が石を投げると、何も言わずとも火蜥蜴と土小鬼がただの石を燃え盛る火礫へと変化させる。その火礫は、波の乙女が名一杯作り出した8つの水球へと吸い込まれていく。俺のスキル【操作】による石の命中率は、戦闘中の高い集中力も相まって、100%だった。



 ドドドドドドドド―――ンっ!!!



 同時に8つの水球が爆発して、簡易砦の前方に殺到していた魔物のほとんどを吹き飛ばした。流石の魔物たちも、この戦略級の大爆発に進軍が止まる。


 できた時間で簡易砦の西側にも深い泥沼の堀を作り出す。これで、砦の国軍は前方の魔物に集中できるはずだ。



 爆発による砂煙が徐々に収まり、前方の魔物の群れの姿が、また、ハッキリと見えた。



「――さぁ、これから持久戦だ。みんな、最後まで頼むぜっ!!」

 


 俺は、砦の前方に仁王立ちして、まだまだ尽きる事のない魔物の群れを睨みつけた――

 

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拙い文章ですが、読んでいただいている皆さんに感謝です。楽しんでいただければ幸いです。
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