表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
201/456

リンカータウン防衛戦②


           ♢



「サムギルド長、こんな感じで良いですか?」



 俺は、簡易砦と街の間に、三重の泥沼地帯を作り出していた。

 一つの泥沼地帯の幅は約10メートル。かなり深く作った泥沼は、人二人分くらいは優に沈む深さだ。泥沼地帯には人が一人通れる程度の細い通路を作り、冒険者が囲まれずに戦えるように工夫した。


 泥沼の内側には、簡単な馬防柵を建てて簡単には泥沼を渡れないようにしてある為、魔物は細い通路を通ることになる。これなら、数に劣る冒険者たちでも長い時間戦うことができるだろう。


 本当は、簡易砦の前方にもこの仕組みを作りたかったのだが、砦と街の間に作り上げるので時間的に精一杯だった。

 この三重の防御地帯を作り上げた時と、ほぼ同じくして、前方の簡易砦から鬨の声が上がったのだ。



「――来ましたね。」


 サムが小さく呟く。



「――いいですか、皆さん! 我々はいかに時間を稼ぐかに注力します! ヒロさんが作り出した泥沼の堀を利用し、安全を確保しながら戦いましょう! 一つ目の堀が突破されたら二つ目、二つ目が突破されたら三つ目の堀を盾に戦うのです! 時間を稼いで、首都や近隣の街からの援軍を待ちます! いいですね!」


 サムの呼びかけに、100人ほど集まった冒険者たちが頷く。

 高ランクの冒険者はいない。B級に昇格したばかりの俺が最高ランクのようだ。それほど腕に自信のあるものはいないため、冒険者たちの表情は一様に緊張感で引き攣っている。



「――みなさん! 俺が考えられる知識を詰め込んだ防衛陣地です! みんなで力を合わせれば、かなりの時間が稼げるはずですっ! 頑張りましょう!」


 俺は、泥沼の配置に何個かの工夫を凝らしている。時間が足りないため、大掛かりなものはできていないが、守る戦いには、大いに役立ってくれるはずだ。



 しかし、冒険者たちが守る陣地に、真っ先に走り込んできたのは、何故か、前方の簡易砦に籠っているはずの国軍兵士たちだった――




          ♢



 クレージュ達国軍が籠る簡易砦は、完全に魔物に取り囲まれてしまい、自分たちの身を守るだけで精一杯の状況であった。


 相手はゴブリンやコボルトといった最弱の魔物。その為、なんとか砦の壁を利用して戦い続けられている。


 しかし、絶え間なく続く魔物の攻撃に、すでに兵士たちには疲労が見えてきた。まだ、魔物と戦い始めて15分と経っていない。こんなことでは、援軍がやって来るまで耐え切る事など、とても無理な話だろう。しかし――



「――皆、踏ん張れっ! 少しでも我らが魔物の数を減らすのだっ! ヘイトを稼げっ! この砦に魔物を意識を貼り付けろっ! 街へ魔物を行かせるなっ!」


 砦から出る事のできない自分たちが、すでに砦の後方へと向かい出している魔物に対処出来ないことは百も承知だ。だが、この命尽きるまで、魔物を倒し続けることが、街の住人を救う一助になるはす。そう考えて、クレージュは槍を振い続けていた。


 

           ♢



「――無理なんだよっ! あんな大量の魔物!」


「――あんた達も逃げた方がいい! 」



 国軍の兵士たちは、次々とこんな言葉を叫びながら冒険者たちが作った陣地を通り過ぎていく。


 そう、彼らは自分たちの役目を放棄し、自分たちの仲間を見捨てて、逃げ出してきたのだ。


 魔物の大群を前にして恐怖に耐えられなくなる気持ちはわかる。

 しかし、街を護るのが彼等の役割ではないか! 住民を護るのが彼等の役割でなないのか!


 陣地を守る冒険者達を横目に、次々と後方へと逃げていく兵士たち。俺は、その無責任な姿に怒りを覚えた。



「……おいおい、砦の国軍の兵士の半分は逃げて来たんじゃないか?」


 後ろにいた冒険者が呟いた。

 逃げながら恐怖を煽る兵士たちの言葉に、冒険者たちに動揺が走り始める。



「――拙いですね……。これでは、冒険者たちも逃げ出してしまうかもしれない……。」


 サムが焦りの表情を浮かべる。

 


(……集団戦で、士気が落ちれば、戦闘にならない……。)


 俺は決断した――



           ♢



 グレージュの周りの兵士達は、既に限界を超え始めている。死体を踏み台にして、壁をよじ登り、砦の中に入り込もうとするゴブリンやコボルトに応戦していた兵士たちが、次々と負傷し始めているのだ。



(………くっ、これほどまでに、数による暴力というものは圧倒的なのか………。こんなもの、いくら武の才能を磨こうと、役に立たないではないか………。)


 兵士のみならず、指揮官であるクレージュですら、心が折れかけている。声を張り上げて、兵士たちを鼓舞する余裕もない。


 北から続く魔物の群れは、まだ最後尾すら見えない。ここに居る魔物は5分の1にも満たないだろう。街を、民を守るべき我々が、こんなに簡単に敗北してはならない! ならないのだが、数に任せた魔物の脅威に、まるで対抗することができない。



(………あぁ、神よ! 何故このような暴挙をお赦しになるのか………。何故、罪のない人々をお救いにならないのか………。)


 クレージュは、自身が信奉する太陽神を恨んだ。この世には、神は居ないのかと………。



 そして、とうとう隣で奮戦していた副官に、ゴブリンが組み付かれ、押し倒されてしまった――




 ドド――ンっ!!




 その時、砦の後方で起きた大爆発に、クレージュも、周りの兵士も、そして魔物達でさえも、意識を惹きつけられたのだ――


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
拙い文章ですが、読んでいただいている皆さんに感謝です。楽しんでいただければ幸いです。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ