異変②
♦︎ ♦︎ ♦︎ ♦︎ ♦︎ ♦︎ ♦︎ ♦︎ ♦︎ ♦︎ ♦︎ ♦︎ ♦︎ ♦︎ ♦︎ ♦︎ ♦︎ ♦︎ ♦︎ ♦︎ ♦︎ ♦︎ ♦︎ ♦︎ ♦︎ ♦︎ ♦︎ ♦︎
「――おいおい、相変わらずアイツは気持ち悪いなっ!さっさと街から出ていけばいいのに。」
「まるで化け物だよな……白い髪に、白い瞳なんて。きっと魔物の血を引いてるに違いないぜ!」
「見てみろよ。アイツ、石をぶつけられているのに、血も流れないぜ。やっぱり化け物だろ!」
「なぁ、お前さ、あれだよな。 街で魔物って呼ばれてるガキだろ?」
「魔物の子供なんだろ。 このままダンジョンで仲間と仲良く暮らせよ。 嫌われ者の化け物が住むには丁度いいだろ? くくく……。」
「はぁ〜……。冒険者ギルドからは、ダンジョンの裂け目に落ちて行方不明と聞かされていたのだが?あのダンジョンの奥底から生きて帰ってこれるなんて、お前、やっぱり魔物の子供なんじゃないのかね??」
「ちょっと、白い髪の魔物が何しにきたんだいっ!ここは人様にお菓子を売る店なんだよっ!出て行っておくれっ!」
「もともと、お前を部屋に住まわすのは、嫌だったんだ。まったく、魔物の子供のくせに、人様と一緒に暮らそうだなんて……。」
♦︎ ♦︎ ♦︎ ♦︎ ♦︎ ♦︎ ♦︎ ♦︎ ♦︎ ♦︎ ♦︎ ♦︎ ♦︎ ♦︎ ♦︎ ♦︎ ♦︎ ♦︎ ♦︎ ♦︎ ♦︎ ♦︎ ♦︎ ♦︎ ♦︎ ♦︎ ♦︎ ♦︎
俺は、毎日のように浴びせられた、街の住人からの悪意ある言葉と、繰り返された嫌がらせ、そして心を抉る暴力を思い出していた……。
ナナシとして、この街で過ごした少年期。
ヒロとして目覚めてから過ごした日々。
どこをとっても、この街の住民と過ごした日々の中に、良い思い出を探すのは難しい。
――こんな街、魔物に襲われて滅びてしまえ!
心の中で、こう叫ぶ自分がいる。
自分に辛く当たり続けてきた街の住人を、何故、自分が命をかけて護らなくてはならないのか?
しかも、相手は絶望的な数の魔物。あまつさえ街を救えたとして、俺自身が無事でいられる保証はないのだ……。
♦︎ ♦︎ ♦︎ ♦︎ ♦︎ ♦︎ ♦︎ ♦︎ ♦︎ ♦︎ ♦︎ ♦︎ ♦︎ ♦︎ ♦︎ ♦︎ ♦︎ ♦︎ ♦︎ ♦︎ ♦︎ ♦︎ ♦︎ ♦︎ ♦︎ ♦︎ ♦︎ ♦︎
「――おめでとう!ナナシ君。これで晴れて冒険者登録ができるわね。そしてお誕生日おめでとう! 」
俺の誕生日を祝ってくれた人がいる――
「お前に会えたら、絶対に謝りたいと思っていたんだ。そして、お前に感謝の気持ちを伝えたかった。俺は、お前の言葉に勇気を貰えて、そして救われた。ありがとう………。」
俺を目標にして頑張っている人がいる――
「冒険者になるだけで満足したら駄目だぞ、少年。冒険者になって、そこから、俺と同じように英雄を目指せ! 自分の存在が人の希望になるような英雄になれ!」
俺を救ってくれた優しい剣士は、俺に目指すべき道を示してくれた――
「いっしょに、強くなろうね。そして優しい英雄になろうね――」
彼女と優しい英雄になろうと誓ったんだっけ――
♦︎ ♦︎ ♦︎ ♦︎ ♦︎ ♦︎ ♦︎ ♦︎ ♦︎ ♦︎ ♦︎ ♦︎ ♦︎ ♦︎ ♦︎ ♦︎ ♦︎ ♦︎ ♦︎ ♦︎ ♦︎ ♦︎ ♦︎ ♦︎ ♦︎ ♦︎ ♦︎ ♦︎
目を瞑って思い出せば、俺の事を心配したり、気遣ってくれた人の顔が浮かんだ。
彼ら、彼女らは、俺の心を救い、支えてくれた。
そして、その人の中には、やはりこの街の住人もいる。
――弱い者を見捨てて、何が優しい英雄か!
心の中で、こう叫ぶ自分がいる。
自分が憧れた英雄なら、きっと弱い者たちの前に立って戦うだろう。
優しい剣士が、得意のポーズを決めながら、笑っている姿が目に浮かんだ。
♦︎ ♦︎ ♦︎ ♦︎ ♦︎ ♦︎ ♦︎ ♦︎ ♦︎ ♦︎ ♦︎ ♦︎ ♦︎ ♦︎ ♦︎ ♦︎ ♦︎ ♦︎ ♦︎ ♦︎ ♦︎ ♦︎ ♦︎ ♦︎ ♦︎ ♦︎ ♦︎ ♦︎
「あなた自身は人に悪意をむけないで。優しいあなたが私は一番好きよ。」
♦︎ ♦︎ ♦︎ ♦︎ ♦︎ ♦︎ ♦︎ ♦︎ ♦︎ ♦︎ ♦︎ ♦︎ ♦︎ ♦︎ ♦︎ ♦︎ ♦︎ ♦︎ ♦︎ ♦︎ ♦︎ ♦︎ ♦︎ ♦︎ ♦︎ ♦︎ ♦︎ ♦︎
最後に、前世で言われたこの言葉が胸に残った。
いつも、俺の心を落ち着けてくれて、そして、覚悟を決めさせてくれる言葉。いつでも、迷った時に、俺に道を示してくれる言葉。
――俺は優しい英雄になるんだろ!
俺の気持ちは決まった。
街を護る。
友人を護る。
仲間を護る。
知らない人も護る。例え、その人が俺のことを嫌っている人たちだとしても……。
心の整理がついてしまえば、やる事は単純だ。
「――わかりました。僕は街の防衛戦に参加します!」
難しい顔で考え込んでいた俺を心配していたのだろう、周りを見ると、仲間たちがじっと俺の顔を見つめていた。
みんなな顔を見回して、ふと、力が抜けた俺は、みんなに笑いかけた。
「――みんなも、一緒に手伝ってくれるかい?」
その言葉を待っていたかのように、みんながにっこりと笑った。
「当たり前でしょ、ヒロ兄ならそう言うとおもったし!」
「そうね。たぶんヒロ君ならそう言うと思ったわ。」
「付き合いは短いですが、私もそうなると思っておりましたぞ。微力ですが、私もお手伝いいたします!」
命懸けの戦いになる。
それでもついてきてくれる仲間たちに感謝すると共に、ありがたい気持ちと、彼らの命を危険に晒す責任を胸に、俺は、魔物の大群に立ち向かう決意を固めた――
みなさん、評価やコメントなど、ぜひぜひよろしくお願いします!