再会
♢
「――ヒロ兄っ! ヒロ兄いるっ?」
俺と竜騎士で、宿の食堂で朝食を取っていると、賑やかに弾むような声が聞こえてくる。
口の中のパンを無理矢理飲み込んで、宿のカウンターを覗いてみると、そこにはダンジョン=リンカーアームで訓練しているはずのナミとアメワが立っていた。
「――ヒロ兄っ!!」
俺を見つけた黒髪、白瞳の魔獣使いの少女が飛びついてきた。小麦色の肌は健康的で、溌剌とした彼女は、満面の笑みのまま俺に抱きついている。
「――氷狼さんのところに、サムギルド長からヒロ君がこの宿に泊まっているって連絡があったの。」
そう言ってゆっくりとこちらに歩いてくる付与術師は、綺麗な黒髪のポニーテールを低めに纏め、遠慮がちに微笑んでいる。
「やぁ、久しぶりだね! ナミっ! アメワっ! 2人とも元気だったかい?」
ダンジョンに行かなくては会えないと思っていた仲間たちの顔を見て、思わず俺も笑顔になる。
「――ヒロ兄、私に会いたくなっちゃった? だからリンカータウンに来たんでしょ! ふふっ!」
まるで遠距離恋愛でもしているみたいな言い方に、思わずアメワと俺は顔を見合わせてしまう。しかし、それを目敏く見つけたナミは、今度は頬を膨らませて怒り出す。
「――ちょっと、アメワ姉っ! なにヒロ兄と目線だけで会話してるのよっ! ヒロ兄も、アメワ姉ばっかり見てないで、私の事を見てよっ!」
ナミの謎の嫉妬に、またアメワと俺は顔を見合わせて苦笑い。それを見咎めて、またナミが騒ぐので、「2人とも会いたかったさ」と、俺はナミを抱え上げて抱きしめた。
すると、ナミは、顔を真っ赤にして急に大人しくなる。それを見て、またアメワと笑い合った。
「――ヒロ殿、そちらの方々は、パーティーのお仲間ですかな?」
後ろから俺たちの様子を見てけいた竜騎士が顔を出したので、それぞれ紹介しあう。
竜の顔そのものの竜人の姿に、2人は最初こそ驚いたものの、流石に氷狼相手に訓練しているだけあって、すぐに落ち着いてギースと握手を交わしていた。
「――あれ? ベルっちは?」
ふと、おしゃべり妖精が俺の側にいない事に気づいたナミがキョロキョロとベルを探し始めたので、しっかりと事情を説明する為に、俺たちは、ベルの寝ている部屋に移動することにした。
♢
「えっ……!? えっ、どういう事!? この女の人がベルっちだっていうの!?」
「……うそでしょ!? ヒロ君、何がどうなってるの!? 本当にベルさん??」
ベッドに横になるおしゃべり妖精の姿を見て、ナミとアメワが目を白黒させて驚いている。
昨日の冒険者ギルドでは、ベルを直接観ていない為、ギルド長もフィリアさんも、なんとなく他人事のような感じだったが、まさに目の前に大きくなったベルを見れば、ナミとアメワが驚くのは無理のない話だと思う。
俺だって、未だに夢が現かと考えるもの。
「……ベルさん、ナミとアメワだよ。起きられる?」
まだ寝ていた妖精に声をかけると、
「……こんなに賑やかなのに、気づかないわけがないでしょ!? まったく、相変わらずナミは騒がしいんだから。」
身体を起こさないまま、にこやかに話すベルに、ナミが続ける。
「――だって、ベルっちの今の姿を見れば、誰だって驚くよっ! 何がどうなったらそんなに大きくなるのっ!? 」
「……何がって……、まぁ、日頃の行いが良いから、私の望みがかなったのかしら? これで、ヒロと腕も組めるし……、ふふっ、ナミもナギも残念だったわね〜。」
「な、何が残念なのよっ!」
「……だって、今まで私が小さい身体だったから、私はヒロに相手にされてないと思ってたでしょ? これで私とヒロの間には、なんの障害も無くなったわけ!」
ふふふ、と、力の無い声で笑う妖精に対して、いつからか大きくなった犬歯をギリギリと鳴らして悔しがるナミ。まったく、なにを張り合っているのか。
「――まぁまぁ、せっかく久しぶりに会ったのだから、2人とも落ち着いて。それにしても、本当に驚いたわ。まさか、ベルさんが人の姿になっているなんて……。」
アメワのおかげで少し場が落ち着いたので、俺は、みんなと別れてからの経緯を説明し始めた。
ベルが不思議な薬を浴びて大きくなったこと。古竜の子供を助け、そのまま預かる事になったこと。その際に知り合った竜騎士と大剣使いの2人をパーティーに加えたいということ。
ひと通り話した所で、ベルのベッドに潜り込んでいたニールが顔をだした。
「こいつが、古竜の子供のニールだよ。これからはこいつも一緒に冒険することになる。2人ともよろしくな!」
ニールを見て、わかりやすく喜ぶナミ。ニールもナミに飛びついて可愛らしく鳴いている。
この様子をみるに、もしかしたら、ナミの【キーパー】という才能と、【飼育】、【テイマー】というスキルが、古竜であるニールにとっても心地よいものなのかもしれない。
これは、もしかしたら良いコンビになるかも?
氷狼にも相談して、ニールをナミに預けてみるか。お互いが力を発揮できる環境が良いに決まっているし。
いまだに具合の悪そうなベルは心配ではあるが、ナミと2人でキャアキャア騒げるくらいには元気が出たようだ。2人に僕らの宿を伝えてくれたサムギルド長と氷狼に感謝しなきゃ――
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