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冒険者章②


 俺は、目の前にいる3人に、おしゃべり妖精が不思議な薬によって身体が人と同じ大きさまで大きくなった事を説明しながら、この間、何かしようとして思い出せないでいた事を考えていた。


 そう、身体の大きくなったベルに、預かっていた冒険者章を渡そうと思っていたのだ。



「ベルさんの身体が大きくなったなんて、そんな不思議なことがあるのね……。」


「僕も長く生きてはいるが、妖精が人になるなんて話、聞いたことないよ。本当、君の周りでは不思議なことが起こりすぎるよ……。」


「な……、なんと……、ベル殿が元々は妖精だと申されるのか……。」



 三者三様、それぞれかなり驚いた様子。そりゃ、俺だってまだ信じられない気持ちがあるもの。


 ギースにとっては、出会った時から今の姿のベルさんしか見た事ないわけだし、それは当たり前に驚くよね。

 なんか、冒険者ギルドに来てから、知らないことばかり聞かされてしまい、竜騎士には申し訳ない気持ちだ。これから一緒に冒険してくれる仲間なんだし、しっかりと話しておかなきゃな。



「それじゃあ、このベル君専用の冒険者章は無駄になったかな。まぁ、普通の冒険者章を身につけられるなら、それに越した事はないけどね。」


 おしゃべり妖精の実際の姿を観ていないサムギルド長とフィリアさんも、半信半疑の様子だが、ギースの驚く様子から、ある程度確信したようだ。



「あ、でも、彼女も喜ぶと思うので、一応、いただいていっても良いですか?」


 せっかく作って貰った特注品だし、もしかしたら、また元の姿に戻ることもあるかもしれないし。

 

「そうかい? なら、君に渡しておくよ。」



 それを聞いたフィリアさんが机に置かれていたベルの新しい冒険者章を俺の手で包ませるように手渡した。


「ヒロ君、ちゃんと渡してあげてね。前から言ってるけど、冒険者章を他人に預けるって事は、冒険者にとって縁起の悪いことなんだから。」



 そう、初めておしゃべり妖精と2人で冒険者登録をした時からずっと、フィリアさんに言われ続けていたことだ。


「ベルさんは人族のくだらないジンクスよって笑っていたけど、私、ずっと気になっていたの……。やっぱり、冒険者にとって、ジンクスっていうのは気をつけておくものだと思うのよ。」



 いつも心配してくれるフィリアさん。さっき、あんな風に文句を言った俺にも、まったく変わらずアドバイスをしてくれる。


「――あと、ヒロ君、ベルさんを大事にしなきゃダメよ! 彼女がいるから、あなたの心も安定してるのだと思うの。」


「―――。」


「今日1日のあなたを見ただけでもそう思うわ。」


 

 フィリアは、ニッコリと笑いながら、小箱を握る俺の手を包み込む。ギュッと包み込んだ手に力が入り、最後にまた一言、「ジンクスなんかつかない方が良いの」と。

 

 やっぱりフィリアさんは大人だな。俺も本来ならアラフィフ親父なはずなのに、全然敵わないや。



「ちゃんと渡しますよ。宿にもどったらすぐに。」



           ♢



 宿への帰り道、頭にニールを乗せながら、竜騎士と並んで歩いていた。竜騎士には、今まで色々と話せていなかった事について謝罪すると、まだ日も浅く、そんな話をする余裕もなかったのだから気にするなと笑って許してくれた。


 これから、大剣使いのハルクと共に【アリウム】の皆んなにも紹介しながら、お互いの事を理解していかなくてはならない。リーダーは一応、おしゃべり妖精となってはいるが、実質、俺が中心になってまとめていかなくては……。


 人が増えれば、考えなくてはならない事も増えていく。前世の会社勤めの頃も人間関係では苦労した訳だし、この世界では皆んなに嫌な思いをさせないようにしなくては……。



           ♢



「ピー、ピ、ピピーーっ!」


 宿に戻り、今日1日大人しくしていたニールがおしゃべり妖精の元に飛んでいく。


 まだ俺たちと一緒に歩くようになってまだ間がないが、俺から一生懸命魔力を吸い上げてる影響か、古竜ニールには小さな翼が生えていた。親たちには、かなり立派な翼があったし、いずれはこの子もあんな凄い姿になるのだろうか。



 ニールの体重を感じたベルが目を覚ます。


「……おかえりなさい。どうだった? ヒロの事だから、また凄いスキルでも授かっていたんじゃないの?」


 力の入らぬ様子で話すおしゃべり妖精。やはり、まだ具合は悪いようだ。



「あ〜……、今度こそ私の才能がわかるはずだったのに、私も行きたかったわ……。」


 一度身体を起こしたおしゃべり妖精をベッドに寝かしてやる。こんなに元気のないベルさんは、とても見ていられない。

 彼女は、横になるとすぐに目を瞑り身体の力をぬやいた。



「――ごめんね、ひろ。迷惑かけて……。すぐに良くなるから、ちょっと眠るわね……。」


 俺はすぐに渡すつもりだったが、ベルの冒険者章をズボンのポケットの中で握りしたまま部屋をでる。



「……ベル殿の体調は、あまり良くなさそうですな。」


 竜騎士の言葉に頷き、冒険者章を渡すのは、また次の機会にするか、と部屋の扉を閉める。



――どうにかして彼女の体調を戻してあげられないだろうか。



 おれは、冒険者章の入った小箱と、前から預かっているベルの冒険者章をリュックしまい、明日のダンジョン探索に備えて眠りについた。


 

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拙い文章ですが、読んでいただいている皆さんに感謝です。楽しんでいただければ幸いです。
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