冒険者章①
「渡すものがあるんだ。ちょっと僕の部屋に寄ってくれるかい?」
才能判定が終わると、サムギルド長が自分の部屋に寄るように声をかけてきた。なんの話だろう。
早くダンジョン=インジブルシーラに行けって話かな? やっぱり、ベルさん置いていかないといけないかな。
♢
サムギルド長と一緒に部屋に入ると、後ろから小走りにフィリアさんが入って来る。
「……さっきは、ごめんなさいね。悪気はなかったの。でも、気をつけなきゃだめね。気づかずに人を傷つけることもあるから。」
フィリアさんは、先程のやり取りをまだ引きずっているようだ。
「――こちらこそ、いつもお世話になっていて、フィリアさんに悪意が無い事わかっているのにあんな風に怒ってしまって……、ごめんなさい。」
お互いに頭を下げ合う2人。こうやって、ちゃんと自分の非を認められる仲なら、悪い方向へは進まないよね。
「いつもなら、ベルさんが大騒ぎしてそう。――ベルさんが居ないから、調子狂っちゃうわね。」
フィリアさんもそう思います? 俺もそう思います。やっぱり、彼女に助けられてる部分が大きいんだな。身体が小さいままでも、急に大きくなっても、彼女の存在感がありすぎる。
「ところで、聞きそびれていたんだけど、ベルさんはどうしたの? いつだってあなたと一緒にいるのに。」
俺は体調を崩して宿屋で休んでいる旨をフィリアに伝え、合わせてサムギルド長にも、シーラタウンへの旅が中断している事を伝え、ベルの体調次第で、彼女を連れて行くかどうかを決めると報告した。
ファリアは、ベルを心配しながら、「大事にしてあげるのよ。」と話し、サムギルド長も「事情はわかったよ。」と理解してくれた。そして、
「さっきは、僕も悪かったよ。改めて申し訳ない。」
サムギルド長も再び頭を下げた。
約一名、相変わらず仲間の竜騎士だけ状況を読み込めずにオロオロしている。ごめんよ、ギースさん。
「――ところで、俺に渡す物とはなんなんですか?」
すると、フィリアがギルド長の横に立って、小さな箱を机に置いた。そしてその脇に真新しい冒険者賞を並べる。
「そうそう、――おめでとうヒロ君。首都のグランドマスターからの推薦で、君はB級冒険者にランクアップしたよ。魔術師大学での一件は、グランドマスターからの緊急クエストとして扱われたそうだ。そのクエスト成功をもって、君のランクアップが認められたよ。」
「――なんと! ヒロ殿がB級冒険者に! それは凄い! おめでとうございます!」
竜騎士が興奮して俺の手を握る。
「やっぱり凄いわね、ヒロ君は。これは、本当に関心しているのよ? おめでとう!」
フィリアが満面の笑顔で俺を祝福する。
「これが君の新しい冒険者章だ。受け取ってくれるね。」
ギルド長から、B級の文字と俺の名前が記された新しい冒険者章を渡された。トラブルメーカーなんて笑われたりしたけれど、それだけ大変なクエストをやり遂げてきたという事なのだろう。
とうとう、目標であるあの優しい剣士と同じ等級まで上がることが出来たのだ。こんなに嬉しい事はない。
「――ありがとうございます! やった、やったよベルさんっ! とうとうB級冒険者になれたよっ!!」
ふと横を向くと、困った顔で竜騎士が頭を掻いていた。そうだ、ベルさんは宿屋で休んでるんだっけ。さっきもそんな話したばかりなのに、俺とした事が、なんとも恥ずかしい。
「ごめんなさい、ギースさん、つい……。」
「……いやいや、長く一緒に過ごしてきたベル殿と、その喜びを分かち合いたいのは当たり前ですぞ。早く宿に帰ってベル殿にも伝えてあげましょう! きっと大喜びするはずです。」
竜騎士の気遣いに感謝しながら、早く優しい妖精にこの喜びを伝えたくて、俺の表情も緩んだ。
「――そのベル君なんだが、冒険者ランクは上がらなかったが、変わりに彼女サイズの冒険者章が完成したんだ。一緒に渡そうと思ってね。」
そう言って、サムギルド長が俺の冒険者章の隣に置かれていた小箱をあける。すると、中には指輪に似た形の冒険者章が入っていた。
それは、妖精の腰につけられる様に作られており、小さいながらも、D級の文字とベルの名前が刻んである。
「なかなか妖精用のサイズの冒険者章のデザインが決まらなくて難儀していたんだが、これでやっとベル君にも冒険者章を渡せるよ。」
それを見た竜騎士が不思議そうに聞いてきた。
「ベル殿の冒険者章が、何故、指輪型なのですかな? 特別製??」
竜騎士の頭の上にはハテナが飛び交っている。
「あの……、実は……、」
サムギルド長とフィリアは、おしゃべり妖精の身体が人サイズになった事を知らないし、竜騎士は、ベルが元々は妖精だった事を知らないんだった。
この後、説明に、しばらく時間がかかった事は言うまでもないだろう――