感情
「――ヒロ君は、人の何倍も修羅場をきりぬけてるわね〜。流石よね。」
「そぉだね。これだけ毎回トラブルに巻き込まれても切り抜けられる強さが、ヒロ君の凄さだよね。」
笑いながら言われても、全然嬉しくないんですけど!?
笑いのネタにされてる感が否めないのだが……、半笑いのギルマスとフィリアさんは褒めてるの? それとも俺は馬鹿にされているの?
そして、ギースさんは俺の謎の経歴にちょっと引いてるんじゃない?
「なんと、ヒロ殿は、それほどまでの冒険を……、ちなみに、崖から落とされたというのは、どんな冒険だったのですか?」
……いや、それ、いじめられっ子が、酷い嫌がらせをされただけですから……。思い出したら、悲しくなってきた。あの3人組、この間、泥の中に埋めるだけじゃなくて、なんかもっとキツイ復讐をしておけば良かったかも……。
「――フィリアさん! さぁ、早く僕の才能判定やりましょうよ! 」
フィリアさんは、まだ若干の半笑いの状態だけど、なんとか石板の準備を始めてくれた。口元を手で隠しているが、まだ笑い続けている。
なんか、嫌がらせしてるつもりはないんだろうけど、すごく腹がたってきた。何故こんなに笑い者にされなきゃいけないの? いくら親しい人だとしても、なんだかちょっと、怒りが湧いてきた。
「――言っておきますけど、いじめられてる人間を笑う行為は、笑った人間もいじめ側の人間になりますからねっ!」
「「―――っ!?」」
「――僕は嫌がらせには慣れてますが、慣れていても不愉快な事には変わりありませんから。」
「ヒロ殿? いじめとは、どういう……?」
なんだろ、最近、こんな程度の事でこんなに腹を立てる事なんてなかったのに……。しかも、いつもお世話になってるギルマスやフィリアさんに……。
「――ごめんなさい、ヒロ君、調子に乗り過ぎたわ……。あなたがそんなに怒るなんて思わなかったの。私の気遣いが足りなかったわ……。」
「ごめんよ、ヒロ君。君に嫌な思いをさせるつもりはなかったのだが……、これが無意識の悪意というやつだね。反省するよ。申し訳なかった。」
2人は慌てて頭を下げる。こうやって、相手に寄り添って考えることは大事だな。俺も知らないうちに人を傷つける事のないように、気をつけなくては――
「――すいません、僕もちょっと感情的になりました。でも、相手が嫌がることはしない方がよいですよ。」
そうか、いつもなら、俺の代わりに怒ってくれる仲間がいたから、俺の気持ちが揺れ動くことがなかったんだな……。
彼女がいないと、こんなに余裕がなくなるなんて……。
――ベルさん、いつもありがとう。
「………ヒロ殿? いじめとは、どういう事なのでしょうか……?」
若干一名、状況を理解できずにオロオロしている竜騎士が立っていた。
♢
気を取り直して、俺は石板に魔力をこめる。
申し訳なさそうに脇で見守るフィリアさんに、ちょっと厳しい事を言いすぎたかな、とか、雰囲気を悪くしてしまったかな、とかも思ったが、一方的に嫌なことを我慢して、それを相手が気づかないなんて関係もよろしくはないと思うし、今回は反省してもらおう。
▼
クラス 精霊使い
才能1 アンチ/エンパシー
(反対、拒絶 対抗/共感、同情)
才能2 ダブル
(2重、2倍)
才能3 ムービング
(移動、動かす)
スキル 障壁 LV105
同調 LV16/複合 LV12
剣術 LV5
投石 LV8
採取 LV2
操作 LV5
▲
「なんと! 本当に第3の才能を授かっておられる。第3の才能を授かる事ができるというのは、伝説ではなく、本当の事であったのだな。」
竜騎士は、俺の第3の才能を見て、しきりに感心していた。伝説には謳われているが、実際に第3の才能が開花した者は、近年ではまったくいないらしい。第3の才能が確認された時、ギルド長もかなり驚いていたし、本当に凄い事なのだろう。
「この【障壁】といスキルのレベル、105というのは何かの間違いではないのですか? こんな出鱈目な数字聞いた事ないのだが……。」
これもびっくりするよね。俺も聞いた事ないもの。しかも、とうとう3桁のレベルに達してしまった。レベルには上限は存在しないのだろうか。
「――ヒロ君……、Lv105って、ギースさんでなくとも驚くレベルよ。」
「君は本当にとんでもない成長だね。他の誰がこんなレベルのスキルを持っているだろうか。先程は笑いにしてしまったが、やはり君は凄い冒険者だよ。」
最近は、水蒸気爆発に繋げるルーティンの為に、魔力の操作、水球の操作、石のコントロールなど、魔力から物まで、様々な物を動かす為にスキル【操作】を使う事が増えている。
その為か、【操作】のレベルが5まで上がっている。魔力の操作にもこのスキルが役にだっており、相変わらず魔法は使えないのだが、自分の中にどのくらいの魔力が残っているかの感覚もわかり始めている。
精霊たちや、ニールに魔力を分け与える量の調整もできるようになってきたし、このスキル【操作】を覚えられた事は、これからの冒険において、かなり重要になりそうだ。
「ヒロ殿、この第1の才能の記載はどういう事なのでしょうか? 2種類あるように見えるのですが……。」
そう、おそらくアリウムと俺、それぞれの第1の才能が記載されている。これについても、当初はかなり驚かれたものだ。
俺は、実質4つの才能を持ってることになる。
「――やっぱり、ヒロ君は、とんでもないと思うわよ?」
俺が気を悪くしないように、気を遣いながら話すフィリアであった。
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