竜騎士
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「君が竜騎士のギース君か。僕はリンカータウンの冒険者ギルドマスター、ハンド・サムだ。ヒロ君のパーティーに入る事になったなら、なかなかハードな冒険が待っているだろうけど、命を大事にして、しっかりと頑張るんだよ。」
サムギルド長が、ギースと握手を交わす。
「私は、ヒロ殿に大恩の有る身です。また、古竜王ゴズ様の御子息、ニール様の御身の安全を護る役目もありますれば、簡単に自らの簡単に命を捨てることなどありえませぬ。ただし、竜騎士の誇りをもってヒロ殿とニール様の為に働く所存です。」
なんともお堅いやり取りをしてらっしゃる……。
仲間として迎えたんだから、あんな主従関係みたいなのは無しでお願いしたいのだけど、【竜騎士】ってクラスは、名前に騎士つくだけあって、そういうものなのかな。
それにしても、サムギルド長も、俺との冒険はハードだなんて……。まぁ、ヒルコとやり合ってる訳だし、やっぱり危険だよな。
「――さぁ、才能判定は、ギースさんからで良いかしら? こちらの石板に魔力を通してくださいね。」
フィリアさんの優しい声で、その場の者たちが石板の前に集まる。いつも、この瞬間はちょっとだけ緊張するな。なんか、秘密が暴かれるみたいで。
ギースが石板に手を翳して魔力を通すと、さっそく彼の才能が表示された。
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クラス 竜騎士
才能1 シルバリー
(騎士)
才能2 ヒーリング
(回復魔法)
スキル ライド LV8
回復魔法 LV5
槍術 LV8
盾術 LV8
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「ほぉ〜、君は回復魔法が使えるのかい? 【ヒーリング】の才能持ちとは、ヒロ君のパーティーは人材の宝庫だね。」
事実、この世界で【回復魔法】が使える冒険者は少ないらしい。それが、僕ら【アリウム】には、ソーンとギース、2人もヒーラーがいる事になる。これは、他のパーティーからすると垂涎の的だろう。
ただ、ギースは、魔力量にはあまり自信が無いと話していた。
新月村での一件でも、必死に怪我人たちの治療に当たっていた彼だが、回復魔法でギリギリまで魔力を使い過ぎて、何度か気を失っていたのだ。
本来、竜人族であれば、魔力総量は多いらしいのだが、彼は若い頃から、【竜騎士】として、下級竜を乗りこなす練習ばかりやっていて、【回復魔法】の練習をあまりやらなかったらしい。
年齢を重ねてから、「あれをやっておけば、これもやっておけば……。」なんて後悔するもんだよね……。
そこら辺、俺は、人生2度目みたいなものだし、実年齢がアラフィフである俺には、実に身に染みて感じる事でもある。
「いつも、自分の相棒の竜との戦闘訓練ばかりに集中してしまい、どうも回復魔法の訓練をサボりがちでして……。面目ありません……。これから、皆様の御期待に添えるよう頑張ります。」
ギースは頭を書きながら、少し恥ずかしそうに頭を下げた。どうしても、人間好きな事、楽な事に流されてしまいがちだし、苦手な事は後回しにしてしまいがちだ。
龍人族にとっての【竜騎士】という存在は憧れの的だったと言っていたし、きっと【竜騎士】というクラスをしっかりとやり遂げたいという思いが強かったのだろう。
俺も人を笑っていられない。しっかりと苦手な事にも努力を続けていかなくては。
「ギースさん、魔術師大学のシリウム学長が教えてくれましたが、魔力総量は、使えば使うほど増やす事ができるそうですよ。これからの努力次第で、まだまだ才能は伸ばせます。一緒にコツコツ頑張りましょう。」
「――そうそう。ヒロ君と一緒に冒険していれば、頑張りたくなくても頑張らないといけなくなるから、その辺りの心配はいらないよ。」
ハハハっ、と綺麗な顔でにこやかに笑いながら、何故かサラッと毒のある言葉を織り交ぜてくるギルド長。なんだか、ギルド長の俺への評価って酷くない? 俺ってそんな感じに思われていたのかな?
「――そうですね。ヒロ君と一緒だと、トラブルに巻き込まれがちなので、ギースさんも覚悟しておいた方が良いですよ。」
ウフフ、とフィリアさんが、笑いながら話している。まさかフィリアさんまで俺に対するそんなイメージだったとは……。なんか、ギルド長と並んで俺の話で盛り上がってるし……。
「然り! まぁ、まさに私もヒロ殿に降りかかったトラブルの一員でしたなっ! ギルド長殿も、受付譲殿も、ヒロ殿の事をよくわかっていらっしゃる!」
ワハハ、とギースさんまで笑い始めた。
んん!?トラブルの一員だったあなたが、悪びれもなく笑ってるのはどういう事なのかな? 村人煽って俺たちを襲った張本人でしょ!?
俺の話で3人が盛り上がってるけど、俺一人、なんか釈然としない……。
「――あの、僕、そんなに巻き込まれ体質では無いと思うのですが?」
崖から落とされたり、ゴブリンの大量発生で危険な目にあったり、ダンジョンの浅階層で強力な魔物に襲われたり、古竜の子供を救い出したり、3人の使徒に出会ったり、ヒルコの分身体と戦ったり……あれ!? どうなんだ?
思わず、3人に話しかけると、一度俺の顔を見てから、今度はお腹を抱えて笑い出す3人であった。