休息
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「――すいません、ギルマス。まだダンジョン=インビジブルシーラの使徒アエテルニタスに会いに行けてなくて……。」
「しょうがないさ。まさか、古竜の卵が奪われていたなんてね。でも、君は益々物事を引き寄せる少年だね。」
リンカーカウンターの冒険者ギルドのギルドマスター、バンド=サムは、俺が連れてきた古竜の子供、ニールを見ながら呟いた。
「――しかも、古竜王から子供を託されるなんてね……。僕や氷狼が考えているよりも、君は何か不思議な縁を繋ぐ力を持っているのかもね……。」
サムは、一口紅茶を口に含むと窓の外に視線を移した。
「――それで、いつ頃出発できそうだい?」
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俺たち一行は、体調の優れないおしゃべり妖精をなんとかリンカータウンまで背負い、宿屋に部屋をとった。
俺の見た目と、竜人族のギースの顔を見た宿屋の主人が、ギースに背負われているベルを誘拐してきたものと勘違いして、役人を呼ぶなんていうハプニングがあり、冒険者章を見せた上に、また冒険者ギルドにも確認してもらうという大変な手間をかけてベルをベッドに寝かせる事ができた。
そうそう、この街はこういう街でした……。
俺の容姿に対して、未だに「魔物の子供」と言って白い目で見てくる。もう、少年と呼ばれる歳ではないと思うのだが、まぁ、身体つきもなかなか逞しくならない俺だから、それもしょうがないか。
おしゃべり妖精を宿屋で休ませ、これまでの経緯の説明と、新しい仲間の紹介のために、冒険者ギルドを訪れたのだ。
「ヒロ君、ベルさんの様子は大丈夫なの?」
まだ大きくなったベルの姿を見ていないフィリアさんは、おしゃべり妖精の体調不良を告げると、いつでも周りで姦しく騒がしいベルが俺の側にいない事をとても心配してくれた。
薬の副作用かとも思われるのだが、実際に何が影響しているのかわからない為、説明もあやふやになってしまう。
「――体調不良の原因がわからないので、とりあえず少し休養を取ってもらってます。本人からは、大丈夫の一点張りなもので……。」
とりあえず、一週間程度の休養を取って、それでも回復しないようなら、ベルをアメワとナミに預けていこうかと考えている。おそらく、おしゃべり妖精は猛反対するだろうけど……。
「しばらくはこの街に滞在しますので、こちらのギースと一緒にダンジョンに潜りたいと思います。少し、路銀も稼がないとですからね。」
氷狼にも一度会っておきたいし、アメワとナミにも竜騎士と大剣使いの事を紹介しておきたい。あ、ニールの事も紹介しなくちゃな。
「あ、あと、久しぶりに才能判定お願いします。こちらのギースも一緒に。」
久しぶりに才能判定の為に部屋に入ると、ギルドマスターが待っていた。そこで、サムギルド長に色々と説明することになったのだ――
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「いやぁ、君の成長の速さは素晴らしいからね。第三の才能の事もあるし、ぜひとも同席させておくれよ。」
勿論、他言はしないよ、と言うギルマスの勢いに負けて才能判定に同席を許した。
「――なんと!? ヒロ殿は第3の才能に目覚めておいでなのか!? どうりであんな極大魔法を使えるわけだ……。さすがヒロ殿ですな!!」
サムの言葉に反応したのは、竜騎士のギースであった。そういえば、彼とはまだ、才能やスキルの話はしていなかったな。これから一緒に冒険に行くわけだし、ちゅんとお互いを知らなきゃね。
「ごめんね、ギースさん。まだ、その辺りの話をした事がなかったね。これからの事もあるから、今回の才能判定で、お互いの特長を把握しよう。」
ちなみに、街道での戦いで見せた攻撃は、極大魔法ではなく、精霊たちの力を借りた、自然現象だと説明したのだが、科学という概念がないこの世界では、なかなか理解が及ばないらしい。自然現象についても、精霊の悪戯程度に考えられている世の中では、なかなか難しいのかもしれないな。
「人族だというのに、精霊を使役できるのですか!? 普通は、エルフなどごく一部の精霊と親和性の高い種族しか精霊に力を借りる事はできないと聞いておりましたが……。」
一般的にはそうみたいですね。
「あと、ヒロ殿が魔法を帯びた剣をお持ちだったので……。」
ともかく、俺は【精霊使い】であって、魔術師では無いと説明したが、なかなか腹落ちしないらしい。まぁ、才能判定で俺のステータスを見てもらえれば、納得してもらえるだろう。
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『――ヒロは、凄いのよ!?』
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あれ、いつもならこんな台詞が聞こえてくるような……。
やっぱり、ベルさんが居ないと調子くるっちゃうな。
いや、いつもは調子を崩されてるはずなんだけど……。
あれ、それじゃ、調子を崩された状態ってのが、俺の本調子ってことか!
いつでも一緒にいてくれるおしゃべり妖精の事がいない事が、とても寂しく感じられる――
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