仕切り直し
三日月村のみんなは、新しい住人になるナギの両親に対して、かなり友好的であった。
とくに、ナミの両親、アメワの両親、カヒコの両親が、親身に動いてくれて、ナギの家族が住む為の家も、すぐに手配してくれたのだ。
「今は、どこの村も人口が減っているからね。安心して迎えられる移住者なら、大歓迎なんだよ。」
カヒコの父親が俺に説明してくれた。
俺の前世の世界でもそうだったが、若者は大きな街へと出て行ってしまう。死んだカヒコも、成功を夢みて、村を飛び出した一人だったわけだし。
「――ほんとヒロ君は、立派な冒険者だな。」
そう言って、少し寂しげな表情になるカヒコの父親。この表情を見てしまうと、カヒコを救ってあげられなかった自分に腹が立つ。
カヒコには兄弟がいない。つまりはカヒコの両親には、もう子供はいないのだ。
そんなカヒコの両親は、なにかと俺を自分たちの息子のように扱ってくれる。きっと、死んだカヒコと歳も近く、彼の遺骨を届けた事もあって、気を遣ってくれるのだろう。
迷惑をかけるわけにはいかないと思っているが、「遠慮などせずに、いくらでも甘えてくれ」と言ってくれるカヒコの両親に、俺は一応の遠慮をしながらも、色々と甘えさせていただいていた。
実は、これについては、アメワの両親から頼まれたことでもあった。カヒコが死んでからというもの、カヒコの両親の落ち込み様は酷いものだったらしい。自ら命を絶ってしまうのではないかと、村中みんなで心配していたのだそうだ。
そんな折りに、カヒコと交流のあった俺が、正ににカヒコが目指していた冒険者として村へやって来て、村をピンチから救い、さらに、今では三日月村に住むようになった。歳の近い俺の姿に、カヒコの姿を重ねて見たのか、その辺りから何かが吹っ切れた様に元気になったのだというのだ。
前世での両親は普通の人だったが、2人とも俺が結婚してすぐにガンで亡くなっている。
アリウムの両親も理不尽な狐憑きの連中に殺害されてしまった。
だから、身近な人が亡くなる悲しみもわかるし、早くに亡くした親の代わりに孝行したい気持ちもあるのだ。
そして、親元から離れて暮らしているナギの寂しさも……。
「――みなさん、ご協力ありがとうございました。おかげでナギも親子水入らずで生活できるでしょう。」
♢
ナギの両親の住居も決まり、俺たちは、改めてダンジョン=インビジブルシーラにいる、ハイエルフのアエテルニタスに会いに行く準備を始めた。
大剣使いのハルクさんは、一度首都に帰り、冒険者ギルドのグランドマスターのギルに、今回の一件の報告してくると言うことで、一人、先に旅立っている。
「色々と挨拶しながら、片付けてくるさ。そのあと、この村で待ってるよ。」
そう言って大剣使いは、村を発っていった。彼が同行してくれて、今回の旅路はかなり助かった。彼が居なくては、ベルさんと古竜のニールを守りきれなかったかもしれないし。
彼が、一緒に冒険に行ってくれるのは頼もしい限りだ。ライトさんとソーンさんは、以前に一緒に冒険した事があるみたいだから、お互いに顔を合わせたら驚くだろうな――。
なので、今回のシーラタウンへの仕切り直しの旅には、俺、ベル、そして新しく仲間に加わった竜騎士ギース、古竜ニールのメンバーで臨む。
「ギースさん、ニール、よろしくね。」
「ピピーっ!」
「よろしくお願いいたします。」
いつものリュックに、いつもの装備。準備はばっちりだ。ただ一つ、いつもと違うのが、おしゃべり妖精の様子だ……。
いつもなら、あ〜だ、こ〜だ、姦しく賑やかなおしゃべり妖精が静か……。本人は、「身体が大きくなって、空も飛べなくなったから、歩きの旅にちょっと疲れただけよ。」と言うのだが、あまりに静かすぎて心配だ。
三日月村で休んでるように言うと、
「ヒロと離れるなんて、ぜ〜ったい、イ! ヤ!」
と怒り出してしまう始末。まぁ、静かなだけで、身体は特になんともないようだし、旅には一緒に行くことになった。
考えてみると、彼女と出会ってからは、一度も離れて過ごしたことはないな。彼女がいない日々は、今の俺には想像できないかも――。
「ベルさん、無理だけはしないでね? キツくなったら、すぐに教えて。」
「わかったわよっ!」と、やっとおしゃべり妖精の大きな声を聞けたところで、ちょっと安心できた。彼女はそうでなくちゃね。
「――じゃあ、行こうか。」
北に行くはずが、南に行く事になるという、まったく目的の違う方向への旅になってしまったが、もう一人の使徒に出会えたわけだし良しとしよう。
ここから仕切り直しだ。改めて、ハイエルフのアエテルニタスに会いにシーラタウンへ向かう。
ヒルコを封印する為の機械人形=ゴーレムを研究しているという、使徒アエテルニタス。いったいどんな人物なのか。
「――あれ……、なんか忘れてるような……。」
俺は、準備万端整えたつもりが、何かをするつもりだった事に気がつく。ちょっとだげ引っかかるその何か、ただ、その何かが、なんだったのかが思い出せない……。
「まぁ、忘れるくらいの事だ。大した事じゃないか。」
そう頭を切り替えて、シーラタウンへの旅に出発した――
迷いましたが、ここで第4章を区切りたいと思います。明日からの第5章も、引き続きよろしくお願いします。
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