ぼっち少年、イジメを恨む
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――悔しいっ!
戻った俺の事をあそこまで拒絶するのか!
――悲しいっ!
優しい言葉のひとつも言うことができないのか!
――なんで俺ばっかりがこんな目に……
ナナシが何をしたって言うんだ! いつだって、自分からは人に迷惑なんてかけてないのに!
俺は腰に手をやり、下を向いて歩きながら、自分たちのこれまでについて考えていた。
何故、これほどまでに周囲の存在は、俺やナナシにに辛く当たるのか……。
何故、俺やナナシは、こんなにも虐げられ続けなくてはならないのか……。
気づけば、いつの間にか俺は町外れの森の入り口まで歩き続けていた。入り口近くに立つ大きな木を見つけると、その前に立って木を見上げた。
「ふぅ」、と大きく息を吐き、その大きな木の幹に寄りかかって座り込む。
孤児院を飛び出した俺に、どこか行く所があるわけではないのだ。行くあてもなく、彷徨うようにたどり着いたこの木の下で、何度も何度も自分に向けられた悪意への恨み言が溢れてくる。
前世でも今世でも、自分から他人に悪さをした事なんかない。人から悪口を言われる事はあっても、人に悪口を言うことなんてなかった。
( 心の中では別だけどさ……。)
こちらにどんな些細な原因があったんだとしても、ここまで理不尽な事をされ、悲しい思いをさせられるなんて、あっていいはずがないのに。
前世でもイジメなんて言葉が軽く使われていたが、いじめられている人間の状況や心情をイジメなんてたった一言だけで済ませるなんて、そんな理不尽なことはない。
――嫌がらせや悪口は、言われた人の心を傷つけるんだよ。
体験しないとわからないの?
――やられた側は文句を言わないんじゃない、言えないんだよ?
文句も言えないくらいに打ちのめしてくるじゃないか。
――人の物を奪ったり、暴力は犯罪だって知ってる?
それを自慢げにやってのけるなんて、もう、悪魔の所業だよ。
イジメなんて言葉があるから、イジメる側は気軽に人を貶める。
実際には犯罪名をつけるべきなんだよ。
イジメる人間は犯罪者だ!
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「あのさ、だから因果応報って言ってるでしょ?
良い事してれば良い事が、悪い事してれば悪い事が返ってくるんだって」
嫁さんは僕と一緒に晩酌のビールを飲みながら、いつものお決まりの言葉を教えてくれる。
「あなたに嫌がらせしてる連中だって、そのうち自分の身に悪い事が返ってくるのよ。覚悟して待っとけって感じ。だからあなた自信は人に悪意をむけないで。優しいあなたが私は一番好きよ。」
微笑みながら大好きな金色の缶ビールを一気に飲み干し、彼女は次のビールを取りに冷蔵庫へと向かったーーー
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――っ
不意に涙が溢れた。
もう会えなくなった嫁さんの言葉が思い出された。落ち込んでいる俺に、いつも繰り返しかけてくれた言葉だ。
「そうだよな――。」
声に出して言ってみる。
「人を恨んでいても始まらないよな――。」
――人生苦しい事ばかり続かないはず。とりあえず、前を向いて頑張って生きていこうか!