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護衛


           ♢



 新月村は、静まり返っていた。


 先日、村の男衆のほとんどを無力化し、圧倒的な立ち回りをみせた俺たちが、一週間も経たないうちに、再び村を訪れたからだ。


 俺たちの目的は村長夫婦とナギの両親の護衛。

 それぞれの移住の手伝いをする為だ。



「やぁ、ヒロ君。すまないね。」


 ナギの父親が俺と握手する。

 すでに最小限に荷物をまとめ終わり、家は引き払ったそうだ。2人には、しばらくは我が家に住んでもらい、自分たちの家を見つけ次第、ナギと3人で住んでもらおうと話しあっている。



「……ヒロ君。我々は新月村に残る事になったよ。村中から遺留を受けてな……。新しい村長の成り手もいないし……。なんとか、この村の考え方を、変えていけるように努力するつもりだ。」


 村の再建の為、村長夫婦は村に残ると言う。その隣には村長の2人の息子が一緒に頭を下げていた。

 この2人も、先日俺たちに弓矢を向けた集団の中に混ざっていたのだが、あの後、村長にかなり怒られ、また、この村の歴史問題を説明したところ、2人とも村長に協力して、村の立て直しに尽力するつもりだと語ってくれた。



「―― 親孝行したいときには親はなし 石に布団は着せられず、なんて言いますからね。ぜひ、お父さん、お母さんを助けてあげてください。」


 こちらの世界でこう言われているとは思えないが、村長夫婦が元気なうちに、是非親孝行してほしいものだ。

 そして、新月村が滅びたりしないように、新しい考え方で村を発展させてほしい……。



            ♢



「では、これにて失礼します。――何か困った事があれば、呼んでください! 必ず駆けつけますからっ!」


 相変わらず、物陰に隠れたまま、俺たちの前に姿を見せない村人たちにもしっかりと聞こえるように、俺は大声で叫んだ。

 村人が恐れる俺たちが、村長たちの味方だと宣言しておけば、いくらかの抑止力にはなるだろう。本来なら、こんなやり方したくはないが、人という生き物には、こういった方法も必要なのかもしれない。

 彼女がよく言っていた、「――お天道様は見ている」という話。悪いことはすぐバレて、自分に罰として戻ってくる。そう思って生活しないと、やはり自分中心で身勝手になってしまい、人の意見を聞かなくなってしまうのだろう。


 人のふり見て我がふり直せ。俺も気をつけなくては……。



           ♢



「――ナギは元気にしてるかね。」



 三日月村へと向かいながら、ナギの両親と今までのこと、これからのこと、たくさんお話をした。当初の新月村での事を考えると、こうやってナギのご両親と楽しく話す事ができるなんて、なかなか想像できなかったのに。



「ナギは、第3の才能も授かり、今、ダンジョン=レッチェアームで特訓中ですよ。」


 この話を聞いたご両親が慌てだした。


「そうよ、13歳の誕生日のお祝いもしてあげられてないわ!」


「無事に第3の才能を授かったとはいえ、レッチェで特訓!? あの子は女の子だぞ? ヒロくん、あの子は大丈夫なのか?」


「あなた! ヒロさんに失礼でしょ!」


「あ、ちゃんとうちの年長組の2人、ライトさんとソーンさんが同行してくれてますし、吸血鬼王も案外優しい方でしたから、大丈夫ですよ!」


「「――吸血鬼王!?」」


「大丈夫よ! ナギは吸血鬼王の眷属になったのよ! 自分の仲間を悪く扱うわけないでしょ!」


 ナギの両親2人が一気に青ざめたが、おしゃべり妖精の一言で少し安心した様子だ。



「そうだな……。あの子は、使徒の眷属になったのだったな……。あの日以来、顔も見せに来てくれていないから……。」


 あぁ、そこは俺も配慮が足りなかったな……。ただ、今回の事件でもわかるように、新月村での忌み子という存在に対する風当たりは強すぎて、新月村に足を伸ばす気にはならなかったんだよな……。

 俺は、ナギにも、ナギの両親にも申し訳ない気持ちでいっぱいになり、思わず空を見上げた。


「……すいません。僕の配慮不足でした……。」



 ナギの両親は、そんな俺の態度に慌てて話題を変える。



「いやいやっ、元々、ナギを助けてもらった上に、危険な新月村から連れ出してもらえるように頼んだのは私たちの方だよ。」


「そうよ! 私たちでは、ナギを守れなかったと思います。今回のことだって……。」


「ヒロに任せておけば、大丈夫よ! ただ、ヒロに色目を使うのだけは辞めさせてよね!」


「「「―――!?」」」


 せっかく落ち着き始めたところに、今度はおしゃべり妖精が燃料投入……。また訳のわからない事を言い出した……。



「ヒロ君!? 君とナギはそういう関係になっているのかね!?」


「ヒロさん! ナギは綺麗になったでしょ! だって私に似ているものね!」


「ヒロは私と一緒になるの! ナギになんかに渡さないわよ!」


「ヒロ君!? まさか、二股かけてるなんて事はないだろうね!」


「あなた! ヒロさんに失礼でしょ! ナギ一筋に決まっているじゃない!」


「ヒロは私一筋に決まってるでしょ! 勝手な想像しないでくれる!?」


「…………。」



 ナギのご両親て、こんな雰囲気だった? 新月村を出た事で、本来の明るいご夫婦の素の部分が出てきたのかしら。

 明るいのは良いけれど、ナギのご両親とおしゃべり妖精で、あ〜だ、こ〜だ、好き勝手に妄想が膨らんでいってるみたい……。汗をかきながら、しどろもどろに応じる俺に、次々と質問が飛んでくる。


 大剣使いと竜騎士の2人は、ニヤニヤしながら我関せず、一行の先頭を歩いている。


 あぁ、賑やかなで、家族と呼べる人が増えるはいいけれど、こんな調子で一緒に生活することになったら、毎日大変だなと、おしゃべり妖精に肩を揺さぶられながら考えている俺であった――



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拙い文章ですが、読んでいただいている皆さんに感謝です。楽しんでいただければ幸いです。
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