古竜の頼み
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4体の古竜=エンシェントドラゴンたちは、神々の戦い以前からこの世界を見続けてきた存在である。
その存在は、様々な種族の中で最強と呼ばれる竜族の祖であり、竜族と人とが混じり合って生まれた竜人族にとっても、まさに神とも等しい存在。
しかし、竜族も竜人族も際立った力を持ち、その為に長命で、滅亡への道を歩む他の種族と同様に、太陽神の作ったシステムによって生存への強い執着を徐々に無くしていった。
滅亡へと向かう一族を救おうとする、豊穣神ウカの方針に賛同し、その使徒となったものの、一族は徐々に衰退し、古竜のように高い知識と能力を持つ存在は、今、このダンジョンにいる4体の古竜のみとなってしまった。
竜人族としても、竜と人という異なる種族から生まれた為か、種族的に子供ができにくく、徐々に数を減らしていく。
古竜には、雌雄の差が無く、その身から溢れ出る魔力から卵が形作られ、その卵は親の魔力を吸収して孵り、その生まれた子供は、親の魔力を吸収して育っていく。
しかし、今回、ヒルコの分身により、生まれたばかりの卵がダンジョンの外に持ち出され、吸収すべき魔力として俺の魔力を吸って孵り、成長してしまった。そのせいで、純粋なドラゴンとしての成長とは違った成長を遂げているようなのだ。
「――知っての通り、我々使徒は、神々の呪いによってダンジョンとその縄張りに縛られている。」
確かに、氷狼が言っていた。自由に歩けはするが、その範囲は決められていると。
「――ダンジョンで生まれ、ダンジョンで育てば、その子も我々使徒と同じ制限をうけることになるだろう。」
まあ、使徒の後継であるなら、その呪いも受け継がれるのだろうという事は、容易に想像できる。
「――しかし、その子はなんの因果かダンジョンの外で生まれることになり、君の魔力を吸って育っている。君たちが一緒にいる期間は短いが、これは我々が使徒としてダンジョンに縛られるようになってから、初めての事なのだ。」
災い転じて福となす的なことか?
「――聞けば、その子が生まれたのは、首都キャピタル・ヘルツだと言う……。そこは、すでに我らが足を伸ばせない場所なのだ。」
その意味が表す事って、もしかして……。
「――つまり、その子はダンジョンに縛られてはいない。」
なるほど、呪いの影響を受けていないのか。
「――恩人よ……。重ねて頼みたい。ダンジョンに縛られて生きるのは、我々だけで充分なのだ。その子には、自由に生きてもらいたい。」
4竜揃って、地につく程に頭を下げた。
「――その子が外の世界で生きられるように、力を貸してやって欲しい。頼む……。」
♢
「ピー、ピピ、ピーっ!」
今、俺たちは、新月村にナギの両親と村長夫妻を迎えに向かっている。
その面子は、俺、ベル、ハルクの3人に、竜騎士ギース、そして古竜の子供ニール。
古竜の王から、古竜の子供を引き受ける際、名付けも一緒に依頼された。
そこで、ドラゴンの名前で最初に思いついたのが、ファフニール。そのまんまつけるのもどうかと考えていたら、古竜王から一つ提案があった。
というのは、古竜の子供が俺の魔力を喰らって育っている為、姿が人族に近くなろうというのだ。
ある程度、大きくなるまでは、親からの魔力の提供が必要な為、しばらくは俺の魔力を喰らわせなくてはならないので、ますます、人に近い姿になるだろうと。
ならば、人らしい名前にしなくてはと考え、ファフニールからニールの部分だけ貰った形だ。
「ニールっ! あんたは、ヒロの子供みたいなものなんだから、私もあなたの親と同じようなものねっ! これからよろしくね!」
しばらく大人しかったおしゃべり妖精も、やっと調子がもどっきたのか、本領発揮。自分が親替わりをすると張り切っている。
「しっかし、まさか古竜を家族にするなんて、ほんと、あんたと一緒だと飽きないね。」
大剣使いは、半ば呆れたように話すが、あなたも家族みたいなものだからと言うと、顔を赤くして、照れていた。なんか、意外と単純で助かります。
「私もご一緒させていただく事をご了承いただき、ありがとうございました。誠心誠意、ヒロ殿にお仕えいたしますので、どうぞ存分にご用事をお申し付けください。」
竜騎士は、今回の事件の贖罪にと、俺に忠誠を誓うと言い出したのだが、やんわりとお断りした。すると、では、仲間の末席に加えて欲しいというので、仲間であればとパーティーに加入してもらう事にした。
すると、大剣使いが、竜騎士を仲間に加えるなら、是非自分もと、何度も何度も土下座して頼むむのだから、彼も【アリウム】ファミリーの一員に加わってもらう事に。
まだ、他のメンバーに許可してもらった訳ではないが、大丈夫だと思う。以前みたいに、偏見に満ちた考えの者はいなくなっているから。
俺、ベル、アメワ、ライト、ソーン、ナミ、ナギにハルクとギース、ニールを加え、我がファミリーは9人と1頭に。そこに、精霊たちも加えれば、凄い大所帯だ。
俺とベルの2人で始まったチーム【アリウム】は、いつの間にか、ファミリーになった。俺の事を魔物の子供だなんて言う人間はいない。俺の家族だ――
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