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古竜の王


 今、俺たちは、ダンジョン=ファーマスフーサの入り口に立っている。


 竜騎士ギースの案内で、古竜の王のもとまで最短ルートを行くことになっているのだが、このダンジョンを経験した事がある大剣使いのハルクは、不安そうな表情であった。


「だってよ〜……、このダンジョン、竜種ばかり出現するんだぜ……。あいつら、鱗が硬くて、1頭倒すのにも、かなり苦労するんだもんよ……。」



 俺とベルは、使徒という存在達に会った事がある為、彼らがダンジョンを支配し、魔物たちを管理していることを理解できているが、実際に使徒に会ったことも、魔物に出会わないダンジョンを体験したことも無い大剣使いにとっては、魔物と対峙せずともダンジョンを進む事ができ、しかも伝説の存在である使徒に出会えるなんて事は、信じ難いことなのだろう。

 実際、大剣使いは、以前にこのダンジョンに挑み、地下30階まで到達した際にも、使徒とは会えないまま撤退したと話していた。



「ハルクよ、心配しなくていい。ちゃんとお前たちをゴズ様の元に送り届ける。」


 ギースの話す通り、ダンジョンに入っても魔物に出会う事なく進んでいく。そして、階段を降りることもなく、地下一階の奥まった所に、一際大きく豪勢な扉が現れた。



 まさか最初のフロアで使徒の部屋に案内されるとは思ってもみなかったのだろう。大剣使いは、目を白黒させて、固まっている。

 俺の頭の上では、ダンジョンの中を物珍しそうにキョロキョロとする古竜の子供がいた。



「さて、これでなんとか目標は達成だな。お前も、親の元に帰ってこれて良かったな!」


 ピーピー鳴いて、騒いでいる古竜の子供。短い期間ではあったが、一緒に生活すると情も映るといいもので、別れには寂しさが伴う。


 それでも、古竜の王の跡取りになる存在。最強種の王になるの存在なのだ。無事に送り届けらて良かった。



「――さぁ、恩人の方々よ。古竜王ゴズ様と3人の古竜様のお部屋だ。心して入られよ。」



           ♢



 扉を潜ると、そこはダンジョンの地下一階にあるとは思えない、とてつもなく広い空間が広がっていた。街が一つ入るのではないかと思えるその場所は、とくに装飾もなく、白い壁と黒い床。灯りはないのに、明るいその部屋の奥に、巨大な竜が4体。


 真紅、深青、爽緑、濃銅と表せる4色の竜たち。


 1体が、一軒の家より大きなその姿は、見るものを圧倒する。


 

『――よく来てくれた。我が竜族の恩人たちよ。』


 真紅の鱗を持つ古竜が、一言一言を力強く語りかけてくる。まるで、言葉に吹き飛ばされるような感覚に落ちいりそうになる。



『――竜族、そして竜人族を代表して、御礼を申し上げる。』



 緊張の面持ちで、挨拶する俺たちに、真紅の古竜は、そう畏るなと前置きしながら、自分の立場と名前を名乗った。



『――我が名は、ゴズ。ダンジョン=ファーマスフーサを管理する、豊穣神ウカ様に仕える使徒の一柱。竜族の王、古竜王ゴズだ。』



 圧倒的なその存在感に、膝が震える。



『――我らの子をヒルコの手より救い出してもらい、深く感謝する。』


 傍に控える他の3竜と共に頭を下げる古竜王。

 自分たちよりも小さな存在にも、頭を下げることを辞さないこの態度に、度量の深さを感じた。

 


「僕は、ヒロと申します。僕の親は、使徒である氷狼フェンリルと吸血鬼王ブラドの眷属。使徒に会うのは、貴方が三人目になります。きっと、こうやって貴方がたに出会えたのは、豊穣神ウカの導きなのでしょう。」


 俺の挨拶に、古竜たちだけでは無く、大剣使いまでが口を開けて驚いていたのは、言うまでもあるまい。



           ♢



 古竜王の話によれば、ヒルコの分身体は、この部屋に出入りする世話役の竜人族を操り、4竜が眠りについた隙をついて卵を強奪。ダンジョンの外に待機していた狐憑きの一向に卵を渡し、件の竜人族は卵を奪われた事に気づき4竜の命を受けた竜騎士の部隊の前で自爆し、部隊を壊滅させた上で果てたのだという。

 そこで、新たにギースら3人の竜騎士に卵の奪還の任務を与えて派遣し、狐憑きの一向を探させていたそうだ。



「ピー、ピー、ピー!?」


 古竜の子供は、自らの親達を目の前にして喜んでいるのか、大きな声で鳴き続けている。

 まだ小さなその身体を目一杯伸びあがらせて、4竜達に向けてその存在をアピールしているようだ。


 しかし、俺がお尻を押して、4竜の元へ行くように促しても、一向に向かおうとしない。それどころか、俺の身体をよじ登り、また俺の頭の上に乗る始末であった。


「――どうした? お前の家族だぞ? 早く安心させてやれ。」



 俺の言葉に、やっと4竜の元へと歩き出す古竜の子供。そして4竜と何やら意思の確認をしたのか、一瞬見合っただけで、また俺の元に戻ってきてしまった。


『白髪の少年よ。氷狼と吸血鬼王と出会った事のある君なら、我々使徒の事情にも明るいだろう。我々使徒は、ある程度は自由に動く事ができるが、ダンジョンに縛られてもいる……』


 真紅の竜、古竜王が静かに語り始める。


『その子は、500年ぶりに生まれた我々の子供。このまま、このダンジョンに帰ってくれば、いずれは竜族の王を継ぐ事になるだろう……。』


 古竜王は、他の3体の竜と目配せしてから、俺に再び向かい会う。


『勝手な願いだという事はわかっているのだが、もし君が良ければ、この子を一緒に連れて行ってくれないだろうか……。』

 

「――!?」



 これはまた、大変な事になってきた……。

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拙い文章ですが、読んでいただいている皆さんに感謝です。楽しんでいただければ幸いです。
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