竜騎士
今回の戦いで、新月村の男衆の7割が怪我をしてしまった為、3日ほど新月村に滞在して後始末をする事になってしまった。
ダンジョン=ファーマスフーサの使徒、古竜王ゴズの元には、無事だった下等竜に乗って竜騎士2人に先行してもらい、古竜の子供の無事を伝えてもらう事になった。癒しの魔法を使える竜騎士だけは村に残り、治療を終えてから、俺たちと一緒に歩いてフーサタウンに向かう事にする予定だ。
とりあえず、村長夫婦はリンカータウンへ、ナギの両親には、三日月村の俺たちの家への引越しの準備をしていてもらい、俺たちがフーサタウンでの用事を済ませた後に迎えに来ることになった。
その間に、新しい村長を決め、引き継ぎまで終わらせるそうだ。今回の事件で襲撃に加わった村人たちは、俺たちのあまりの強さに怯え、治療を済ませた後からは、家に籠ってまったく姿を見せない。
まぁ、前と同じではあるのだが、そこに俺の強さに対する畏怖が加わってしまった様子だった。
「では、古竜の子供を送り届けたら、迎えに来ます。それまで準備をお願いしますね。」
新月村での事件は、これで一応の終幕となった――
♢
癒しの魔法が使える竜騎士は、ギースと名乗った。自分の身体もまだ完全ではないというのに、他の竜騎士や村人の治療を休みなく続け、何度か魔力切れで気を失ってしまった。
責任感がかなり強い男のようで、今回の新月村の戦いを先導した事を相当に後悔している様子だ。
街道で襲って来た冒険者たちも、ギースたちが裏ギルド【デビルズヘブン】に仲介してもらった冒険者だったそうだ。
首都での卵捜索の際、自分たちがどうしても目立つ容貌のため、亜人の多くすむスラム街に身を隠しながら行動していたのだが、その際に付き合いのできたスラムの住人から、どんな依頼でも引き受けてくれるていう裏ギルドがあると教えられ、なかなか卵を見つけられないでいたギースたちは、藁をも掴む思いで【デビルズヘブン】に依頼してしまったのだそうだ。
犯罪者集団である事はわかっていたが、どうにかして卵を取り返さなくてはならないギースたちは、正義も悪もなく【デビルズヘブン】に依頼して、なんとしても使命を果たそうとしたのだ。
街道での戦いの際は、少し離れた所から戦闘の様子を見ていたそうだ。古竜の子供の姿を確認できたことを喜んだ反面、極大魔法の使い手に攫われているという新しい悩みに頭を抱えたという。極大魔法ではないのだけどね。
極大魔法の使い手に、なんとか対抗しようと考えついた案が、新月村の村人を使い、襲撃させるという作戦だった。一般の村人相手に、まさか極大魔法を使うことはないだろうと考えたのだ。
身体能力なら、竜騎士の自分たちと、騎乗している竜の力が上のはず、ならば、相手の攻撃を封じてしまえば、古竜の子供の奪還は余裕なはずだと。
しかし、村人を扇動して弓を持たせ、俺たちに武器を手放させる所まで上手く進んだ作戦は、1人の村人が放った弓矢によって見事に崩れ去った。
まさか、命令もしていないのに、村人が弓矢を放つとは思っていなかったのだ。しかも、一本の矢に反応して、村人全員が弓矢を放つなどとは……。
ギースたちは、村人が俺の事を忌み子と呼んで蔑み、憎悪の対象となっているなんて想像もできなかっのだろう。当事者である俺だって、ここまで尽きることなく向けられる憎悪の感情に、閉口しているのだから。
「本当に申し訳ないことをした。狐の一味から御子息を救い出してくれた恩人に、まったく話も聞かずに、恩を仇で返す事になってしまった……。」
フーサタウンへの道すがら、今回の経緯をはなしながら反省の言葉を繰り返すギース。何度もう終わりにしようと言っても、謝罪をやめようとはしなかった。
ギースたち竜人族は、ダンジョンを管理する4頭の古竜=エンシェントドラゴンを王と崇め、普段はフーサタウンで生活しているそうだ。人族以外の種族の例に漏れず、やはり人数は極端に少なく、滅亡の危機に瀕しているという。
その竜人族の中でも、ギースたち竜騎士は、下級竜=レッサードラゴンを従え、古竜や龍神族を守護する立場なのだが、今回、古竜王ゴズよりの緊急の願いを受けて卵探索に乗り出すことになったそうだ。
当初、竜人族の始祖とも言える古竜王からの願いという事で、その名誉に喜んだ竜人族であったが、卵を強奪したのが、狐憑きの集団であり、使徒ヒルコの謀略であると知らされた時、その責任に重さに震えたという。
実際に、卵の探索は難航し、卵から古竜の子供が孵ってしまうまで見つけることができず、挙げ句の果てに、古竜の子供を助けた俺たちをヒルコの手先と断じて、襲撃を繰り返してしまったのだ。
「ゴズ様に御子息をお届けした暁には、どんな罰も受ける覚悟です――。」
いや、そういうのは遠慮しておきます……。
せっかく誤解も解けたわけだし、使徒の一柱である古竜王ゴズへの面会の橋渡しになってくれるというのだしね。
「――ギースさん、そのような事はもうやめにしましょう。僕こそ……、皆さんに大怪我を負わせてしまい、村の方々の治療まで請け負ってもらったのですから。」
あの時の俺は、ベルさんやハルクさんに止めて貰えなければ、もっとやりすぎてしまったかもしれないのだから――