大剣使い、誓う
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ハルクは、一緒に旅をしている白髪の少年の戦いに見惚れていた。
魔術師大学での戦い――
街道での戦い――
そして、新月村での戦い――
正直、初めはそれほどとは思っていなかった。
魔術師大学での戦いの時は、なにやら、敵の攻撃を通さぬ才能を持っていて、最前線に出ていても問題ないな、くらいに思っていたのだ。
だが、街道での戦いでは、精霊たちの力を借りて、まさに極大魔法とも言える攻撃をしてみせた。
あれは、敵だけでなく、俺もかなり驚かされたものだった。
そして、今回の新月村での戦い。
乱戦に慣れている俺ですら、どこに突破口を開けば良いか、かなり迷う状況の中、彼は一人で30人を超える敵を完全に沈黙させたのだ。
その力は、剣の力、精霊の力、そして才能の力と、全てを使いこなしてのほぼ一方的な蹂躙。相手には、身体能力の高い竜人族と、下等種とはいえ、竜までいたのだ。それを本人は傷一つつかずにやってのけたのだ……。
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師匠の手紙を読んだ時、俺は頭から冷や水をかけられたような感覚だった。
俺にとって、大きな大きな目標であった、魔剣士ケインの魔法剣を引き継いだ少年だと書かれていたのだ。ケインの最後を看取り、また、ケインが常に気にかけていた少年だとも書かれていた。
俺は、ケインが死んだと聞いてから、冒険を続ける事が怖くなり、冒険する事から一時身を引いていた。あの素晴らしい魔剣士が死ぬなんて、俺には考えられない事だったからだ……。
B級パーティー【アイリス】は、ダンジョン=ファーマスフーサの探索に入る際、首都の冒険者ギルドにて、大量の竜を相手をするに為に、臨時にパーティーメンバー募集をした。
その時に、師匠であるグランドマスターの推薦で冒険に同行したのが俺ともう1人の冒険者。それが俺とケインとの初めての出会いだった。
ケインは、その巧みな剣の技術と素晴らしいリーダーシップでパーティーを統率し、ダンジョン=ファーマスフーサの探索を進めた。
パーティーメンバーも全てB級で、パーティー構成のバランスもよく、それぞれがしっかりとケインの要求に応えていた。
最後まで使徒に出会う事は出来なかったが、地下30階までのマッピングを終えて、臨時パーティーを解散したのだ。
竜相手にも、一歩も引かない度胸と、その卓越した剣術は、しっかりと俺の目に焼いている。
同じアタッカーとして、両翼を支えた形になったが、まざまざと彼の実力を見せつけられる事になり、彼に負けたくないという思いで、力の差を縮めようと必死に頑張ったものだった。
探索を終える頃には、彼の人てしての魅力にすっかり魅せられて、別れ際に、また一緒に探索してくれと無理矢理に約束させて別れたのだ。
その頃から、魔剣士ケインは俺の目標だった。
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この白髪、白瞳の少年は、名前もつけられぬままに孤児院に捨てられたそうだ。さっき村長から聞いた話しによると、この新月村が彼の出生地らしい。
しかし、残酷なアクシデントにより、彼の両親は殺され、その挙句に孤児院に捨てられてしまった。しかも、この村の連中は、ただこの村を訪れただけの少年に弓矢まで向けたのだ……。
その容姿の為に、ひどい差別を受け、至る所で嫌がらせやイジメに会ってきたようだ。
俺も、酔っていたとはいえ、魔物混じりなどと彼を詰じったりしてしまった。あの時の事を思い出すと、何度でも自分で自分を殴りたくなる。
師匠は、俺が少年と一緒にフーサタウンに行くと伝えた時、笑顔だった。
酒と煙草に溺れ、自らの目標を見失っていた弟子が、再び前へと歩みだした事を喜んでいたのだろう。情けない弟子でも、弟子は弟子。
鬼のような顔……、じゃない、実際に鬼の顔だが、そんな怖い顔をした師匠が笑って俺を送り出したのだ。そりゃあ、頑張らなくては申し訳ない。
少年は、普段とても大人びた話し方をする。
苦労を重ねてきたから、精神年齢が高いのだろうとも思う。
だがしかし、何処か危うさを孕んでいるというか、自信の無さというか、弱さも感じるのだ。何かにひどく怯えているような……。
それが何かはまだわからない。もしかしたら、今までに受けた、世間からの冷たい仕打ちが彼を不安定にさせているのかもしれないが。
どうにかして、あの素晴らしい能力を気持ちよく使わせてあげたい――
実力を存分に使わせてあげたい――
俺に立ち直るきっかけをくれた少年に、その恩を返したいのだ。本人は恩など売っていないというかもしれないが、ケインの代わりに、いや、代わりになどなれないのはわかっているが、少年を支えてあげたいのだ……。
♢
「ハルクさん、俺のせいで危険な目に合わせてしまい、申し訳ありませんでした……。」
少年は俺に向かって頭をさげた。
俺は、ケインのように気の利いた話はできない。
しかし、なんとか少年を支えてやりたいのだ。
「少年っ! 頭など下げるなっ! 俺とお前とは既に仲間だと思っている。仲間同士、助け合うのは当たり前だろ? 」
そう言って、何故か急に思い出した、あの魔剣士が使っていたポーズを作った。
右手の親指を立てて、ニヤリと笑う。
少年は、俺のポーズに一瞬驚いた表情になるが、すぐに満面の笑みに変わって、、俺の右手に拳を重ねてくれた。
その時、初めて本物の仲間となったような気がした――
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