忌み子が引き寄せる脅威④
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「あなた自身は人に悪意をむけないで。優しいあなたが私は一番好きよ。」
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俺は――
――ヒロっ!?
――ヒロっ!?
「――ヒロってばっ!?」
優しい妖精の呼びかけに、やっと我に戻る。
俺はやり過ぎたのか……。
しかし、やらなくてはやられていた……と思う。
「ヒロっ! 大丈夫。もう大丈夫よ! あなたはやれる事をやっただけ。大丈夫よっ!!」
俺の気持ちを察してくれたのか、ベルが俺を自らの胸の中に抱きしめて、俺を肯定する言葉を繰り返す。
――そうか、もう大丈夫なのか……。
安心して身体の力が抜けた途端、ベルの傷の事を思い出した。
「そうだ、ベルさん! 傷っ! ベルさんこそ、大丈夫なの?」
「大丈夫に決まってるでしょ! 矢ならハルクが抜いてくれたわ。滅茶苦茶痛かったけどっ!」
ゆっくりと近寄ってきた大剣使いが、俺の肩を軽く叩く。
「綺麗に抜いてやったんだ。感謝しろっての。」
苦笑いを浮べながら、大剣使いは周りを見回して言った。
「しかし、すげぇな……。いくら戦い慣れていない素人ばかりとはいえ、周りを囲んだ30人もの相手を完全に制圧しちまうなんてよ……。」
実際、俺も驚いている。やる気でやったのだから、何を驚くことがあるのかと言われそうだが、火事場の馬鹿力的なものだったのだろう。イマイチ、自分がどんな動きをしたのか、思い出すことが出来ないのだ――
♢
「さて、ともかく、コイツらをどうするかね。」
竜騎士たちは、かなりの重症であるのは間違いない。しかし、竜人族の持ち前の生命力の強さからか、まだしぶとく生きていた。
俺の魔法剣の一撃を受けた竜騎士と、やはり魔法剣で腹を貫いた竜騎士は、魔法剣の力の影響と、そもそも傷が重症なのも相まって、まったく身体を動かせなでいる。
しかし、弓矢の雨を全身に受けた竜騎士は、片目を射抜かれながらも、まだ動けるようだ。ただし、この状態では、流石に反抗する気は無くなったようで、座り込んだまま呆然としていた。
下級竜の一頭は火蜥蜴の炎で腹の中を焼かれて絶命していた。咄嗟の判断とはいえ、残酷な方法での攻撃になってしまったが、生命のやり取りをしたのだ、諦めてもらうしかない。
他の2頭は、最初こそ、自分たちの主人を無くして興奮していたが、そこに、リュックから飛び出した古竜の子供が近づくと、すぐに落ち着きを取り戻したようだ。
これが上位の存在の力なのか、それとも古竜の力なのかはわからないが、その後、すぐに俺に甘える姿に変わると、威厳も何も感じられず、その大きな温度の差には戸惑うばかりだ。
「何故、御子息がお前たちにそんなにも懐いていらっしゃるのだ……? お前たち、御子息になにをしたんだ……。」
全身から血を流しながら、俺に問いかける竜騎士に、俺は魔術師大学での一件を説明する。
「――なんと……、お主らが御子息を助け出してくれたというのか!? そんな、では、我々は無駄に血を流してしまったというのか……。」
竜騎士は、身動きが取れないほどに痛めつけられ、そこで初めて俺たちの話を聞く態度になったようだ。最初から、ちゃんと話し合っていれば、こんな風に、新月村の村人を巻き込んでの争い事にはならなかっただろうに……。
大剣使いは、自分の荷物からポーションを取り出し、竜騎士たちに振りかけた。元々、生命力の強い竜人族だ。これで命は助かるだろう。
弓矢を浴びた竜騎士が癒しの魔法を使えると言うので、仲間と村人たちの治療を任せることにした。ただし、必ず俺たちの誤解を解くようにと良い含めたが。
無傷の村人たちに、村長やナギの両親の居場所を尋ねると、ブルブルと震えながら、かつてゴブリンの住処となっていた洞穴に閉じ込められていると話しだした。彼らは、俺を襲う事に反対したのだそうだ。
そうか。俺にも味方がいたか、と少し安心した。
だって、何度関わっても、俺を認めてくれない人ばかりでは、流石に辛すぎるから……。
♢
「ヒロ君……、すまなかった……。」
洞穴から村長夫妻とナギの両親4人を助け出すと、村長が深く頭を下げた。
彼らは、竜騎士からの命令に反対し、ヒロ達への襲撃を辞めさせようとした為、洞穴に監禁されたのだという。
「私たちも、忌み子の家族だと言われてね……。これでは、今後、新月村では暮らせそうもないから、私たちも村を出ようと思うよ……。」
「私たちも、すでに村長の座を追われてしまったからな。リンカータウンにでも移り住むさ……。」
♢
こうやって、自分たちと違うものを排除して、排除して、排除して、排除して、排除して、排除して、排除して……、
村も、街も、種族も、もしかしたら国さえも、こうやって滅びて行くのだろうか――