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忌み子が引き寄せる脅威②


「――おいおい! こりゃどうなってるんだ!?」



 大剣使いが叫びたくなるのも無理はない。俺たちを取り囲む村人たちは、弓矢を番えて、その矢は俺たちへと向けられている。その様子はなかなかにショッキングな光景だろう。



「新月村のみなさん! これはどういう事でしょうか! 村長さんは? ナギのご両親はいらっしゃいませんか!?」


 ぐるりと見回してみても、村長とナギの両親の姿は見えない。彼らに何かあったのだろうか……。



「忌み子めっ! お前たちはいつでも村に災厄を運んできやがる!」


「お前が、古竜の卵を盗んで、生まれた古竜の子供を連れて逃げ回っている事は、もう既にばれているんだぞ!」


「お前の悪行のせいで、この村にまで竜の祟りが降りかかっているんだ! 大人しく古竜の子供をこちらに渡して、死んでしまえっ!」


 村人たちに、こちらの話を聴く耳はまったく無さそうだ。次々と俺たち……、いや、俺に向けて強い言葉を投げかけてくる。この村での【忌み子】とは、不幸を運ぶ存在以外の何者にもなれないのだろうか……。



「あんた達っ! 何を訳の分からない事言ってるのよ! ヒロは、古竜の子供を助けて、ダンジョン=ファーマスフーサまで送り届けようとしてるのよっ!!」


 おしゃべり妖精の悲痛な叫びも、相手には馬耳東風、全く受け入れられていない。



「――お前たちがゴズ様の卵を盗み、竜の一族の宝とも言える跡取り様を拐かした罪は重いっ! 大人しく御子息をこちらに引き渡し、命を持って償えっ!!」


 竜に跨る男が叫ぶ。

 フードを下ろして、こちらに素顔を見せると、その顔は爬虫類を思わせる鱗に覆われていた。


「ありゃあ、竜人族か!?」


 竜人族……、身体つきは人、顔は竜。ローブから晒されている皮膚には鱗が見える。背丈はかなり高く、竜に跨るその姿は、正に竜騎士。長い槍をこちらに向けたまま、視線を動かさない。



「狐どもと共謀して、我等竜人族を滅ぼそうという企みは既に露見しているのだ! 大人しく我らの槍を受けよっ!」


 俺たちが、ヒルコの仲間だとでもいうのか?

 魔術師大学での事件は、一般人には説明できない内容も多いことから、大学と冒険者ギルドによって、内密に処理された。学長代理を始め、魔術師大学のお偉方が揃ってヒルコに操られ、挙句に死亡したのだ。あまりにも、大学内外への影響が大きすぎる事件だったのだ。


 それ故に、あの時、魔術師大学内で何があったのかは、対外的には全く知られていない。もしかしたら、そのせいで俺たちが古竜の子供を連れ出した者達の仲間と判断されたのかもしれない……。



「――我々は、古竜王ゴズ様から、強奪者からの卵の奪還を命じられている。あの時、御子息の助けを呼ぶ咆哮は我らの耳に届き、その膨大な魔力を感じた! お前たちが何処に逃げようとも、その魔力を辿れる我らから逃れる事は不可能!!」


「「「――大人しく、御子息をこちらに渡せっ!」」」



 竜騎士の3人が、俺たちに向けて声を揃えて呼びかけた。こちらは戦いたい訳ではない。古竜の子供だって使徒に返す為に向かっているのだ。ならば、素直に古竜の子供を渡せば、この騒ぎは終わるはず。



「俺たちに、抵抗の意思は無い! 古竜の子供はフーサの使徒に送り届けに行く途中なんだ。だから、みんな武器を降ろしてくれっ!」


 大剣使いは、長剣を地面に置きながら大声を響かせる。そして、俺にも武器を置くように合図をした。



「ほら、この通り、武器も置く。だから、穏便に話し合おう!」


 大剣使いが両手を挙げながら立ち上がる。そして、俺も魔法剣を地面に置こうと動いたその時だった――



 ヒュンっ!



 村人の1人が番えていた弓を放ったのだ。その弓はベルの右腕に突き刺さる!すると、それをきっかけに、四方を囲む村人たちから、一斉に矢が放たれたのだ!


 俺は、咄嗟に【障壁】を膨らませてベルに覆い被さった。まさか村人が合図も無しに矢を放つとは思っていなかった俺のミスだ。村人たちの俺への関わりかたを考えれば、こうなる事も予想できたのだ。


 だって、最初に弓を放った村人は、確実に笑みを浮かべながら矢を放っていたのだから……。



「――おいおいっ!? 勘弁してくれよ!」


 大剣使いは、足で跳ね上げた長剣を振り回し、飛んでくる弓矢を叩き落とす。矢の大半が、俺に向けて放たれている為、数は少ないが、それでも当たれば怪我だけでは済まない。



「――ベルさん、大丈夫?」


 俺はベルに覆い被さりながら、傷を確かめた。



「た……大した事、ない、わよ!」


 おしゃべり妖精は矢傷に顔を顰めながら、無理やり笑顔を作っている。


「ねぇ、ヒロ……。覚えてる?」


 なんだろ……。


「一緒に強くなろうって誓ったこと。一緒に優しい英雄を目指そうって誓ったこと。」


 あぁ、あの時のことか……。


「私はずっと考えてた……。貴方の役に立ちたい、あなたの事を守りたいって……。でも、私はいつも貴方に守られてばかり……。」


 そんな事ない、いつもベルさんに助けてもらってるよ……。


「でもね、やっと見つけたの。さっき、シルフが教えてくれた。」


 えっ!?


「シルフが私たちに、力を貸してくれるって――」



 そこまで言うと、彼女は優しく俺にキスをした。




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拙い文章ですが、読んでいただいている皆さんに感謝です。楽しんでいただければ幸いです。
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