忌み子が引き寄せる脅威①
フーサタウンへの旅2日目は、順調に進んだ。昨日のような襲撃もなく、魔物に出会うような事もなかった。
途中、ベルさんが無言で空を撫でるような仕草をして、俺とハルクさんを不思議がらせたり、古竜の子供が、突然、俺から大量に魔力を吸い取るなんてトラブルもあったが、他には特に問題もなく、街道を進むことができていた。
古竜の子供を連れて歩いてわかった事なのだが、竜も精霊たちと同じく、魔力を喰らって成長するようである。
卵から孵るにも魔力が必要だし、成長するのにも魔力が必要。古竜の親は、相当な魔力を蓄えていて、その魔力を分け与えながら子供を育てるのだろう。正直、俺の魔力総量が大きくなければ、古竜の子供は飢え死にしてしまうのではないだろうか。
こうして、トラブルとも言えないトラブルだけの旅は、新月村に近づくにつれ、俺の足取りは鈍くなっていく。しかし、当然のように新月村へと到着するのだ……。
俺は、以前のこの村での出来事を思い出し、若干の緊張感を持って、村の入り口を通過した。
今回は、以前のように、武器を持った見張りもいない。ゴブリンの襲撃などもなく、村が平和に過ごせている証拠であろう。
♢
「なんだ? 村の中、誰も歩いてないぞ?」
しばらく村の中を歩き、中央の広場まで辿り着いたところで大剣使いが不思議そうに呟いた。
そう……、やはり俺はこの村にとって、招かざる客なのだろう。何処かで俺の姿を見て、村中に触れ回ったに違いない。【忌み子】……、彼らの意識から、その名前とその意味を消しさることは出来ないのだろう……。きっと、俺を遠巻きに見張っているに違いない。
「――ハルクさん……、ごめんなさい。多分僕のせい……「ちょっと静かに……、何か様子がおかしいっ!?」……かと、えっ!?」
大剣使いが、急に俺の話を遮って、背中に背負っていた長剣を鞘から引き抜いた。そして、そのまま体勢を低く落とし、俺とベルさんを引っ張ってしゃがみ込ませた。
「――何かいるぞ、これは人だけじゃないな。」
俺には、まだ何も感じられていないが、大剣使いの危機感たっぷりの物言いに、緊張感を高め、自身の魔法剣を構えた。同時に、ランタンを腰に移し、水筒の蓋を開け、麻袋の口を緩める。
「――シルフが、竜が居るって……。」
「ベルさん、シルフと話ができるの?」
「そりゃ、前からできたわよ。だいたい、私は風の少女=シルフから生まれたんだもの。ここはダンジョンの中じゃないし、シルフはそこら中に飛んでいるのよ。」
「そりゃ、すげえな……。しかし、もっとすげえのは、こんな村に竜がいるってことだ。姐さん、その話は本当なんだな?」
「当たり前でしょ! 人と違って精霊は嘘なんかつかないわっ!」
「――なるほど……、了解だ。少年……、少年は竜種と戦ったことはあるか?」
俺は首を横に振る。竜だなんて、その辺にポンポン現れるものではない。例えば、ダンジョン=ファーマスフーサにでも行かなければ、まず出会う事はないのだ……。
「――だよな……。俺もケイン達とダンジョン=ファーマスフーサに潜った時以来だ。あの時はパーティーメンバーも多かったからな……。できれば下等種=レッサーであれば、いくらかは助かるんだが……。」
ケインさん? もしかしてハルクさんはケインさん達の事を知ってるの!? 一緒に冒険していたの? 俺の頭の中に疑問符が飛び交う。
しかし今は、そんな事よりも、何故か村にいるという竜への対処が最優先だろう。この世界の最強種の一つだ。レッサードラゴンだとしても、俺たちだけで勝てるかは全くわからない。
村長やナギの両親は大丈夫なのだろうか。他の村人たちも、例え、俺のことをとんでもなく嫌っている人々だとしても心配になってしまう……。
「村人は避難できたのかな……。」
俺の呟きに反応したベルが、大きな溜め息を吐きながら俺を諭す。
「――まったく……、ヒロはお人好しすぎる。あれだけ嫌な目に合わせられてるのに、そんな連中の心配するだなんて……。」
呆れた様子のベルを他所に、大剣使いが手に持つ長剣を両手で握り直し、立ち上がった。
「お二人さん、俺もその話は気になるんだが……、どうやらあちらさんのお出ましのようだぜ……。」
知らずにたどり着いた村の中央広場。
俺たちは、すでに四方をすっかり囲まれていた。
俺たちを囲んでいるのは、3匹の竜と、それぞれの竜に跨るフードを被った背の高い人物が3人。
それに、弓を構えた村人達であった……。
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