いじめられっ子、孤児院を飛び出す
――なんとか助かった……。
何日くらい、ダンジョンを彷徨っていたのだろう。何度も気を失っていたせいで、時間の感覚がまったくない。
『アイリス』の方々から携帯食と水をわけていただいたので、なんとか飢え死にせずにすんだものの、遠慮もあり、腹一杯いただく訳にもいかなかった。でも、俺の命を繋いだ貴重な食事になった。
こんなにもお世話になり、命を助けてもらったのに、俺には御礼できる方法が思いつかないので、別れ際に何度も何度も頭を下げて御礼を言った。
「――いい人達だったな。絶対にいつか御礼できるようにしないと。」
何度も頭を下げながら別れる俺に手を振りかえしてくれたケインさん達に、暖かい気持ちを感じながら孤児院への帰り道を歩く。
ただ、まさか、彼らにあんな事を言われているなんて思ってもいなかったんだけど…。
▼△▼△▼△
やっとの事で、孤児院に帰ってきた。曲がりなりにも僕を受け入れてくれて、生活させてもらっている場所である。何日もなんの連絡もできずに帰らずにいたのだから、さすがに孤児院のみんなも心配してくれてるかな……。
「も、申し訳ありません。ただいま帰りました。何日も連絡もできず、ご心配をおかけしました。」
孤児院のドアを開け、正面の事務室にいる世話役の大人達に頭をさげた。
そんな俺の言葉に対して、真底残念そうな表情から返ってきた言葉は……
「はぁ〜……。冒険者ギルドからは、ダンジョンの裂け目に落ちて行方不明と聞かされていたのだが?あのダンジョンの奥底から生きて帰ってこれるなんて、お前、やっぱり魔物の子供なんじゃないのかね??」
「えっっっ!?あなたは死んだと聞かされてたのよ!? なんで帰ってきてしまったの……? もう、あなたのベッドは他の子にすでにあてがってしまったわよ……。」
――!?
「えっっっ!」て台詞はこちらの台詞だよ!
俺の頭は一瞬で沸騰した。怒り以外の感情を探すことが難しいくらいに。
自分で言うのもおかしいが、行方も知れず、何日も帰ってこなかった少年だぞ!? それも、まだまだ未成年で自分たちの保護下にある少年なのだ。そんな相手に対して、最初にかける言葉がそれなのか!?
俺の身を案じていた素振りはカケラも見当たらない。「大丈夫か」の一言すらなかった。心配してくれてるかもなんて、少しでも期待してしまった自分が恥ずかしい……。
大人だった時の記憶を思い出してみても、ここまで人を突き放すような言葉は、流石に覚えがない。 ナナシと俺の2人の記憶を持つ今の俺でさえ、とてつもない絶望を感じてしまった。
大人は子供を守るものじゃないのか!?
そこまで、ナナシは邪魔だったのか?
そこまで、ナナシは疎まれていたのか?
そこまで、ナナシは酷い扱いをされていたのか……。
もう、俺の頭の中は、この酷く残酷な行動をとる大人達への不信感でいっぱいになっていた。なんと薄情で無慈悲な存在であろうか。
「――わかりました。これからはもうご迷惑おかけすることの無いように、ここを出て、自分自身の力で暮らしますので! 今日、今この時までお世話していただきありがとうございました。今までお世話になりましたっ!」
誰がこんな所に居てやるか!
ナナシの記憶をたどれば、いかに今まで虐げられていたかだってわかるのだ。
本当なら、御礼の言葉も言いたくないくらだったけど、大人たちに啖呵をきったついでに言ってやったさ。
俺は、怒りにまかせて、慇懃無礼な挨拶を捨て台詞のように吐き捨てた。こうして、俺は、孤児院から飛び出してやったんだ――
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