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街道での襲撃③


           ♢



 リュックの中で、古竜の子供がスヤスヤと眠っている。


 先程の連中、冒険者の集団は、冒険者ギルドからの正規の依頼ではなく、犯罪者組織、【デビルズヘブン】という裏ギルドに持ち込まれた依頼を受けて来たらしい。


 最初に逃げようとした1人だけを残して、他の者達を泥の中に顔から下を全部埋めたところ、残された1人は、相当の恐怖を感じたらしく、こちらから聞かないことまで、色々と教えてくれた。

 

 【デビルズヘブン】に持ち込まれた依頼は、古竜の卵を発見して、依頼人に届ける事。その際、卵を持っている者は殺しても構わないという内容だったそうだ。殺人も辞さない依頼の為、裏ギルドに依頼が持ち込まれたのだろう。


 この裏ギルドとは、依頼人と犯罪者の仲介をするだけなので、成功しようが失敗しようが、結果には全く関知しないらしく、この冒険者の集団が依頼に失敗したところで、その後、裏ギルドが何かをすることはないそうだ。ただし、他にこの依頼を受けたものが居るかどうかはわからないらしく、この先も、こういった襲撃があるかもしれない。



「――冒険者ギルドに登録している者が、裏ギルドの仕事を掛け持ちしているのか………。」



 この事実は、ギルの弟子であったハルクには、多少なりともショックを与えたようだ。冒険者ギルドの最高責任者が自分の師匠なのだ。それも当然だろう。

 でも、俺には、あの切れ者のグランドマスターと優秀な美人秘書が、この辺りの事を把握していないとは思えない。何か事情があるのだろうな。


 埋めらずに残った1人には、この後、今回の依頼を放棄して、俺たちを襲わないという条件で解放することにした。



「早く泥から助けてやらないと、魔物に襲われちまうぞ〜。」


 去り際のハルクの言葉を聞いて、焦りながら仲間達を掘り出し始めたあたり、悪さばかりの男ではないのだろう。一応、地中の泥の水分は増やしておいた。これから、しっかりと反省して、裏ギルドとの関係からは足を洗って欲しいものだ。


 

 しかし、気になるのは、既に生まれてしまった古竜の情報を、どうやって知ったのかという事。卵を届ける事が依頼のはずだったのに、途中で依頼が子供の奪取に変わったのだそうだ。


 古竜の子供の情報を手に入れ、俺たちの行く先で待ち伏せしていたという事は、もしかすると常に見張られているのかもしれない――



           ♢



 今回の旅は、フーサタウンまでの最短ルートを使うため、1日目は野宿、2日目は新月村、三日目に街につかなければ野宿して、次の日にフーサタウンに入る予定で動いている。


 正直、新月村は避けたい場所だったのだが、リンカータウンやレッチェタウン経由の順路になると、もう1日程度、余計に時間がかかってしまう。なるべく早くフーサタウンに行く為、大剣使いが考えた計画であった。



           ♢



――今、テントの中で、ベルは考えていた。



 白髪の少年が、あの村に行けば、また嫌な思いをさせてしまうだろう。でも、少年が何も言わずにこの順路を受け入れているのに、私から順路の変更を申し出るのは憚られた……。

 それは、私が順路の変更を申し出る事、それ自体が少年を嫌われ者だと認める発言のような気がするから。きっとその発言に少年は傷つく。そんな気がするのだ……。


 少年と出会ってから、彼が理不尽に差別を受け、馬鹿にされ、笑われ、蔑まれ……、彼がいじめられるのを、彼のすぐ側で見てきた。


 

 そっとテントから外を覗いてみる。


 少年と大剣使いは、焚き火を挟んで腰を下ろしている。確かに、少年の周りにも、彼をちゃんと人として認め、笑い合える仲間も増えてきた。

 ナミやナギのように、露骨に少年への好意を隠さない者たちも居るので、看過できない部分もあるのだが、彼の笑顔が増えた事に、素直に喜びを感じている。

 でも、いつも最初は上手くいかず、彼自身何度も悲しみを重ねてきたはずだ。0からではなく、マイナスから始まる関係がほとんどだったから……。


 ライトとソーンはまさにそうだったし、アメワに至っては、一度酷い裏切りを受けている。今、一緒に旅をしているハルクにしたって、魔術師大学の門番として出会った時は、酷い言葉を少年に投げかけていたのだから。



――あぁ……、彼を守ってあげられるような力が欲しい……。



 どんな奇跡か、私の身体は大きくなった。大好きな少年と並んで歩けるほどに。でも、彼の役に立てる力が無い。今日の冒険者たちの襲撃の際だって、少年の背中に庇われているだけ……。身体が大きくなった分、かえって少年に負担をかけてしまっている。


 ふと目の前を、森の少女=シルフが通り過ぎていった。精霊と自分はもともと同種同類、兄弟のようなものなのに、私には彼女たちのような力がない……。彼女たちのように、自然の力を使えたら……。



 ベルは、また焚き火の炎を見つめている少年をみる。その傍には、夜の闇を照らすために魔法のランタンが置かれていた。中にいる、彼が契約している精霊、火蜥蜴=サラマンダーと目が会う。

 彼女は、いつもは悪態ばかりつくくせに、今日は心配するなと呼びかけてきた。貴方もちゃんと少年を支えていると。それは、少年が契約している精霊、全員がわかっていると。


 ベルは、「ありがとう」と、小さく手を振り、またテントの入り口を締め、中に寝転がった。



――せめて、少年へ向けられる悪意の盾に……


 静かに目を閉じ、無理矢理眠りについたのだった――

 

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拙い文章ですが、読んでいただいている皆さんに感謝です。楽しんでいただければ幸いです。
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