街道での襲撃②
「ハルクさんっ! アイツらが古竜を狙っているのは明らかです。先制攻撃喰らわしますので、先鋒お願いします。」
「了解っ! 援護頼むぜっ!」
古竜とベルさんを狙っている輩に、手加減の必要は無い。試したい攻撃もあるし、やってやろうじゃないの。
「おいっ! また亀みたいに丸まって凌ぐかいっ! その女を隠せるならなっ!」
ギャハハハと大きな笑い声が聞こえて来た。前に俺の【障壁】で耐え続けるだけだった事を言っているのだろう。確かに、古竜の子供はまだしも、今のベルさんを抱き抱えて守る事はできないな……。
しかし、今は優秀なアタッカーがいる。俺はいつもと違う立ち回りで、大剣使いのサポートをしながら、古竜とベルさんを守り抜く。
「行きます……。」
相手との距離は20歩ほどまで縮まった。俺は古竜をリュックの中に隠し、ベルさんを俺の背中の後ろに庇うように立たせた。
「サクヤ! ハニヤス! ミズハ! 例のアレをやるっ! 行くよっ!」
俺は波の乙女にウォーターボールの準備をさせ、合わせて、火蜥蜴と土小鬼の合体技の火山礫の指示を出す。
「ミズハ、あいつらの真上にウォーターボールを浮かばせてっ!」
次の瞬間、冒険者の集団の真上に直径50cmほどの水球が生まれた。俺はその水球に向かって麻袋の石を投げる。
「サクヤ! ハニヤス! 火山礫!」
投げた石は、みるみる赤く熱を帯び、灼熱の火山礫に変化し、それが水球にぶつかる――
キューーーーンっ!!!
甲高い音が響き、徐々に音が消えていく……。完全に音が消えた、次の瞬間、水球が大爆発を起こしたっ!!
【水蒸気爆発】。水に非常に温度の高い物質が接触すると、水が急激に気化されて爆発現象がおこる――前世の知識だ。
頭の上で起きた爆発に、10人の冒険者達は吹き飛ばされ、動揺する。
「――おいおい、すげぇな!」
爆発を合図に、大剣使いが集団へと飛び込む。
長剣を頭の上で振り回しながら、最前列にいた例の三人を吹き飛ばした。彼の長剣は、切れ味で勝負するより、長いリーチを活かして薙ぎ払うのに適しているようだ。
「な、なんだこいつらっ! こんなに強いなんて、聞いてねぇぞ!」
集団の一人が、開幕の攻撃だけで逃げ腰になっているが、これだけで終わらせる気は俺にも大剣使いにもない。
俺は続け様に土小鬼と波の乙女に命じる。
「ハニヤスっ! ミズハっ! アイツらの足元に泥沼っ! 簡単に逃すなっ!!」
そう、簡単に逃がしはしない。誰からこんな依頼を受けたのか、しっかりと聞き出さなければ。
「ありがてぇ、おらおらっ! ちょっと眠ってもらうぜっ!」
さすがB級冒険者。足を取られて動きの鈍った冒険者達に、次々と強烈な薙ぎ払いを食らわせていく。俺の投げる石礫も、大剣使いに気を取られている連中の頭を次々と捉えて、戦闘力を奪っていった。
正直言って瞬殺だった。(――殺してはいないけどね。)
最初の水蒸気爆発の爆風で、集団の真ん中付近にいた冒険者3人が気を失い、その後の大剣使いの薙ぎ払いにより、最前列で俺を笑っていた3人組が脱落。逃げようとした1人は、俺の石礫を後頭部に受けて昏倒し、残りの3人も、泥沼に足を取られて動揺した所に大剣使いの薙ぎ払いと、俺の石礫の一撃によって気を失った。
こちらが少人数だと侮ったのか、弓も魔法も使わずに近付いて来たのが浅はかだったのだ。こちらには、優秀なアタッカーと、優秀な精霊たちがいるのだから。
長剣を地面に突き立てて、気を失った冒険者達を見下ろす大剣使いの後ろ姿は、俺の目指す、優しい剣士を思いださせた――
♢
――集団のまとめ役を任されていた魔術師アークは、朦朧とした意識が徐々にハッキリとしていくに連れて、自分の視界がとても低い事に気がついた。しかも、身体が全く動かせない……。
ついさっき、目標のドラゴンを見つけたはずだった。あの弱々しい白髪の魔物の子供が連れ歩いていたはずだ……、そうだ……、アイツら、いきなり攻撃してきやがったんだ! くそっ! 気を失っていたか!
しかし、次の瞬間、魔術師は自分が、首から上だけしか動かせない事に気づいて恐怖した。そう、今、自分の身体が、頭を残して全て泥の中に埋まってしまっているのだ。
「……リーダー、やっと気づいたか? この状況、どうしたらいいんだ?」
頭の後ろから、古い仲間のレンジャー、ニーンが声をかけて来た。奴も、すっかり身体を埋められているようだ。
「ヅーラはどうなってる?」
「リーダー、こっちに埋まってるぜ……。全く、あの魔物の小僧、とんでもなく強くなりやがった……。」
魔術師の男、アークは、レンジャーと盾使いの2人が、とりあえずは無事な事に胸を撫で下ろす。よく見れば、集団にいた2人の男が、木の板を使って他のメンバーを掘り出そうとしているようだ。
(あのガキ……、あんな魔法使えたのか……。)
こちらも魔法の火矢の準備はしていたのだ。ニーンとヅーラが煽って注意を引いているうちに、魔法の詠唱を終わらせて、あとは魔法を放つだけだったのに……。
あいつ、突然、頭の上で大爆発を起こしやがった……。あんな威力の魔法、見た事ない……。極大魔法というやつだろうか。爆発に気を取られた瞬間、長剣の一撃を食らってジ・エンド。あっという間に意識を狩られて、気づけばこの状態だ。
あのヒョロヒョロの魔物のガキに、手も足も出ないまま気を失わされて、文字通り、泥に沈めらて、手も足も出せない状態にされている……。アークは、悔しさと同時に、自分たちの力の無さを恥じるのであった……。
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