街道での襲撃①
俺たちは南の街、フーサタウンを目指して、のんびりと街道を歩いている。
この国は、首都を中心に4つの街が衛星のように存在していて、それぞれを繋ぐ街道が整備されているのだ。
国の中心に首都キャピタル・ヘルツ、
その北に、シーラタウン
その南東に、リンカータウン
その南に、フーサタウン
その南西に、レッチェタウン
それぞれの街を中心にまた、村が紐づかれて存在し、この国を形作っている。
古い文献によると、元は首都を中心に八方を守るように街が存在していたが、長い歴史の中で、東、西、北東、北西にあった街は廃れ、滅びてしまったと云われている。
何故、4つの街は滅びてしまったのか、それについては様々な説が伝えられているが、支配していた種族が、自らと同じ種族以外との共生を拒んだ為、徐々に衰退していき、最終的に街ごと滅びてしまったという説が有力だと云う。
そう言えば、グランドマスターの鬼人族や、ヒルダさんの蜘蛛人族も滅んだり、滅びそうだと言っていたっけ。フェンリルさんや、ブラドさんも、滅びた種族の王様だったと言っていたし、長い歴史の中で、たくさんの種族が滅びてきたのだろう。
神々の戦いの話の中にも、悪なる神ウカが、滅び逝く種族を守る為に新しい仕組みを作ったという話があった。神が悩むほどに、種族の滅びの問題は難しい問題だったのか……。
♢
「退屈な道だけど、ヒロと一緒に歩けるなら、私は幸せだわっ! それにしても、お邪魔虫は視界に入らないように後ろを歩いて欲しいのだけど?」
「へ〜、へ〜、せいぜい目立たないよういたしますよ〜……。」
俺たち一行は、ベルさんの嫌味に辟易としている大剣使いを先頭にして、三人と一匹で街道を歩いている。南の街、フーサタウンまでは約3日ほどの道のり。途中、丁度よく村に着かなければ、野宿することになるかもしれない。
俺はテント生活も長かったし、ケインさんに買って貰ったテントを持ち歩いているので、交代で眠れば、3人での野宿も問題ないだろう。
「ねぇ、ねぇ、野宿なんて久しぶりねっ! 何年振りかしら。今じゃ、仲間がたくさんになりすぎて、2人でテントで寝るなんてできないものっ!」
「いやいや……、ベルさん、その身体で一緒に寝るのはまずいです……。僕とハルクさんは外に居るから、テントはベルさん一人で寝て下さい……。」
「なんでよ!?」
「いや、だから……。」
おしゃべり妖精は不満を体全体で表現するが、妖精の頃なら気にしなかったけど、今、こんなに綺麗な女性になったベルさんと、狭いテントで一緒に寝るなんて、それは倫理的にまずいでしょ。俺、中身は立派なおっさんだしさ……。
「ダメなものは、ダメ!」
「ケチっ!!」
こんなやり取りをしながら、街道を歩いていると、道の向こうに武器を持った10人ほどの集団が見えて来た。
整備されている街道とはいえ、徒歩中心の旅人ばかりである。そういった旅人を狙う輩は、この世界にも存在するのだ。
たとえ、より良い才能を授かる為に、善行を積むのが当たり前との考えが浸透している世界であったとしても――
「――盗賊だな。どうする?」
「ベルさんもいるし、走って逃げるわけにはいきませんね。他の旅人の迷惑にもなるし、盗賊狩りといきましょうか。」
俺は、ランタンを腰に移し、水筒の蓋をあけ、麻袋の口を緩めた。そして、仲間の精霊たちに戦闘準備を頼む。決してこちらも数では負けていない。
♢
今、俺はC級冒険者。大剣使いは、なんとB級冒険者だ。一応、ベルさんもE級冒険者なんだけど、そこはほら、あてにはしちゃいけない。
あちらはおそらく10人程度。それぞれ武器を持って待ち構えている。ただ、盗賊かと思われた集団は、よくよく見れば冒険者のようだった。何故わかったかというと……。
「よぉ、久しぶりだねぇ。まさか、捕獲対象を連れているのが、君だったとはねぇ。」
「随分と綺麗な姉ちゃん連れてるじゃねえか。白髪の魔物の分際でよ!」
「そのドラゴンの子供と一緒に、その姉ちゃんも貰ってやるよ。大人しく引き渡しな。」
あの時、俺をダンジョンの裂け目に落とした3人組が混ざっていたのだから――
♢
「おいっ! 俺たちに武器を向けるという事は、命をかけるという事でいいんだな?」
大剣使いが、背中の幅の広い長剣を鞘から引き抜きながら声をかけた。連中は数の有利に安心しているのだろう。大剣使いの言葉に対してニヤニヤと下卑た笑みを浮かべている。集団との距離は約30歩。そろそろ相手の魔法の間合いに入る頃だ。
「悪いことは言わねぇ。そのドラゴンの子供と綺麗な姉ちゃんを置いて失せな。」
古竜の子供が目的なのか? さっき捕獲対象とか言っていたな。誰かが冒険者に依頼したという事か? 挙句、ベルさんを置いて行けとか……。
やっぱり、こいつらは冒険者じゃない、盗賊と同じだ。あのチンピラ3人組も、誰に頼まれたのかしっかり吐かせてやる。覚悟しろっ!!