古竜と妖精と大剣使い
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俺たちは、南の街フーサタウンを目指して歩いている。メンバーは、俺、大剣使いのハルク、そして、何故か身体が大きくなったおしゃべり妖精のベル。
自然に俺の横を歩いているのだが、一体どうしておしゃべり妖精は大きくなったのか。
混ぜるな危険の薬品が混ざり合い、こんな不思議な現象を引き起こす薬ができるなんて、神様だって想像できないだろう。
というか、副作用は無いのか? 元に戻る事はできるのか? 俺の中には次々と心配事が溢れてきてしまう。
そんな俺の心配を他所に、当の本人は鼻歌を歌いながら、俺の腕に自分の腕を絡ませてくる。
今までも、可愛らしいとは思っていたが、俺たちと同じ大きさになったおしゃべり妖精は、妖精の名に恥じない美しさであった。
肩まで伸びたブロンドの髪に、スラリと伸びた手足、スリムな身体でスタイルもいい。すれ違えば、誰もが振り返るような美人なのである。
ただ、もともと女性と付き合うのが苦手な俺にとって、こんな綺麗な女性と寄り添って歩くなんて事は、心臓に悪すぎるのだ。さっきから意識しすぎて、緊張から汗が止まらないのだが、おしゃべり妖精はお構いなしでくっついてくる。それにしても、背中にあった羽が無くなっているのだけど、本人は気にしてないのかな。妖精ではなくなってしまったという事なのだろうか……。
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「やっとヒロと並んで歩けるようになったのに、なんでお邪魔虫が居るのかしらっ!」
ベルの酷い難癖に、大剣使いのハルクは口をへの字に曲げて、苦笑いだけで答える。元々が妖精だったと教えられて、最初のうちはかなり驚いていたのだが、いつまで経っても悪口が絶えない妖精に、かなりうんざりしているようだ。
ハルクは、大剣を背中に背負い、俺たちの少し前を歩いている。彼は、実はB級冒険者であり、若い頃はグランドマスターであるギルに師事していたそうだ。
その大剣を使った戦闘スタイルはかなり攻撃的で、魔術師大学での奪還戦の活躍を思い出してみれば、かなりの実力者である事が伺われる。
何故、魔術師大学で酒の臭いを漂わせながら門番をやっていたのか、その辺りはかなり気になる所だが、本人が話さない事をこちらがあれこれ聞くのも忍びないので、何も聞かないでいる。
ただ、ギルからの手紙を見てから、彼にとっての何かが変わったのだろう。今は酒も煙草もやめて、自分を鍛え直すと言っていた。
彼が自分の目標に向かって歩き出したというのなら、応援してあげたいものだ――
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「ピィ〜ピ、ピィ〜ピ、ピィ〜ピッピ!」
前までは、おしゃべり妖精の定位置だった俺の頭の上にいるのが、今回、フーサタウンまで送り届ける予定のエンシェントドラゴン=古竜の子供だ。
産まれた時に発した強力な竜の咆哮は、今はすっかりと鳴りを潜めている。特に暴れるわけでもなく、かなり大人しくて、可愛いことに、俺に懐いてくれているようだ。
シリウム学長の考察では、卵の中にいる時に俺の魔力を大量に取り込んだ為、古竜の子供が俺と似たタイプの魔力を持つようになってしまい、そのせいで、親密度がかなり上がっているのではないかと言うのだ。
本来、卵の中で親の魔力を吸収することにより、その能力を受け継いで親子の関係を深めるはずの所を、俺の魔力を取り込んでしまった為に、俺と古竜が親子のような関係になってしまったのだろう。
まぁ、懐いてくれているので、悪い気はしないが、本来、この世界の最強種の一つであるという事は、紛れもない事実ではある。
いくら、今の時点で心配なさそうだとしても、気をつけて連れて歩かなくてはならないな――
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――ベルは、愛する少年の隣を歩きながら、今までに感じた事がないほど、幸せを感じていた。
いつも、自分の小さな身体を恨めしく思い、自分の力の無さを嘆き、白髪の少年の役に立てない自分の事を嫌い、常に自分を攻め続けていたのだから……。
妖精の羽はあの時抜け落ちてしまった。
もし、身体がまた元に戻ってしまった時、前のように自由に飛び回ったりはできないだろう。それは、きっと、妖精としては致命的なことに違いない。
――でも、今、この身体でならヒロの隣に立てる! 大好きなヒロと肩を並べて歩けるのだ! そう、今までは彼の周りを飛び回る事しか出来なかった自分がだ!
でも………、幸せを感じながら、同時に不安にも思う……。
妖精の身体であった時、風の精霊、森の少女=シルフとしての能力は使えなかった。身体が大きくなった今も、その能力が使えるような気はしない。未だに、自分自身にどんな力があるかすらもわからない。
今の自分には何ができるだろうか……。
凄い才能があるわけでは無い……。
凄い身体能力が付いたわけでも無い……。
身体こそ大きくなったが、本当に少年の役に立てるだろうか……。
怖い、怖い、怖い、怖い、でも嬉しい……。
きっと、ヒロの役に立ってみせる
そう、私の愛する少年の役に――
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