後始末
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「兄ちゃん、大丈夫か。ハルクの奴は、役に立ったかよ。」
ローブの集団を倒した後、魔力が回復しきらない俺は、しばらく古竜の子供を抱いたまま座り続けていた。そこに、少し遅れてグランドマスターのギルが冒険者達を引き連れてやってきたのだ。
「し、師匠自ら援軍に!?」
俺のすぐ隣で胡座をかいていた大剣使いは、まさかのグランドマスターの登場に、急に足を揃えて正座になる。
「――ヒロ様、援軍が間に合わず、申し訳ありませんでした。」
「ヒルダさん、そんな事ないですよ。ハルクさんを前もって送っていただけたので、なんとかヒルコの分身体達を倒すことができました。本当にありがとうございました。」
機械人形=ゴーレムの姿で現れたヒルダは申し訳なさそうに頭を下げているが、ヒルダの機転のお陰で、大剣使いの援護を得られたのだ。これは、本当にありがたかった。
「そいつが古竜=エンシェントドラゴンか。ずいぶんと大人しいもんだな。」
古竜の子供は、俺に大人しく抱かれている。
この世界の最強種と云われる竜の子供だ。まさか、こんなに大人しいものとはなかなか思えないだろう。
「――竜は魔力を吸収して育つと云われておる。おそらく、卵から孵る条件も、親から与えられる魔力が一定量に達する事なのじゃろうよ。」
先程まで気を失っていた魔力総量測定技師の老人が、目を覚ましてやって来た。この老人、やはりかなり博識である。竜種についての知識も持っているようだ。
「そして、恐らくお前さんの魔力を大量に吸収して卵が孵る条件に達したのじゃ。まぁ、普通の人間では、竜の卵を孵す程の魔力など持ち合わせてはいないがの……。」
卵が孵る直前、確かに俺の魔力がごっそりと持っていかれた感覚があった。きっと、あの時、卵に魔力を吸い取られたんだろうな。
「おぉ!? 誰かと思えば、学長じゃねえか。」
ん?
学長?
この人が?
「おぉ、お前さんこそ、グラマス自らこんな所まで出張ってくるとは、そんなに今回の事件は大変なものだったのか?」
はい、大変でした。
「というかの。ワシは今、学長ではないぞ? ただの魔力総量測定機の担当技師じゃ。そこに寝ておる学長代理たちに追い出されたからの……。」
後から聞いた話だが、ローブの男達は、全員魔法大学の関係者だったそうだ。ヒルコの仮面の男が、それらの者達を操り、シリウム学長を引退させ、自分たちで大学内を好き勝手にできるよう画策していたんだそうだ。
俺が初めて魔術師大学を訪れた際、門番の大剣使いが、あれだけ怪しい集団を簡単に門の中に通したのも、魔術師大学のお偉いさん達だったかららしい。
この事件の後、シリウムは学長の座に返り咲くのだが、本人は気ままに研究できる、魔力総量計測機の管理人が気に入っていたらしく、なかなか復帰することを了承しなかったそうだ。
♢
「なるほど、博識なわけだ。まさか、あなたが魔法大学の学長だったなんて。」
彼のおかげで、古竜についてもある程度教えて貰えたし、何より自分の魔力について知ることができた。完全な数値までは判明しなかったが、MP9,999を超えている事はわかったのだ。感謝するべきだろう。
「しかし、お前さんは面白い男じゃの。尋常じゃない魔力量もそうだが、まさか、古竜の子供やダンジョンの使徒であるヒルコとまで知り合いとはの。」
いや、知り合いというわけではないのだけどね……。古竜はたまたま探すことになっただけだし、ヒルコに関しては、完全に敵同士なわけで。
そう話した俺に、シリウムは笑いながら話す。
「まぁ、偶然でも、必然でも、こうやってお前さんの周りに色々と集まってくるのは、お前さんが英雄の素質を持っておるからじゃろうて。」
グランドマスターも、美人秘書も、大剣使いも……、そして、いつの間にか起きて来た、おしゃべり妖精までも、俺を笑顔で見つめている。
「――お前さんの努力の賜物ということじゃな。しっかりと努力の天才に近づいているんじゃろう。英雄を目指すと言うなら、そのまま努力を続けることじゃ。ワシも期待しておるからの。」
周りを囲むみんなが、その言葉に頷いている。
「――はい、優しい英雄を目指す、努力の天才。あなたに教えていただいたこの言葉を大事にして、これからの僕の道標として頑張っていきます!」
♢
さて、なんとかヒルコの企みは阻止できたのだが、ここに古竜の子供を置いておくわけには行かない。
そこで、俺が南の町フーサタウンにある、ダンジョン=ファーマスフーサの使徒の元へ送り届けることになった。
本当は、ダンジョン=インビジブルシーラへ、ハイエルフの使徒アエテルニタスに機械人形=ゴーレムについての話を聞きに行く予定だったのだが、古竜の子供は、すっかり俺に懐いており、他の者ではダンジョン=ファーマスフーサの使徒に届けることは難しいだろうと判断された。
北に行くはずが、南に……。まぁ、みんなとの約束の日までは、まだ2ヶ月以上ある。重要な仕事でもあることだし、一丁やってやるか。
「――俺も連れて行ってくれないか……。酒も煙草もやめた。必ず役に立ってみせる。頼む……。」
大剣使いは、俺に両手をついて頼んできた。今回、大剣使いのおかげで助かったわけだし、手伝ってくれるというのだ。ありがたくお願いする事にした。
ただ、大きくなったおしゃべり妖精は、「せっかくの2人旅だったのにっ!」と、大反対していたんたけどね――