古竜の卵奪還戦②
「――遅れてすまんっ! 少年、大丈夫かっ!」
長剣を振り回しながら、ローブの男を吹き飛ばし、その男は部屋に大声を響かせる。
門番の男は、勢いを保ったまま、次のターゲットに向けて、力任せに長剣をぶち当てる。手持ちのナイフで防げるわけもなく、2人目のローブの男も壁へと吹き飛ばされていった。
このパワー重視の長剣使いは、防御無視で長剣を振り回すように使っている。
「ヒルダさんに言われて来た! お前は絶対に助けだすっ!」
そう宣言すると、長剣使いの門番は、長剣を振り回しながら、次のターゲットに向けて突貫していく。今まで俺に対してナイフを突き立てていた男たちは、無視できないパワーファイターの登場によって、門番に対してナイフを向けた。
ナイフで長剣の持ち主と闘うことの不利を考えたのか、ローブの男達は門番に向かってナイフを投げつける。それに対して、門番は幅広の長剣を上手く盾に使い、投げつけられたナイフを全て弾いた。
しかし、突貫の勢いが止まった門番に向かって、今度は隙をついて詠唱された魔法の火矢が飛ぶ。
ローブの男達はどうやら魔術師らしい。
最初に吹き飛ばされたローブの男からも、魔法の火矢が放たれる。倒したと思った男からの攻撃に、防御が間に合わなかった門番は火矢の一撃を左肩に受けてしまう。
「こんなもん、効かねえよっ!!!」
彼は、上手く肩当てを使って火矢を受けたようだ。どうやら、この門番の男、相当乱戦に慣れている。すぐさま体制を立て直して、また長剣を振り回し始めた。
「ヒロっ! こいつら、全員背中に糸が繋がってる! 全部切っちゃえっ!!」
「なんじゃ! いったい、何が起こっているんさじゃ!?」
突貫してきた門番の後ろに立っていたのは、何故か大きくなったおしゃべり妖精と魔力総量測定機の技師の老人。
――来るなといったのに……。でも、
「ありがとうっ! みんなっ!」
♢
長剣による薙ぎ払いで仲間が飛ばされたことで、ローブの男たちの気が俺から逸れる。そこで、俺は魔法剣を抜く事ができた――
「ベルさんっ! 指示お願いっ!!」
まさに、勇気100倍! あの声が聞こえただけで、勇気が湧いて来た! 古竜の卵を抱えたまま、門番たちに気を取られたローブの男の背中側の空間を魔法剣で切り裂く。
それは、あの優しい剣士に教えてもらい、毎日繰り返した基本の型。袈裟斬りから、切り上げのゴールデンパターン――
「今ので大丈夫っ! 2人の糸は切れたわっ!!」
2人の男がヒルコの分身からの支配を断ち切られて崩れ落ちる。
妖精の指示によって、門番の男も吹き飛ばしたローブの男達の背中の空間を切り払っている。しっかりと、ヒルコの分身から伸びる魔法糸を切断したようだ。
あとは狐の仮面を被った男ただひとり!
「――さて、形勢逆転だな。」俺は、狐憑きの男に剣先を向けた。
ヒルコの仮面を被せられている男は、両手の掌をこちらに向けたまま、ジリジリと後ろへ下がっていく。いつからヒルコに魂を吸い取られ続けているのだろうか。その腕は驚くほどに細く、骨が浮き上がってみえれる。
ゆっくりと、門番と共に囲むようにしながら、狐憑きの男を部屋の隅へと追い込む。壁に阻まれ、それ以上後ろに下がれなくなった男のその仮面へと、一撃を加えようとしたその時だった――
「その仮面、破壊させてもらおうか、――んんんっっっ!?」
突然、急激に魔力を吸い取られるような感覚に、軽い目眩が起きた……。
これは、精霊たちの仕業? 視線を向けると、自分じゃないと首を振る火蜥蜴と土小鬼。波の乙女も同じく首を振って否定する。でも、確かに魔力が吸い取られ続けている……。
――これは……、古竜の卵か!?
冷静に魔力の流れをたどってみると、大量の魔力が古竜の卵に向かって流れている。魔力総量が大きいと言われた俺が、目眩を起こすほどの量が吸い取られ続けているのだ。
「………門番さん、そいつの狐の仮面を壊して………。」
徐々に大きくなる目眩に、立っていられなくなった俺は片膝をついてしまった。
「どうした、少年……。大丈夫か?」
急に苦しみ出した俺に、動揺する門番の男だが、しっかりと手に持つ長剣は狐憑きの男に突きつけている。
「――卵に魔力を吸われて………。」
「ヒロっ!?」
ベルが駆け寄ろうとするが、俺は手で制した。まだ、ヒルコの分身体からの脅威は去っていないのだ。
「……早く、あの狐の仮面を壊して……。」
眩暈で立ち上がれない俺の訴えに、門番が動き出そうとしたその時、俺が抱える古竜の卵に亀裂が入った。
ピキッ! ピキピキッ!!
派手な音を立てながら、とうとう古竜の卵が割れてしまった――