英雄の条件
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「ほぉ〜……、無意識にスキルを発動していた事で、常に魔力渇枯状態になっていたと……。」
俺は、隠す事でも無いと思い、素直に老人の質問に答えていた。俺自身も、魔力総量を上げる仕組みを理解し、まだ伸びると言われた魔力総量を伸ばしたい気持ちもあったから。
氷狼は、いつも俺に協力してくれている精霊たちが、俺の魔力を喰らってその存在の徴現を維持していると言っていたし、継続して俺の魔力を喰らっているおかげで、その存在が上位の精霊へと進化しかけていると言っていた。
精霊たちに喰らわせる魔力が多い程、その進化の進み具合も大きいのではないか、俺はそう考えている。ならば、俺の魔力は多い方が良いに決まっている。常に、大量の魔力を蓄えておければ、精霊たちにもたくさん喰わせてやれるはずなのだ。
「俺の魔力総量は、これからも増やしていけるでしょうか?」
老人は、一瞬考え込んだが、すぐに話し始めた。
「――正直言って、お前さんのそのとんでもない量の魔力を使い切るのは、かなり難しいじゃろう。じゃから、これから1.25倍、1.5倍と大きな増加を望むというのは無理な話じゃと思う……、」
なるほど、魔力総量が多くなればなるほど、魔力を0に近づける事は難しくなるよな……。
「じゃがの……、実は魔力総量が増える仕組みは、もう一つある。――それは、魔力が大きく回復する程、微量ではあるが魔力総量は増えるというものじゃ。」
老人の話によると、大きく魔力を使った後は、しっかりて休む事により、魔力の回復する量も大きくなる。そして、その際の回復量が多ければ多いほど、僅かではあるが魔力総量が増えるのだそうだ。
この現象は、老人が繰り返し行った実験によって、しっかりと確認された現象であり、論文にまとめて発表してあるのだそうだ。そこら辺は、いかにも魔術師大学の研究者らしい。
「では、僕でもまだまだ魔力総量は増やせる可能性はあるんですね!」
「まぁ、そうじゃの……。ただ、お前さんのその尋常じゃない量の魔力総量で、それ以上増やしてどうするんじゃ、とは思うがのう……。」
「――僕は、ある優しい英雄を目標にしています。自分を成長させなければ、到底、目標には辿り着けませんので――。」
「……ほぉ……、英雄を目指すか……。久しく、そんな言葉を聞く事はなかったの……。」
老人は、先程までの興奮した様子から、何か急に穏やかな表情に変わった。
「――お前さんの魔力総量は、すでに英雄クラスじゃ。焦らず、努力を続けなさい。決して生命を軽んじてはならんぞ。魔力総量をこんな量にまで増やし、その際の苦しみに耐えられたお前さんじゃ、必ず英雄になれる――」
老人は、メモを取り続けていた鉛筆を置き、目を閉じながら話を続けた。
「――ワシはの、昔、英雄に憧れていてのぉ。様々な英雄譚を調べ尽くしたものじゃ。いずれの英雄と呼ばれる者も、その才能の豊かさから、天才と呼ばれているが、実際の英雄たちの凄さというのは、努力を惜しまず、同じ事をコツコツ繰り返すことができるという事なのだとワシは思っておる。」
ここまで話すと、今度は目を開き、優しい笑顔で俺に向かって言う。
「――お前さんは、努力の天才になるのじゃぞ。それが、英雄になる為の条件じゃ。」
何故か、そう話す老人が、さっきまでの興奮した、ただの魔力総量測定機の技師ではなく、急に教育者というか、大先生のように見えた。
努力の天才、いいじゃないか。
「――優しい英雄を目指す、努力の天才。良いですね。僕の座右の銘にします!」
♢
話が一段落して、老人と二人でお茶を飲み始めた時、急に部屋のドアが開いて、知らない女性が部屋に入ってきた。何処かで会った事があるような気もするのだが、全く思い出せない。
その女性は、パー・ルアングのように白い布を身体に巻きつけていて、大人の女性といった雰囲気ではあるが、何か悪戯っぽい笑顔を浮かべている。いかにも俺の事をを知っているかのように、ゆっくりと俺の目の前までやって来た。
この部屋に躊躇なく入ってくるという事は、老人の知り合いだろうか。
老人に話を振ろうと、目を離した途端、その女性が俺に飛びついてきた!
なんだ!?
どうした!?
この人だれ!?
「――ヒロっ! 私、大きくなれたよ!?」
ん?
「――私よっ! ベルよっ!」
へっ!? どういう事!? ベルさん!?
目の前にいる女性が、おしゃべり妖精だって!?
俺は何が起きているのかわからず、ただ驚きで口をパクパクさせているだけだった――
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