魔力研究家
今回、成り行きで魔術師大学の中を調べる事になってしまったが、元々は魔力総量を測ってもらう為にここを尋ねてきたのだ。自分の魔力総量を調べる事は、正直な所、とても興味がある。
「魔力の量とは、どのような単位で表すのですか?」
「なんじゃ、そんなことも知らんのか。しょうがないのう、ワシが教えてやろう。」
予想通り、かなり話したがりの爺さんのようだ。まぁ、俺自身の興味もあるし、色々と聞いてみよう。
「魔力の量はMPという数値で表される。こんな事も知らんとは情けないの。」
いや、すいませんね。全く知りませんけど。でも、大した捻りもないし、俺が遊んでいたロールプレイングゲームでの表し方と同じみたいだな。まぁ、爺さんのお話熱が盛り上がりそうだし、俺は「勉強不足ですいません。」と頭を掻いて笑っておいた。すると、満足そうに老人は話し続ける。
「ふふん、全く、今時の若者は、スキルだ魔法だと、力を使うことばかり考えて、そのスキルにも魔法にも、必ず魔力必要だという点をあまり考えないからな。何か力が発揮される為には、それ同価値の労力が発生している事を理解しようとしない。」
うわぁ、なんか研究者っぽい話になってきた。
「スキルや魔法が発動すると、何も無いところから自分が凄いものを生み出していると錯覚してしまうのだろうが、それ自体、自身に授けられた才能と、そこに魔力が掛け合わさって生まれる産物なのだがの。まぁ、誰しも自分の力だけで何かを生み出した時、自分は凄いのかもしれないと、期待してしまうもんじゃ。」
何言ってるか、解るようで解らない……。
「ちなみに、魔力の総量というものは、魔力を繰り返し使う事により増えるが、その魔力が全て無くなるまで使う事により、大きく総量が増えると言われている。ワシが考えた法則では、元のMP総量の1.5倍程にはなるようじゃ。」
法則あるのか……。というか、この人が考えたって事は、やっぱりこの爺さんも学者さんなのかな。
「ただな、その身に蓄えられている魔力を使い切るというのは、なかなかできるものではない。普通は、自己防衛本能が働くからの。魔力を使い切ると激しい頭痛や吐き気、下手をすると気を失ってしまう。誰でもそんな目には会いたくはあるまい。」
あ〜、やっぱり魔力が無くなるとそうなるのか……。
「完全に使い切らずとも、魔力が0に近い数値まで下がると、倍率は低くはなるが、やはり魔力の総量は増えるようだ。ワシの計算によると、それでも1.25倍ほどには増えていくようだ。しかし、その状態でも、ひどい頭痛は起こるからの。やはり、誰でもその状態になる前に、自然と身体が魔力を使うことにブレーキをかけることになる。」
生まれてからずっと魔力を、使い果たす事を繰り返していたからな。その度に1.5倍とか、1.25倍とかなっていたら、それは総量が増えているのは当たり前か。だって、常に頭痛だったわけだし、なんなら、気を失なう事もあった訳だし……。
「だいたい、皆さんの魔力総量というものは、どの位が平均値なのでしょうか?」
自分が周りと比べてどんな程度なのか、知っておきたいからね。
「ふふん。まぁ、普通の大人であれば、MPは200と言ったところだろうな。相当の鍛錬を詰んだもので、500。達人と言われるもので1,000といったところだ。」
魔力が無くなれば1.5倍になるのに、そんな程度なの? え、そこまで、魔力を使い切るという事は難しい事なの? 俺はそのままの疑問をぶつけてみる事にした。
「あの、シリウムさん。魔力をすっかり使い切れば、1.5倍もの倍率で総量が増えるのに、達人でも1,000程度なのは何故ですか? もっと増やせそうな気がするのですが……。」
俺の質問に、目の前の老人はフフンと鼻をならし、また話し始めた。
「お前さんは、一回のスキルに必要なMPがどのくらいか解っておるか? 普通、簡単なスキルに必要なMPは2ポイント程度だ。相当なレベルの極大魔法を使おうとしても、200ポイントは使うまい。ということはだぞ、MPが1,000もあったら、充分すぎるじゃろ?」
スキルに必要なMPってそんな程度なのか。俺の【障壁】なんかでもその位なのだろうか。
「あと、MPというものは、休んでいれば自然と回復する。その量は個人差があるがの。ただ、大人になる程、その回復量は増えていくから、子供のうちに魔力を増やす努力をしていないと、なかなか魔力総量は増やしにくくなるのじゃよ。」
ナナシ=アリウムみたいに、無意識に魔力を使い続けていて、常に魔力が枯渇した状態でもなければ、そうは増えないということか。
「だいたい、さっきも言ったが、人は無意識のうちに、魔力を使い切らないよう、その使用にブレーキがかるもんじゃ。だから、なかなか1.25倍、1.5倍と増やしていく事は難しいのじゃよ。誰でも苦しい思いはしたくないものじゃからな。」
自分の才能を理解するまで、スキルの発動を止める事が出来なかったからな。苦しい日々を送っていたから、恐らく魔力総量が増える事になっているだろう。
「まぁ、お前さんくらいの年齢なら、努力すれば、まだまだ魔力総量を増やせるから、頑張ることじゃな。」
なるほど、まだまだ俺には可能性があるということか。
「シリウムさんは、かなりの研究者でいらっしゃるのですね。とても勉強になります。」
魔力総量を増やす方法も教えてもらえたし、この魔術師大学への訪問はかなり有意義なものとなりそうだ。ちょっと狐憑きの存在を忘れてしまいそう。
その後も、魔力残量と魔力総量の増加率の関係について、実験結果や考察など長々と聞くことになったのだが、これが意外と面白い話だった。時間稼ぎもしなくてはならなかった為、都合も良かったし。
「ちなみに、シリウムさんは、他にも何か研究していらっしゃるのですか?かなり、高名な研究者とお見受けしたのですが。」
話を長引かせる為、もう少し老人に質問を投げかける。俺にとって有意義な話をもっと聞けるかもしれないし。
「ワシか? ―― ワシは、自分の研究にばかり没頭していたせいで、いつの間にか、研究室も地位も無くなしてしまった、ただの魔力総量計の管理人じゃよ。」
少し遠くを見るような目をして語る老人は、何か俺の仲間の歴史学者に似ているように見えた――
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