グランドマスターからの依頼
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『ねぇねぇ、あなたのその身体、私も使えないかしら……?』
冒険者ギルドでのやりとりを終え、魔術師大学へと向かう道すがら、おしゃべり妖精が美人秘書に話しかけ続けている。どうも、ヒルダと同じような身長の自分なら、美人秘書の機械人形=ゴーレムに入れるのではないかと考えたらしい。
「……… アエテルニタス様にお願いすれば、作って頂けるとは思いますが………、」
周りを飛び回る妖精に表情も変えずに、淡々と話す美人秘書。そもそも、表情は変えられないのかもしれないが、嫌な顔をせずにおしゃべり妖精の質問に答えている。
「………ただ、私のタイプのゴーレムでは、身体を操る為のスキルが必要ですし、他のタイプのゴーレムでは、中に完全に封印されてしまう為、今の身体がある状態では難しいかと思います。」
『なんでよ!? せっかくヒロと並んで歩けるかと思ったのに!?』
すっかりと意気消沈してしまったおしゃべり妖精は、拗ねて俺の胸ポケットの中に隠れてしまった。
グランドマスターからの依頼をこなす為には、このおしゃべり妖精の力が必要になる為、機嫌を治してもらわないと困るのだけど……。
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グランドマスターが言うには、ヒルコの仮面を使った狐憑きは、首都以外の4都市で数年おきに起こっているらしい。いずれもその街のダンジョンの守護者達が上手く対処してきていた為、大事には至ることは無く、今まできているのだそうだ。
ただ、今回の狐憑きの襲撃では、吸血鬼王が重症を負い、かなり危ないところだった。長い歴史の中、徐々にヒルコもやる事が巧妙になってきている証拠であろう。
「ちなみになんだが、今起きている、ファーマスフーサでのドラゴン大量発生も、狐憑きの仕業ではないかと睨んでいる……。実は、古竜=エンシェントドラゴンの卵が奪われ、その卵を取り返す為に、配下のドラゴン達が浅い層にまで出張ってきているらしいのだ。」
古竜の卵って、相当珍しそう……。自分の卵が奪われれば、そりゃ、古竜も怒るよな。
「だいたいな、もし、普通の冒険者が古竜の卵を手に入れたのなら、冒険者ギルドに買取の仲介を頼むはずだ。しかし、俺の知る限り、ギルドに持ち込まれたという話は全くない。」
たしか、トラブル防止の為に、買取の仲介は冒険者ギルドがやっているはず。裏ルートで売り捌くこともあるだろうが、あのキレ者のグランドマスターが、そこを調べないはずはないだろう。
「そこで兄ちゃんの話だ。怪しいローブの5人組が魔術師大学に来た。しかも、ヒルコの仮面をつけていたかもしれない。もし、ヒルコの配下が魔術師大学にいて、古竜の卵を運ばせたとすれば、最近の閉鎖的で秘密主義の魔法大学の在り方も、合点がいくのだ。」
閉鎖的で秘密主義って、活発に意見を交わし合う場が魔術師大学じゃなかったのか………。そもそも、新しい考えを生み出す為には、中も外も関係なく議論しなくては、考えが膠着し、変化などなかなか起きやしないだろう。
「魔術師大学はもともと学外に広く開かれ、色々な意見を戦わせた場所だったんだが、最近はかなり保守的なようでな。新しい発表があっても、世の常識から外れているなどと難癖ばかりつけて、論議すらさせないのだとよ。」
我がパーティーの歴史学者も、そうやって大学を追い出されたと言っていたっけ。そんな保守的で変化を嫌う所なのだったら、いつまで経っても、あの優秀な魔術師の論文は認めてもらえはしないだろう。こんな理不尽は悔しすぎる。
「ところで、古竜の卵って、よほど珍しいものなんでしょうね?」
俺は、グランドマスターに素朴な疑問をぶつけてみた。だって、イマイチその価値とか解らないし。
「ヒロ様。この世界に古竜=エンシェントドラゴンと呼ばれる存在は、4体しかいません。その古竜の卵ということは、5体目の古竜。長い歴史の中で古竜が卵を産んだという記録はありません。おそらく、ドラゴンの社会においては、その支配者の子供が攫われたようなものなのです。」
ヒルダさんが機械人形=ゴーレムの中に戻り、美人秘書として説明してくれた。
「長命の種族というのは、総じて子孫が生まれ難く、その為、絶滅の危機に瀕しているのです。」
もし、使徒の子孫を殺す事ができれば、ヒルコとしては敵対する戦力を弱体化する事ができるということか。でも……、
「使徒である古竜の弱体化を計るなら、その場で卵を壊してしまえばいいのではないですか?」
「ふむ。そこなんだが……。その場で卵を壊す事が出来なかったのか、もしくは、ヒルコの操り人形の能力で子供のうちに支配して利用しようと考えているのかもしれない……。」
そういえば、ナミもナギも、第二の才能を、【パペット】に上書きされ、その影響か、【操り人形】というスキルが発現している。吸血鬼王を追い詰めた、ケインさん達を操る能力と同じ要領で、古竜を操つるつもりなのだろうか――
「僕の仲間に、ヒルコに第二の才能を上書きされた者がいます。その才能は、複数の人間を魔力の糸で操るというものでした。グランドマスターの言う通り、もしかしたら古竜が子供のうちに操ってしまおうという事かも知れません。」
「………うむ。長ったらしい役職でよばんでいい、俺の事はギルと呼べ。兄ちゃん、おそらくその考えで、間違いないだろう。狐憑きは、相手の隙をついて支配するが、生まれてすぐの子供に、スキルに対抗はできないだろうからな。」
「あっ! そういえば、5人組の一人が、大事そうに荷物を抱えていた! あれが古竜の卵だったのかもしれない!」
子供とはいえ、古竜の能力は計り知れない……。ヒルコの悪巧みに利用されれば、どんな被害がでるかもわからない。なんとか、防がなくては。
「何とか、古竜の卵を取り返しましょう!」
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