グランドマスターと秘書
「最近、フーサでのドラゴン騒ぎで、それなりに腕に自信のある連中が皆んなフーサに行っちまってよ。おかげで、さっきみたいな半端な連中ばかり残っちまった。アイツらじゃ、とてもドラゴン討伐なんて無理だからな。」
あれ、そういえばフィリアさんもそんな事言ってたっけ。
「全く、自分の才能を磨く事を忘れて、昼から酒なんて飲みやがって、情けねぇ奴等だよ。鍛え直してやりてぇが、立場上、個別にはなかなか指導してやれなくてな。面目ねぇ。」
冒険者ギルドのトップ中のトップだからな。本来なら俺だってこんな風に話なんかできない相手なんだろうな。
「――それで、この街には何しに来たんだ?」
なにか呆気に取られている俺たちを気遣ってか、グランマスターのギルが、話を切り出した。
「もしかして、ヒルコ案件か?」
「……いえ、魔術師大学で魔力総量を測ってもらいに行ったのですが、門番に魔物混じりは帰れと言われまして……。サムギルド長の紹介状を見せたんですが、全く信用してもらえなくて。それで、首都のギルドであれば、何かしら魔術師大学との繋がりがあるんじゃないかと、寄ってみたんです……。」
ギルは呆れたような顔でため息をついた。
「魔術師大学の門番といや、ハルクの奴か……。その野郎はかなり大きな長剣を持ってなかったか?」
あぁ、そういえば、立ったまま頬杖つけるくらいの長剣だったな。俺は肯定の意味でうなづき、おしゃべり妖精は『あの頭にくる酔っ払いよねっ!』と捲し立て始めた。
「――ったく、ハルクの馬鹿野郎が……。目標の男が死んじまったからって、冒険にも行かずに燻りやがって……。」
あんな飲んだくれ門番でも、色々と事情があるのか。その時、ふとローブの男たちの事を思い出した。
「――あ、あと………。」
一瞬、話していいのか迷ったが、今までの話の内容と、サムの元仲間という事を考えて、この人になら話しても大丈夫だろうと、俺は意を決して話すことにした。
「――その時見かけたローブの集団に、ヒルコの仮面をつけた人物がいたようなのです。ただ、しっかりと確認出来たわけではないので、見間違いの可能性もあるのですが……。」
「――っ!?」
ギルはそこまで聞くと、顎に手を当てて考え込んだ。自分からヒルコの名を口にするくらいだ。おそらく、使徒同士の争いや、悪なる神の真実なども知っているのだろう。
しばらく黙って考えこんでいたが、ふと顔を上げると、さっきの秘書を読んだ。
「――ヒルダ、ちょっと来てくれ。任せたい仕事ができた。」
音もなく部屋に入って来た秘書に、小声で耳打ちすると、ヒルダと呼ばれたその女性はギルの横に座り、頭を下げながら名乗った。
「あなた方は、四使徒のお仲間ですよね。――私は、ヒルダ。使徒アエテルニタス様の眷属です。」
そして、徐に上着を脱ぎ始めると、そのまま上半身裸になってしまった。
流石の俺も美人秘書が突然裸になるなんてと驚き慌てて、すぐにおしゃべり妖精によって目を塞がれたのだが、目の前にいるヒルダのその上半身は、女性らしい膨らみはあるものの、まるでマネキンのような、人形のような身体だった。
「私のこの身体は、使徒アエテルニタス様がお造りになった機械人形=ゴーレムです。実際の私は、蜘蛛人族、絶滅した種族の末裔です。」
そう言って身を折り曲げると、背中の一部がハッチのように開き、その中から掌台の大きさの女性が現れた。
彼女は、その下半身は蜘蛛のそれで、8本の脚を持ち、上半身は人のそれで、綺麗な女性の身体であり、こちらはちゃんと服を着ている。
「まぁ、機械人形=ゴーレムと言っても、この身体には自動制御機能は無いので、私のスキルで動かしているのですが……。」
俺もおしゃべり妖精もあまりに驚きすぎて、声も出ないでいた。蜘蛛人族だなんて、初めて聞いたし、もちろん初めて出会ったわけだし。
「私は、種族が滅びていく中で、この機械人形=ゴーレムの核に封印してもらうことにより、このように存在し続けられているのです。まぁ、封印といっても、こうやって自身の身体で外に出ることもできるのですがね。」
ヒルダをよく見れば、機械人形=ゴーレムの顔とそっくりの美人。ゴーレムの顔は、実際のヒルダの顔に似せて作られていのだろう。
しかし、美人秘書さんだと思っていた人が、まさかのゴーレムで、しかも、その中から小さな女性が出てくるとか、まるでSFの世界。おそらく、この世界の理の中でも異質な技術なのだろう。
「なぁ、兄ちゃん。俺からも魔術師大学に招待状を書いてやるし、ヒルダを一緒につける。そうすれば魔力総量も測ってもらえるだろう。――そこでだ。こちらからの頼みも手伝ってくれねぇか?」
俺とおしゃべり妖精は顔を見合せた。グランドマスターの紹介状を貰えるなんて願ったり叶ったりだし、何となく彼からの頼まれ事についても、予想がついた。
おそらく、逆にこちらから頼みたいような内容だろう。
「――俺たちと一緒に、魔術師大学の中の隠密調査を頼みたい。」
やっぱりね。
こちらも気になっていた所な訳だし、望むところだ――
リンカーアームには、氷狼 フェンリル
レッチェアームには、ヴァンパイアロード ブラド
インビジブルシーラには、ハイエルフ アエテルニタス
ファーマスフーサには、エンシェントドラゴン ゴズ
ヘルツプロイベーレには、カオススライム ヒルコ