いじめられっ子、助かる
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「いやぁ、ダンジョンに子供がいるとか、ほんとびっくりだよ。絶対に魔物だと思ったよ。」
あははと笑いながら、俺に声を掛けた女性。肩に弓を担いでいるレンジャーのユウさんが喋り続ける。
「まったくだ。君は、なんでこんな所にいるんだ? ほんとに魔物じゃないよな? インプとかだったりしないよな?」
このパーティーのリーダーだという、剣士のケインさんの声が続いた。
ケインさん達のパーティーは、長期のダンジョン探索をしていて、地下25階への階段までのマッピングを終えて、一時帰還する途中なのだという。
まさか、こんな所で子供に出会うとは、相当驚いたらしく、出会ってしばらくは質問攻めにあうこととなった。
――そりゃね、ダンジョンの奥地であるはずの、こんな所に丸腰の子供が膝を抱えて座り込んでいたら、怪しさ満点。冒険者だもの、魔物ではないだろうかと警戒するのは当たり前だよね
ダンジョンの裂け目と呼ばれる崖から落とされ、幸運に恵まれ、なんとかここまで戻ってきたとして、これまでの事を説明した。そして、なんとか助けてもらえないかと頭をさげた。
リーダーのケインさんは、最初こそ魔物ではないかと警戒していたが、しっかりと受け答えした俺の事を信用してくれたようで、すぐに了解してくれた。
合わせて、レンジャーのユウさんも、ケインが良いなら問題ないと、二つ返事で認めてくれた。
二人の話によると、ケインさん達に出会った所は、地下16階へ上がる階段だったようだ。
という事は、俺は地下20階まで落下した事になるわけで………俺、よく生きていたな……。
無意識にアンチバリアに全力を注いでいたのだろうか。全身打撲にはなったけど、それだけで済んだといえる。やはり幸運に恵まれたとしか言えそうもない。
「しかし、酷い奴らもいたもんだよ。困った時はお互い様だからね。地上まで送ってあげるよ。ただし、崖から落ちて無事だなんて、ちょっと信じ難い話だ。完全に信用するわけにはいかないから、僕らの隊列の真ん中を歩いてもらうよ。」
静かにこう話すのは、優しい雰囲気だが、ちょっと目が怖いライトさん。杖を持ってるし魔法使いかな?
先頭を歩く、身体の大きな盾持ちのパーンさんは、一言も喋ろうとはしない。また、僕の後ろを歩く聖職者風の女性、ソーンさんも優しく微笑むだけで、俺と会話を交わすことはなかった。
おそらく、この二人は俺への警戒が全く解けていないのだろう。
それでも、この人達の助けてもらえなければ、次のチャンスはもう来ないかもしれない。
このチャンスの逃せば、今まで繰り返してきた魔物との我慢比べを、出口に辿り着くまで、あと何日繰り返さなければならないか……。検討もつかない。
絶対にこの人達を怒らせたりできない……。
「――そう、孤児院にいるの。こんな子供が冒険者と一緒に荷物持ちでついて歩くなんて、ずいぶんと危険な仕事してるのね。小さな身体で、なかなか大変なことね。」
「――その三人組だっけ? 悪い奴等に当たっちまって、ひどい災難だったな。それにしても魔物に襲われながら、この広いダンジョンの中でよく生き残れたもんだ。頑張ったな。」
殿を歩くケインさんと、パーンさんのすぐ後ろを歩くユウさんが、道中ずっと話かけ続けてくれたこてもあり、崖に落とされてからずっと緊張し続けていた俺も、一階、また一階とダンジョンの階段を登るにつれて、緊張から解放されていった。
順調に帰り道を案内してもらい、無事にダンジョンの出口が見えた。
――あぁ、なんとか助かったのか