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長くて尖った耳


 目の前に現れた氷狼の姿に、パーティーメンバー全員の表情が固まった。


「フェンリルさん!? なぜ、ギルドマスターの部屋に!? サムギルド長、いったいどうなってるんですか!?」


 俺は、あまりの驚きで、つい大きな声でギルドマスターを問い詰めてしまった。今まで、何度も会おうとしても会えなかった氷狼が目の前にいるのである。それも、リンカータウンの冒険者ギルドの中の一室に。

 そんな俺たちの動揺を他所に、サムは余裕の表情を崩さぬまま、俺の質問に答えた。


「ヒロ君。驚かせてしまってすまない。実はね、僕はエルフ族でね。ダンジョン=インビジブルシーラの守護者、ハイエルフ、アエテルニタスの子孫なんだよ。――ここだけの話にしてほしいのだけど、使徒、氷狼のフェンリル殿と僕とは、旧知の仲なんだ。」



 美しい所作で頭を下げ、隠していてごめんと片目を瞑るギルド長は、悪びれもせずに氷狼を紹介する。「 フィリアにも話しちゃダメだよ 」と唇に人差し指を当てるポーズも、美形の男性がやると、なんとも様になるのだから参ってしまう。

 それにしても、管轄する冒険者ギルドのトップと管轄されているダンジョンのトップが知り合いって、そんなのありなのか。それと……、


「エルフって耳が長くて尖ってるんじゃないの?」


 俺は、その場に似合つかわない、素っ頓狂な質問をしてしまったことを後悔した。つい、前世のファンタジー世界を思い出してしまったのだ。エルフといえば、長くて尖った耳で、超がつく美形。華奢な身体で長命の種族というイメージだったもの。



「何を言っているのかよくわからないけど……、耳の形は君たちと変わらないよ。でも、僕は正真正銘、エルフ族だよ。歳は今年で862歳になる。若く見えるだろ? 」


 サムは、ちょっと困った顔で俺に説明しながら、ソファーの後ろへとゆっくりと回り込む。


「――ったく、お前は相変わらず、訳のわからない常識してんな!? エルフの耳が尖っているわけねぇだろ? 」


 

「改めて紹介するね。ダンジョン=リンカーアームの守護者。氷狼のフゥンリル殿だ。」


 態とソファーに座る氷狼の後ろに立ち、メンバー全員の視線を氷狼へと誘う。氷狼は、その大きな身体を背中を丸めるようにして座っていた。そして、脚を組み直すと、俺に向かって切れ長の目を向けた。



『――お前、第3の才能に目覚めたんだってな。サムから聞いたぞ。ちっとは実力がついてきたみたいだからな。お前にも、そっちの俺の眷属にも、少し俺たちの事を教えておいてやろうと思ってな。』


 その言葉に反応したのは、特異の歴史学者であった。


「そ、それは我々の知らない、真実の歴史について教えてくれるということですか!? それは、我々全員が聴いても良いのですか!? 」


『ん? あぁ……。お前たちは、ジヌの息子の仲間なんだろ? 教えてやってもいいと思っている。ただし、この話を聞けば、お前たちにも危険が降りかかるかもしれん。その覚悟がないなら、話を聞かずにこの部屋から出ていくという選択肢もあるが――、どうする? 』



 一拍の間を置いて、真っ先に答えたのはアメワだった。


「――私は、カヒコを死に追いやったあなたを許しはしない。でも、ヒロ君やナミ、ナギだけを危険な目にはあわせない。だから……、だから私は、あなたの話を聞かせてもらいます。」


 それに続いて、ライトとソーンが頷き、2人は、そっとアメワの震える肩に手を置いた。2人の気遣いに、アメワの肩の力も抜けていく。



「おう、お前はあの時、こいつと一緒にいた女だったか。恋人がダンジョンで死んだんだとか言っていたな……。」


 アメワは、歯を食いしばって、氷狼を罵しりたくなる気持ちを飲み込んだ。ここで言い争いをしてもしょうがない。それよりも、しっかりとパーティーのみんな守るために知らなくてはならない事があるのだから。

 そんな決意の表情のアメワの姿を見て、ひとつ、大きなため息を吐きながら氷狼はソファーに背を預ける。


『わかった……。本当は、簡単な話だけにするつもりだったが、そっちの嬢ちゃんの件もある。嬢ちゃんが納得するかはわからないが、もう一段、深いところまで話してやろう。』


 サムが少し驚いた表情をしたが、氷狼はサムを左手で制して話を付け加えた。


『だが、最初に言っておく。この話を周りに話したところで、誰も信用などしないだろう。お前たちが信じる常識からは、だいぶかけ離れている話になるからな。……信じるかどうかは、お前たち次第だ――。」



 誰からも異論が無いことを確認して、氷狼は満足気にまた足を組み直した。


「さて、少し長い話になる。サム、茶でも入れてくれや――」



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拙い文章ですが、読んでいただいている皆さんに感謝です。楽しんでいただければ幸いです。
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